今回は、医師の監修のもと公認心理師が、多くの人が悩み緊張(過緊張)とその原因として考えられるトラウマとの関係についてまとめました。よろしければご覧ください。
<作成日2016.7.8/最終更新日2024.5.30>
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに
・“緊張”とは何か?
・なぜリラクセーションなどでは“緊張”は取れないのか?
・内面化された「危機(トラウマ)」によって引き起こされる「過緊張」
・幼い頃のトラウマによる特徴的な症状~「見捨てられる不安」
・“緊張”が高すぎると、本人も“緊張”に気がついていないことも多い
・トラウマの衝撃で、“緊張”(テンション)のコントロールがうまくいかなくなる
・あらためて“緊張”とは何か?~自分が自分でいれなくなること
・過緊張かどうかをチェックする
・“緊張”を解消する方法~トラウマを除去する
関連する記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「あなたの仕事がうまくいかない原因は、トラウマのせいかも?」
▶「災害時(地震、台風、事故など)のPTSD・トラウマ、ストレスと心のケア」
緊張しすぎることを「過緊張」といいます。実は、これは単に性格、体質の問題ではなく、トラウマや愛着障害から生じていることがあります。過緊張はトラウマによって生じるもっとも身近な症状のひとつなのです。そのため、リラクセーションや自己啓発といったことだけでは、改善はなかなか難しいものです。
もし、緊張しすぎるということでお悩みでしたらトラウマの影響を疑ってみる必要があります。
はじめに
私たちが感じる悩みで上位に来るのが“緊張”という悩みです。緊張は誰にでもあることですが、本来緊張するはずではない場面で緊張するようでしたら困りものです。大切な仕事で失敗してしたり、自分が伝えたいことを伝えることができなくなります。
本当だったら、もっと活躍できるはずなのにできなかったり、挙動不審になったりして相手からも誤解され、落ち込んでしまいます。
「私は、緊張しやすいんだよな~」
「いつも、リラックスできない」
「人と一緒にいても楽しくない」
マッサージに行ってほぐしてもらったり、心理学にくわしい方なら、瞑想などをしてみたり、あるいは自己啓発に取り組んで見た方もいらっしゃるかもしれません。少しは緩みますが、根本的には解消する気配はありません。こんなことはありませんか?
あなたが感じている“緊張”の原因。実は「トラウマ」のせいかもしれません。トラウマというと、特別なことのように思うかもしれませんが、トラウマを抱えていない人はいないといってもよいくらい多くの人が影響されているものです。
今回の記事では、トラウマによって引き起こされている“緊張”(過緊張)について記事をまとめてみました。
“緊張”とは何か?
生理的に見た“緊張”とは、ストレスに直面した際に視床下部を通じ自律神経の働きによってコルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンなどのホルモンが分泌され、交感神経が活発になり、危機に備えようとしている状態です。肝臓ではブドウ糖が増産され、エネルギーに変換するために心拍数も増大します。血流の増加で筋肉も硬くなり、震えるようになります。体温上昇を緩和させるために汗も多量に出るようになります。
また、脳にもホルモンが伝わり、海馬などが刺激され、過去の不安な記憶がよみがえるようになります。
このように、“緊張”とはもともとは悪いものではなく、私たちが危機を乗り越えるためになくてはならないものです。車のエンジンが全開になったり、コンピューターがフルに稼働するように、必要なことです。
ただ、私たちが困るのは、本来は危機ではない状況でも緊張してしまうことにあります。
なぜリラクセーションなどでは“緊張”は取れないのか?
“緊張”をほぐす方法としては、さまざまな方法があります。そのような本も出ています。もちろん、まったく効果がないわけではありませんが、多くのケースでは対症療法の域を出ません。
なぜでしょうか?
それは、自己啓発やリラクセーションの世界では、“緊張”を単なる「考え方の問題」や「(一時的な)ストレス、自律神経の失調」というとらえ方をしているからです。
たしかに、“緊張”が、考え方の問題や一時的なストレス、自律神経の問題ということでしたら比較的容易に解消されていくでしょう。しかし、“緊張”が起きる原因はそれだけではありません。現在の問題は解決されるかもしれませんが、過去から積み重なった影響についてはなかなかその効果が届かないからです。
そこで注目されるのは「トラウマ」の影響です。
内面化された「危機(トラウマ)」によって引き起こされる「過緊張」
トラウマとは、簡単に言えば「ストレス障害」のことをいいます。通常、過度または慢性的なストレスによって心身のバランスが乱れ不調をきたしてしまうことです。心身のバランスが乱れる、ということは、言い換えれば、その人の内面が平常ではない、危機にあるような状態であるということです。
「フラッシュバック」と言いますが、同様の状況に接したときに無意識に不安、恐怖が沸き起こり、知らず知らずに危機を回避するような行動をとってしまうこともあります。その人にとっては、常に危機にあったころで時間が止まっているような状況です。強いフラッシュバックはなくても、常に危機に備えるように、身体は反応して常に備えようとしていることはあります。
その状態のことを「過緊張」と言います。
ストレス応答系(免疫系、内分泌系、自律神経系)の失調、そして、自己に関わる心理、社会との関係など様々なことが重なっているため、リラクセーションなどでは容易には緊張を落とすことはできません。緊張緩和の方法を行っても結局のところ根本的にはよくはならない、という経験をするのはそのためです。
幼い頃のトラウマによる特徴的な症状~「見捨てられる不安」
“緊張”を高めるもう一つの要因として、「見捨てられる不安」があります。「見捨てられる不安」とは、幼い頃に受けたトラウマがひき起こす特徴的な症状の一つです。
幼い頃のトラウマとは、かつてはなんでもないと思われていた日常のストレスによって生じます。親のケンカ、暴言や暴力はトラウマになることが分かっていますし、引っ越しなど急な環境の変化もトラウマとなる可能性が指摘されています。「関係性のストレス」といいますが、不安定な親、過干渉な親のもとでもトラウマが生じる可能性が指摘されています。
トラウマというと暴力を伴った虐待やネグレクトといった激しい行為によって生じるイメージがあるかもしれません。しかし客観的には虐待に相当しなくても、両者の関係性が「かみ合っていない」(=関係性のストレス)によって生じる場合もあり得ます(例:カサンドラ症候群)。
町中でも、子どもに対して乱暴な言葉を投げかけている親御さんを見かけることがありますが、実際に虐待に相当する関係性が潜んでいるかもしれません。たとえ丁寧な言葉遣いであってもベースにある「関係性」がストレスフルならばそれは虐待に相当するものを含んでいるかもしれません。これを「関係性のストレス」と呼ぶのです。
特に、自立していない子どもにとって、親から捨てられることは死を意味します。そのため、子ども時代にトラウマを受けると、強い「見捨てられ不安」にさいなまれるようになります。
そして、成長した後も「見捨てられ不安」に襲われて、対人関係では常に「見捨てられるのではないか?」として、意識レベルでも“緊張”を強いられます。
そして、人に気を使いすぎる状態まで達すると「過剰適応」とよばれる状態になります。「過剰適応」とは、わかりやすく言うと「いつも気を遣いすぎてへとへと」ということです。
私たちの“緊張”とは、リアルタイムなストレスや考え方の問題だけではなく、「トラウマ」と「見捨てられ不安」によって引き起こされていることがわかります。
火事でいうと、“煙”が「緊張」で、“火”が「トラウマ」であり、「見捨てられ不安」です。“火”を消さないと煙のように次々と立ち上る“緊張”をおさえることは難しいのです。
“緊張”が高すぎると、本人も“緊張”に気がついていないことも多い
明らかにご自身で“緊張”を感じていて悩んでいる方はまだよいですが、幼い頃から高い緊張状態が続いていると、それが当たり前になって本人も気づいていないこともあります。感覚というのは相対的なものですから、比較するものがないとなかなか気がつきません。
ただ、よくよく確認していくと、
・「自然体」という感覚がない
・「リラックス」できていない
・人といても楽しくない
といった感じを普段から持っていることがあります。
若い頃はなんとか乗り越えていても、かつてのエネルギーも下がり、トラウマの長期の影響が出始めると、常に“緊張”し続けていることには無理が生じます。生活で支障が起きるようになって、“緊張”の緩和の必要に迫られるようになります。
トラウマの衝撃で、“緊張”(テンション)のコントロールがうまくいかなくなる
ラットを使った実験では、強いストレスを与えたネズミは、ストレスを除いた後も強いストレス反応が出続けるそうです。“緊張”をコントロールするセンサーがおかしくなってしまい、環境に合わせることができなくなってしまうからだと考えられます。
特に対人関係では相手のテンションに合わせることが求められます。しかし、”過緊張”の人は、相手の“緊張”の度合いが10段階で2程度の場合も6か7の“緊張”で接してしまったり、逆に、相手が8,9くらいの緊張(テンション)の場合、早々に脳が疲労状態となってしまい、ついていくことができず、逆に“緊張の糸”が途切れてストンと緊張度が下がってしまいます。通常の人でも経験することのある飲み会などで、周りが騒いでいるけど自分はどこか醒めた目で見ているという感覚がそれです。
このような状態では周囲の人間とペースを合わせることができず、「一緒にいても楽しくない」となってしまうのです。
“緊張”(テンション)のコントロールは、無意識レベルのことですから、意識でいくら盛り上げよう、リラックスしよう、としてもなかなか難しいものです。意識で緊張をコントロールしようとすると無意識(自律神経)の力の強さの前に敗れてさらにみじめな状態になります。
脳は、今まさに危機を上演しているトラウマに備えている状態で、さらに「見捨てられ不安」にもさいなまれています。認知レベルの解決で一生懸命、緊張をコントロールしようとしても、なかなか難しいものです。
パソコンでいえば、オペレーションシステムが未処理のプロセスの処理に高レベルで稼働している状態なのに、さらに高負荷なアプリを起動してしまっているような状態です、やがでCPUの活動レベルは限界を超え、ついにはパソコンは固まって動かなくなってしまいます。
あらためて“緊張”とは何か?~自分が自分でいれなくなること
あらためて“ 過緊張”とはなにかといえば、場面にそぐわない極度の緊張のため自分が自分でいれなくなることです。
自分はそこにいるけども自分ではない、なのに目の前の仕事はしないといけない、対人関係を処理しないといけない・・・・ できるわけがありません。ミスをしたり、うまく対応できなくなり、自分を責める結果となります。
私たちは直感的に、自分がおかしくなることを感じていて、その状態から抜け出したい、と感じています。
過緊張かどうかをチェックする
トラウマによる過緊張状態にあるかどうかのチェック
自分が過緊張にあるかどうかをチェックするためのリストを作ってみました。いくつ当てはまるかチェックしてみてください。
□人にはかなり気を遣ってしまう
□飲み会など人が集まる場ではとても気疲れする
□プレゼンテーションなど発表がとても緊張する
□人との会話で何を話してよいかわからなくなることがある
□人からどう思われるかが気になる
□「自然体」の感覚がよくわからない
□上手にリラックスすることができない
□人の集まりから家に帰った後に、気持ちがたかぶることがある
□スポーツなどで力みやすい
□目や肩などがよく凝るほうだ
□緊張から頭痛になることがある
□表情が硬いといわれることがある
□身体が硬い
□子どものころ、親同士のケンカを見たことがある
□子どものころ、親の暴言や暴力を見聞きしたことがある
□親から暴言や暴力を受けたことがある
□3,4歳のころ引越を経験したことがある
□親が自分のやり方、考え方を子どもに強いることがしばしばあった
□子どものころの記憶が薄い。あまり思い出すことができない
□目上の人に必要以上にへりくだってしまうことがある
<結果の見方>
3以下 過緊張の可能性は低いです
4~8 過緊張の可能性が疑われます
9以上 明らかに過緊張にあると考えられます
※リストや結果は暫定のものです。あくまでも目安としてください。
“緊張”を解消する方法~トラウマを除去する
「トラウマ」と、トラウマによる「見捨てられ不安」から引き起こされた“緊張”を解消するためには、トラウマをケアする必要があります。
関連する記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
バベット ロスチャイルド「これだけは知っておきたいPTSDとトラウマの基礎知識」(創元社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
飛鳥井 望「PTSDとトラウマのすべてがわかる本」(講談社)
大嶋信頼「それ、あなたのトラウマちゃんのせいかも?」(青山ライフ出版)
「季刊 ビィ 2015年9月号」(アスク・ヒューマン・ケア)
白川美也子「赤ずきんとオオカミのトラウマケア」(アスク・ヒューマン・ケア)
ベッセル・ヴァン・デア・コーク「身体はトラウマを記録する」(紀伊國屋書店)
ブルース・マキューアン&エリザベス・ノートン・ラズリー「ストレスに負けない脳」(早川書房)
ロバート・M・ サポルスキー「なぜシマウマは胃潰瘍にならないか」(シュプリンガー・フェアラーク東京 )
ステファン・W・ポージェス 「ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」」(春秋社)
ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)
ドナ・ジャクソン・ナカザワ「小児期トラウマがもたらす病」(パンローリング出版)
ナディン・バーク・ハリス「小児期トラウマと闘うツール――進化・浸透するACE対策」(パンローリング出版)
川野 雅資「トラウマ・インフォームドケア」(精神看護出版)
野坂 祐子「トラウマインフォームドケア :“問題行動"を捉えなおす援助の視点」(日本評論社)
「精神療法 第45巻3号 複雑性PTSDの臨床」(金剛出版)
など