今回は、医師の監修のもと公認心理師が、買い物依存症の治し方についてわかりやすくまとめてみました。
<作成日2017.12.30/最終更新日2024.5.26>
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・はじめに~買い物依存症を治す(克服する)ために
1.買い物依存症の原因(背景)を知る
2.買い物依存症の心理とメカニズムを知る
3.私たちにとって、「買い物(消費)」とは何か?
4.買い物依存症の症状と特徴を知る
5.買い物依存症を治すために必要なことを知る
→依存症の原因や治し方については、下記をご覧ください。
依存症の背景には、必ずと言ってよいほど、愛着不安、トラウマの存在があります。専門家は依存症のことを「未熟な自己治療」と呼んでいますが、愛着不安、トラウマの影響から来る不全感を癒やすために何かに依存するのです。単なる浪費や使いすぎといったレベルから借金を背負うところまで程度は様々ですが、買い物依存でお悩みの方はとても多くいらっしゃいます。買い物の場合は、単に消費する刺激だけではなく、服や車や宝飾品などは自分のステータスや自己肯定感を補強するという意味があります。買い物依存症を治すためには、原因など適切な知識を知ることもとても大切です。
はじめに~買い物依存症を治す(克服する)ために
買い物依存症を治す、克服するためには、必要な治療を受けるだけではなく、どういった背景から問題が生じているのか?その原因やメカニズムを知る必要があります。
知識があることで無用な自己否定や自尊心の低下を防ぐことができたり、踏みとどまれる機会が増えるなどの効果があります。そのため、この記事では、単に治療法というだけではなく背景などの情報も合わせて提供しています。
1.買い物依存症の原因(背景)を知る
依存症とは、単一の原因で起こるわけではなく、複数の要因が重なって生じます。
その要因として考えられるものをまとめています。
・養育環境の影響~トラウマや愛着障害
依存症の要因として最も大きなものは、養育環境の影響です。養育環境の問題は愛着障害(不安定型愛着)を生むことが分かっています。また、長期にわたるストレスにさらされることでトラウマを負うこともあります。
トラウマや愛着の問題を抱えていると、自己愛が傷ついた状態となり、常に不安やむなしさを感じます。また対人関係がうまくいかないことが多く、依存症に陥りやすくなります。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
・過度なストレスや居場所の喪失
職場や家庭などで、自分の居場所を失ったり、過度なストレスにさらされることが原因となることがあります。買い物によってストレスを解消し、自分の居場所を回復しようとするのです。
・性格気質(“意志が弱い”ために依存になるのではない)
依存症に陥る人は意志が弱いのでは?というイメージがありますが、実はそうではありません。むしろ逆で、一般の人よりも意志が強く、真面目で完璧主義で負けず嫌いなところがあります。ただ、対人関係が苦手で自尊心が低いために、うまく人に頼ることができません。さらに、依存症自体は脳の報酬系の失調によって習慣化されますので、意志の問題に関係なく陥る病気です。
・消費社会の影響
社会的環境も影響を及ぼします。現代では消費を誘う広告や、カードなど支払より先に欲望を満たす手段も多く、買い物依存症を生みやすい土壌があります。貧しい社会や社会主義社会などでは買い物依存症は起こりえません。
2.買い物依存症の心理とメカニズムを知る
・脳の報酬系の失調
買い物依存症とは、依存症の一種です。依存症には大きく分けて2種類あるといわれます。物質依存とプロセス依存です。買い物依存症は、プロセス依存に含まれます。プロセス依存とは、特定の行動を行うことで脳内で快感をもたらし、生きづらさやストレスなどの苦痛を緩和することです。
依存症全般に共通するのは、脳内の報酬系と呼ばれるメカニズムの失調です。
私たちは、子どもの頃は我慢ができず、目の前のお菓子と少し先のご褒美をてんびんにかけても、我慢ができません。わかっていても目の前のお菓子をとることも多いのです。
これは脳がまだ成熟しておらず、報酬系が短期のサイクルで回っているために起きる行動です。子どもから大人になるにつれて、長期の成果を得るまで我慢をしながら行動をすることを身に着けていきます。
依存症はこれらを逆に回してしまいます。買い物からの快感といった強い刺激が短期で与えられることで、長期の報酬を我慢するということが利かなくなり、徐々にサイクルが短くなり、依存状態へと陥ってしまうのです。
・未熟な自己治療~乏しいネットワークの結果としての買い物依存
依存症には、自らが抱える苦痛を目の前にあるつたない手段で解消しようという「未熟な自己治療」という側面があります(「自己治療仮説」)。
人間は強いストレスを被った際、本来はうまくストレスをそらしたり、緩やかに他者に頼りながら解消していきます。しかし、依存症に陥る人は、ネットワークが乏しく、頼る先が自分や目の前の「買い物」しかありません。
緩やかにいろいろなものに頼ってして、場合によっては環境を変えてという普通のスタイルをとることができず、一人で何とかしようと工夫(治療)する果てに、にっちもさっちもいかなくなる、というのが買い物依存症という症状なのです。
・ストレス解消の手段としての消費
自分へのご褒美という口実で、高価な品物にお金を使ってストレスを発散する、という行為をよく耳にします。ストレスの高い職についている人に多く見られます。お酒で発散するといったことと同様に、適度であれば問題とはなりません。
“依存症”といえるかどうかは、ストレスが去るとそうした行為は軽減、消失するかにあります。依存症の場合は、常に漠然とした苦痛があるために、買い物依存はなくならず、経済的に困窮するまで続きます。
3.私たちにとって、「買い物(消費)」とは何か?を知る
普段、私たちは、スーパーやコンビニ、インターネットなどで買い物をしています。
生活必需品もあれば、おしゃれ、ぜいたく品、スポーツ、旅行などレジャーまで「買い物(消費)」の内容、手段、目的は本当に多様なものです。
・「買い物(消費)」とは自己表現
「買い物(消費)」については、経済学、経営学から社会学、心理学までさまざまな視点での研究があります。消費とは、単に、モノとお金を交換して物質的な不足を満たすことではありません。私たちにとって消費とは、自己の顕示・自己表現であり、身体の拡張や変化であり、それ自体快楽でもあります。
生活必需品であっても、例えばお米でも、よいブランドのものを買うと心地よかったり、社会的なステータスを感じます。逆に、あまりにも安いと貧しさから少し胸が痛むこともあるかもしれません。単におなかが膨れれば良いというものではありません。
洋服などは典型的ですが、おしゃれな服を買うと、途端に自分が何か別のものになったような大きくなったような感覚を感じることがあります。洋服自体が身体が拡張した存在のように感じられます。自分自身の価値そのものが高まったように感じるのです。
・心の悩みは「買い物(消費)」に現れやすい
このように、買い物(消費)とは私たちの自己そのものに密接にかかわる行為です。そのため、特に消費社会、自己愛型社会である日本においては、心の悩みが買い物依存症という形で表れやすいのです。
4.買い物依存症の症状と特徴を知る
・繰り返される買い物による借金
買い物をして一時的に楽になっても、いずれ再び不快感が襲ってくるために、さらに対処行動としての買い物が繰り返されます。そして、自分の経済的な限界を超えて買い物を行ってしまい、カード、キャッシングなどで借金を抱えてしまいます。
・否認(病識の欠如)
依存症の特徴として、自らが依存症であることを否定する、ということがあります。
依存症の背景には自己愛の傷つきが潜んでいますが 依存症を認めることで「自分はおかしな人間」と見られてしまい、さらに自尊心が傷ついてしまうことを恐れてしまいます。
・症状の多様さと症状の波
依存症は典型的な症状ばかりではなく、ケースによってその在り方はさまざまです。
ある時はぴたりとやめたり、症状に波があったり、といったこともあります。
典型的な症状ではないから大丈夫と思っていたら、実は依存症だったという場合もあり、注意が必要です。
・他の依存症との併存(クロスアディクション)
依存症では、他の依存症との併存もしばしば見られます。依存症は、その根本の要因は同じであるため、原因はそのままに依存の対象が変わるといったこともあります。複数の依存症にかかったり、移行したりすることをクロスアディクションと言います。
5.買い物依存症を治す(克服する)ために必要なことを知る
・自分が買い物依存であり意志の力では解決できない、という自覚を持つ
まずは、自分の状態が「買い物依存」という病気であり、意志の力では解決できないことを自覚することが必要です。自覚をする上で大切なことは、自分が悪いと思ったり、ダメな人間だとして反省したりしない、ということです。そうした行動はさらに悪化させてしまいます。“自覚をする”とは、問題が「依存症」という病気のせいであり、自分には問題がないと、自分を免責することでもあります。
・イネーブリングに注意する
家族や周囲の人が、心配したり、世話を焼くことで、かえって依存症が継続することを「イネーブリング」といいます。周囲が「援助」することによって、本来は持続不可能な間違った対処行動を結果的に「持続可能」な状態にしてしまい、より悪い状態を招いてしまうことをイネーブリングと呼びます。後述する底つき体験を早める意味でも、周囲は過剰な援助を控え、本人自身に責任を取らせるような「逆説的支援」が求められます。
・愛着不安、トラウマをケアする
依存症の原因において、大きな部分を占めるものが、愛着やトラウマの問題です。
これまでの養育環境において傷ついてきた自己愛を癒す必要から依存状態に陥ってしまっています。愛着やトラウマのケア(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、FAP療法、など)については、専門家の助けが必要です。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
・自助グループに参加する
買い物依存についてもDAと呼ばれる自助グループが存在します。
自助グループでは、基本的には当事者たちが言いっぱなし、聞きっぱなしで自分の体験を話すことが行われます。
→依存症の原因や治し方については、下記をご覧ください。
(参考・出典)
菅原道仁「そのお金のムダづかい、やめられます 脳のしくみを知るだけで、浪費は“自然と”消えていく」(文響社)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)
など
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。