性別違和、性別不合(性同一性障害)とは何か?

性別違和、性別不合(性同一性障害)とは何か?

ハラスメント・生きづらさ

 近年、広まってきました「性別違和(性別不合)」あるいは、「LGBT」という概念。セクシャリティは、決して特定の人たちの問題ではなくて、私たちすべてにかかわる大切なことです。セクシャリティについて知ることは、私たちが自己理解を深めるためにもとても大切です。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、性別違和(性別不合)とは何か?についてまとめてみました。

 

<作成日2017.7.9/最終更新日2024.6.2>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

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この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

セクシャリティとは何か?
セクシャリティの要素
LGBTとは何か?セクシャリティの概念と分類

発達段階におけるセクシャリティの発達

性同一性障害から性別違和(性別不合)へ~その診断基準

セクシャリティの悩みの特徴

セクシャリティの悩みに対するケアで大切なこと

 

専門家(公認心理師)の解説

 近年急速に理解、認知が進むようになったLGBTQ。これは決して”マイノリティ”に対する理解ということではなく、すべての人にとっての自己理解の深化を意味します。自分は性別も性的指向もいわゆる社会で一般的とされる「男性」「女性」を自認している方であっても、内面に構成する要素には女性性、男性性、あるいは区分けできない要素を含み常に揺らいでいます。年齢を重ねる中で新しい性的なアイデンティティを自覚するというケースも珍しくありません。まだまだフォビアや偏見も多いのですが、偏見を持つ側も自覚せざる当事者である、というのもLGBTQの問題の特徴の一つではないかと思います。

 当センターでも、さまざまな性的アイデンティティを持つ方がお見えになられます。そうした情報もカウンセリングを行う上での要素として承って進めていきます。中には、幼少期の性的な逆境体験の結果、自らを守る寄る辺として身体的な性別とは異なる性自認や性的指向を持っているという方もいらっしゃいます。私もまだ確実に申すことができませんが、資質と生育の中での経験とが相まってセクシャリティは表象されています。

 

 

セクシャリティとは何か?

 「セックス(生物学的な性別)」「ジェンダー(社会的・心理的性別)」という区分についてはご存じの方も多いのではないかと思います。

 

 ただ、知識としては知っていても、「自分には実際的には関係ない」とお考えではないでしょうか。
 なぜなら、多くの方は、社会から提示される男性、女性という規範におおむね沿って生きており、性別違和も自覚せずに生きていらっしゃるからです。ジェンダーが問題になるのは、従来の性に関する規範などが現実にそぐわない時(性差別を受けた時など)や、具体的な問題を感じたり、性別違和で悩んでいる場合です。

 

 

・セクシャリティとは揺らぎのあるもの

 実は、セクシャリティとは、実際に思っている以上に複雑であり、揺らぎがあるものです。

 例えば、帰属する共同体に対するアイデンティティ、職業に対するアイデンティティ、自己というものへのアイデンティティなどを見てもわかります。それが問われないときはもう当たり前のように思いますが、帰属するものが変わったり、揺らいだりした時はアイデンティティの再構築が必要となります。

 それが果たせずに、生きづらさを抱えたり、場合によっては自らの命を絶ったり、ということも生じます。

 人間は、当たり前に見えながら、自らを構成する要素やアイデンティティが日々、発達し、変化し、移行しながら人生を歩んでいく存在です。

 

 セクシャリティも同様に、当たり前と思っていますが、子どもは自分が女の子か、男の子かがよくわからない時期があります。最初から男の子、女の子というアイデンティティは当たり前にあるものではありません。
 発達の中で生物学的に、社会的に揺らぎながら形成されていくものです。大人になれば完成ということもありません。常に揺らぎがあります。

 

 

・私たちは、女性性、男性性、両性性をもつ

 そのために、私たちの中には、男性ならその反対の女性性、女性なら男性性も持ち合わせています。さらに細かくいえば、既存の二文法的な性を超えた性の要素(男性でも女性でもない要素)もあります。

 例えば、男(女)ばかりの密度の濃いグループの中では、男性(女性)同士の絆や友情が強く芽生えることがあります。また、「男が男にほれる」「男前の女性」「繊細な男性」「草食男子」「肉食女子」なども対極の要素を持ち合わせる例として挙げられるかと思います。

 

 

・誰もマジョリティではない

 下記に書きますが、性にはセックスとジェンダーだけではなく、さまざまな要素があります。それらを掛け合わせると、私たち自身も必ずしもマジョリティだとは言えません。

 セクシャリティの問題はある特定の人たちの問題ではなくて、スペクトラムとして私たちにもずっと連続してかかわる問題であり、私たちは誰もがそれぞれが〝セクシャルマイノリティ”であるといえます。
 

 

 

セクシャリティの要素

 セクシャリティには以下の要素があります。

・戸籍上の性別

 いわゆる戸籍上で登録されている性別です。

 

・身体的性別

 身体的な性的特徴 男性女性だけではなく、インターセックスと呼ばれる、非典型的な特徴を持つ方もいらっしゃいます(医学的には性分化疾患と呼ばれます)。

 

・性同一性

 自分がどの性別(男性、女性、その他)だと感じているか?というものです。よく誤解されていますが、性同一性とは身体的性別と心理的、社会的性別が一致していることではありません。自分の性別に関するアイデンティティのことを指します。男性、女性だけではなく。いずれにも規定されない性別ということで、「Xジェンダー、あるいはエイジェンダー」と呼ばれるカテゴリーがあります。

 

・性役割

 社会における性別の役割のことです。女性としての役割、男性としての役割など

 

・性的指向

 好きになる対象の指向のことです。男性なのか、女性なのか、その他なのか? さらに細かくは、マスターベーションの対象、セックスの対象、魅力を感じる対象、恋愛の対象、独占したい対象、あこがれの対象、などに分かれます。

 

・性的嗜好

 性的な興奮を喚起するもの。フェティシズム、年齢、方法、手法など。

 

 

 

LGBTとは何か?セクシャリティの概念と分類

・LGBT

 「LGBT」とは、最近急速に認知が広まってきた概念です。

 LはレズビアンGはゲイBはバイセクシャルTはトランスセクシャルの略です。
 トランスセクシャルとは、簡単に言えばオカマ・オナベと呼ばれてきた方です。 

 この分類には批判もあります。それは3点あります。
 ・1点目は、この分類に収まらない人たちがいるということ。

 ・2点目は、上記に関連しますが、それぞれの要素は独立しているものではなく複数の要素を持つ方がいるということ。

 ・3点目は、概念が普及することでメリットもあるが、表面的な理解や誤解も広まる恐れがある。
というものです。

 

・その他の表記

LGBTTIQQ2SA

 上記に対して、「LGBTTIQQ2SA」という表記もあります。

 2番目のTは、トランスセクシャル のことで、いわゆる性別適合手術を受けた方のことです。Iはインターセックス(性別の文化が非典型的な方)、Qはクエスチョニング(自らの性別を模索中の方)、クィア(元は「変態」という蔑称ですが、それを敢えて用いてラディカルにセクシャルマイノリティ全体を指すもの。これで自己規定する方のことをクィアという)、2Sとは、ツースピリット(男女両方の気持ちを持つもの)、Aはアライ(いわゆる異性愛者であっても、多様な性の在り方に支持を示す人)ということです。

 

LGBTQQIAAP

 また、「LGBTQQIAAP」という表記もあります。
最後の、AとPは、Aがエイセクシャル(無性愛者:性愛や恋愛の感情を他者に持たない人たち)、Pはパンセクシャル(全性愛者:性別を越えて他者に魅力を感じる人)のことを指します。

 

SOGI

 さらに、「SOGI」という概念もあります。
SOとは、性的指向のことです。GIとは性同一性のことで、カテゴリー分けではなくて、何が問題化に焦点を当てた概念です。

 

 これらのカテゴリーはもちろん便宜的であり、複数カテゴリーにまたがる人もいますし、移行する場合もあります(例えば、トランスセクシャルで、かつホモセクシャルあるいはバイセクシャルということもあります)。概念はあくまで便宜的なものです。理解する上では、前項で示した要素を組み合わせる形で理解したほうがマジョリティであるとされる性別違和を持たない人たちとの連続性をとらえやすいといえます。

 

(参考)人口に対するLGBTの割合

 LGBTは目に見えず、また回答する側の懸念も反映してか、はっきりとした統計はありませんが、セクシャルマイノリティの割合は3~6%(20人に1人)とされます。概念の変化や調査設計などによっては、既存の調査や研究で示されているよりも実際は多い可能性があります。

(出典:「こころの科学 189号 特別企画:LGBTと性別違和」(日本評論社)

 

 

 

発達段階におけるセクシャリティの発達

 セクシャリティとは、固定のものではなく、発達段階によって変化していくものです。

以下のような段階があります。

 

・性別ラベリング習得の段階

 2,3歳の段階で他者の性別を区別できるようになります。 

 

・性別安定性習得の段階

 性別が時間を経ても安定していることを理解できる段階。
 お母さんは女でそれは時間がたっても変わらない、といったことです。
 5,6歳で習得されます。

 

・性別恒常性の段階

 表面的な姿が変わっても性別は変わらないことを理解できる段階です。他者への理解に伴って、自分自身の性別理解についても発達していきます。

 

 性別違和をもつ子どもは、性別恒常性の習得に遅れがある場合があるとされます。未成熟さが性別へのファンタジーを生んでいる可能性があります。そのため、成人になると8割程度は性別違和の基準を満たさなくなります。

 

 このようにセクシャリティはたくさんの要素からなりたち発達するもので、私たちが固定的に考えているものとは異なることがわかります。

 

 性別違和を持ち続ける子どもは、第二次性徴の時期を超えたあたりから、自らのセクシャリティの悩みを自覚するようになります。

 

 学校生活などでは不具合を生じるケースもあり、不登校の要因にもなります。だれにも相談できず、一人で苦しむケースも少なくありません。不登校の場合は、セクシャリティの問題がないかは慎重にケアすることが必要です。

 

 

 

性同一性障害から性別違和(性別不合)へ~その診断基準

 自らの性別について悩みや違和感を感じることを「性同一性障害」これまで表記されてきましたが、2013年のアメリカ精神医学会の統計マニュアル(DSM)では、より広いケースを包含できる「性別違和」と変更されることになりました。さらに、世界保健機関WHOのICD-11(国際疾病分類第11回改訂版)では、「性別不合」とされています。

 精神医学会のマニュアルに掲載されることは、疾患であることが継続することになりますが、かつてのような「異常」や「病気」というとらえ方から、徐々に当事者の人権を尊重できる概念へと進んできています。
 疾患というとらえ方を残したほうが、医療のサポート(手術やカウンセリングなど)を得やすい反面、病気という誤解も残るといったこと、多様なセクシャリティを人権に配慮できる概念名は何かについては今後も模索が続きます。

 

・性別違和の診断基準

以下のようなことが少なくとも6ヶ月、2つ以上によって示される。その状態は、悩み生きづらさ、社会、職業などでの困りごとと関連している場合に診断されます。

 1.その人が体験し、または表出するジェンダーと、第一次および/または第二次性徴との間の著しい不一致
 2.その人が体験し、または表出するジェンダーとの著しい不一致のために、第一次性徴および/または第二次性徴から解放されたいという強い欲求
 3.反対のジェンダーの第一次および/または第二次性徴を強く望む
 4.反対のジェンダーになりたいという強い欲求
 5.反対のジェンダーとして扱われたいという強い欲求
 6.反対のジェンダーに典型的な感情や反応を持っているという強い確信

 

 参考米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院)をもとに作成

 

 

(参考)性別違和は身体にとどまらない、社会的な悩み

 性別違和については、よく誤解されることの一つに、すべての人が性別適合手術を望んでいるに違いない、というものです。実際には、自らの身体的な特徴のままで過ごすことを求める人もいます。逆に、性別適合手術を受けても、転換した性を周囲や同性から受容されずに悩みを抱えるケースもあります。つまり、性別違和とは、身体的な問題だけではなく、社会的な問題(悩み)でもあるということです。

 

 

 

セクシャリティの悩みの特徴

・自殺未遂率や心の悩みを持つリスクの高さ

 セクシャルマイノリティは、周囲に相談できる環境が少ないことから、心の悩みを抱えやすいことがわかっています。また、ある調査によると、セクシャリティに悩みを持つ方は、自殺未遂の割合が6倍に上ることがわかっています(出典:TOKYO人権 第57号(平成25年2月28日発行))。

 

・周囲とのトラブル

 自らのセクシャリティを隠したり、違和感を持ちながら過ごしているために、周囲とのトラブルに巻き込まれることがあります。

 

・親を裏切るのでは?という苦しみ

 セクシャルマイノリティの苦しみは、単に本人が社会の中で生きていく苦しさだけではなく、親の期待にこたえられない、悲しませてしまう、裏切ってしまうことになるのではないか?というような苦しさがあります。

  
・帰属するグループや相談先がない

 例えば、ナショナリティ、エスニックといった問題であれば、歴史的、空間的な帰属先が明確なことが多いですが、セクシャリティの場合は明確ではなく、周囲は異性愛者に囲まれているため、より強い孤立感を感じます。
 また、いわゆる(社会で想定されている)家族を持てない、一人で生きていくしかない、と思っている方も多く、家族という帰属先を持つことに困難さを覚えている方もいらっしゃいます。

 

・身近にロールモデルがない

 セクシャルマイノリティには、身近にロールモデル(見本や模範となる人)がいないことが多く、自分のアイデンティティをどのようにとらえればよいのか、どのように生きればいいのかについて確立することがむずしいです。

 

・根強いホモフォビア

 社会にはホモフォビアなど、セクシャルマイノリティへの偏見や嫌悪感があります。そうした偏見や悪感情にも苦しめられます。

 

・セクシャルマイノリティ間での対立

 セクシャルマイノリティ間でも対立があります。
 例えば、あるカテゴリーの方たちが、自分たちのアイデンティティを確立して、社会に認めさせたいと考えている時に、そのアイデンティティを乱すような類似のカテゴリーは敬遠されることがあります。
 

 

 

セクシャリティの悩みに対するケアで大切なこと

・適切な知識を得ること

 当然ながら、適切な知識を持つことが必要です。特殊な問題ではなく、セクシャリティとはグラデーションがあり、その中に自分も位置付けられ、自らにもかかわることだと理解することが必要です。
 

 

・セクシャリティとは、「性的な」問題のことではない

 よくある誤解ですが、セクシャリティとは、性別にかかわるアイデンティティなどの問題であって、いわゆる「性的な(性的な営みや恋愛など)」問題を指しているわけではありません。

 より広範なアイデンティティの在り方にかかわるものです。アイデンティティについては、国籍、職業、自己などいろいろな側面があり、その重要な一つである、ということです。決してタブー視することなく、向き合うことが大切です。 

 

 

・打ち明けられたら前向きにとらえる

 本人からセクシャリティについて打ち明けられたら、前向きにとらえて、親身になって話を聞くことが大切です。

 

・アウティングしたり、推測で尋ねたりしない

 アウティングとは、ある人がセクシャルマイノリティであると本人以外の人が公にしてしまうことです。本人の許可なく公にすることは本人は信頼して打ち明けてくれていることを裏切ることになります。もしかしたら、さまざまな不都合が生じる恐れもあります。絶対にしてはならないことです。

 また、公にするためには、本人の気持ちが整ったり、準備が大切です。「もしかしたら、同性が好きなの?」というように、周囲から推測で尋ねたりすることも避けたほうが良いでしょう。

 

・カテゴリーで決めつけない~セクシャリティには揺らぎがある

 トランスジェンダー、ホモセクシャル、といったカテゴリーはあくまで仮のものです。カテゴリーでは収まらない特徴もありますし、時代とともに変化もします。また、本人が、「自分は~~だ」と言っていても、あくまで暫定で、揺らぎがあるものとして、一緒により本人が自分らしく生きられるセクシャルアイデンティティは何かをともに考えることが大切です。

 

 

 

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(参考・出典)

米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院)

「精神療法第42巻第1号―セクシュアル・マイノリティ(LGBT)への理解と支援」(金剛出版)
「現代思想 2015年10月号 特集=LGBT 日本と世界のリアル」(青土社)
「こころの科学 189号 特別企画:LGBTと性別違和」(日本評論社)
森山 至貴「LGBTを読みとく -クィア・スタディーズ入門-」(ちくま新書)
藥師 実芳「LGBTってなんだろう? -からだの性・こころの性・好きになる性-」(合同出版)
中村 美亜「心に性別はあるのか? -性同一性障害のよりよい理解とケアのために-」(医療文化社)
LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト「セクシュアル・マイノリティQ&A」(弘文社)

佐々木掌子「トランスジェンダーの心理学」(晃洋書房)

TOKYO人権 第57号(平成25年2月28日発行)

など