医師の監修のもと公認心理師が、リストカットなど自傷行為の治し方、対応方法について詳しくまとめてみました。
<作成日2024.2.11/最終更新日2024.5.26>
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・自傷行為(リストカットなど)の本質的な解決に必要なこと
・自傷行為(リストカットなど)に対処するためにできる14の方法
→自傷行為(リストカットなど)の心理と原因については、下記をご覧ください。
▶自傷行為(リストカット、など)の心理と原因~なぜ行うのか?
リストカットなどの自傷行為は、それ自体が問題ではなく、自傷行為をせざる得ないようにしている不全感や環境こそが問題です。基本的に、自傷行為自体は異常ではありません。無理にやめなくても構いません。無理にやめても根本原因となる不全感や環境がそのままであれば、その人を守るものがなくなってしまうからです。自傷行為そのものを止めるというよりも根本原因である不全感や環境を変えていくことが必要です。
ただし、自傷行為を続けることから来る自尊心の低下やエスカレートの危険から自身を守るために必要な対処として本記事を参考にしていただければ幸いです。
自傷行為(リストカットなど)の本質的な解決に必要なこと
●環境を変える
現在起きている環境が原因の場合は、その環境から離れることがまず大切です。特に、自分を支配したり、否定したりする人間関係や環境からは離れることを考えましょう。見捨てられる不安もあるかと思いますが、離れることで新しい心地の良い関係が始まります。
家庭で毎日のように罵倒するような親と同居したり、職場でパワハラを受けている、といった方はとても多いです。その場合は、家から出る、異動、転職するなどを試みることも必要になります。
もちろん、それらは簡単ではありません。ただ、理不尽な環境や人は待っていても容易には変わりません。自分から環境を選択して、自分にとって心地の良い居場所を見つける取り組みを始めてください。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「モラハラ(モラルハラスメント)への対策、対処法~6つのポイント」
▶「いじめとは何か?大人、会社、学校など、いじめの本当の原因」
●過去(現在)の不適切な環境の影響をケアする
自傷行為の背景には、多くの場合、過去に何らかの不適切な環境に置かれていた、ストレスを受けていた、ということがあります。ストレスの原因としてよくあるのは、夫婦げんかなど家族の不和、不適切な養育、機能不全家庭、いじめ、パワハラ、モラハラ、などがあります。
否定的で理不尽な環境では、本人をおとしめるような常識を強制されていることがあります。例えば、いじめを受けた人が「気持ち悪い」と言われ続ければ、本人の内面では常に「自分は気持ち悪い」という言葉がこだまして苦しめ続けます。「お前がおかしい」と言語非言語に思わされる環境で過ごせば、自分を責めたり、罪悪感を常に感じるようになります。理不尽なルールや出来事の記憶は断片化して意識化に残り、現在進行形で再上演され本人を苦しめ続けます。
また、脳や自律神経やホルモンなど身体的にもダメージを負ってしまうことがあります。過覚醒といって「脳が興奮して、ソワソワして、おちつかない」「眠れない」ということから自傷行為で和らげざるを得ない、ということがあります。
こうしたストレスによる心身のダメージを「トラウマ」と言います。
トラウマがあると、自分や他人を信頼できなくなり、過剰適応や脳の過活動などさまざまな問題を引き起こしてしまいます。まさに、自傷行為の根本要因とも言えるものです。(子どもの頃のトラウマの影響は「発達性トラウマ」あるいは「愛着不安」などとも言います。)
トラウマ、愛着障害を解消には、専門の治療(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、その他トラウマケアなど)を受ける必要があります。特に解離がある場合は治療は必須です。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
(参考)関連する精神障害
自傷行為を行う人は、うつ病と関係していることも多いとされます。
その場合は、うつ治療もあわせて行う必要があります。また、摂食障害とも関連性が高く、自傷を中止すると摂食障害が生じるといったことも多いです。
自傷行為(リストカットなど)に対処するためにできる14の方法
1.自傷に関する記録をつける
どういった時に自傷行為を行うのか?
どういった感情なのか?
そのきっかけとなっている出来事は何か?
自傷までの時間、回数などを記録してください。
また、自傷しなかった時があればそれも記録してください。
以上のようにすることで、自傷のきっかけとなる出来事に遭遇する前に回避できます。
2.日記をつける
自傷行為をしたくなったら、その状況、感情を記録する。
かなりすっきりします。
3.認知行動療法を行う
ストレスに対する考え方や反応を適切にしていくことに役立ちます。
方法を解説した書籍が販売されていますので、お求めになって、取り組んでみてください。
4.リストカットする箇所を、アルコールで拭く
精神科医の神田橋條治氏によると、腕など普段リストカットする箇所を、焼酎など度数が高いアルコールで拭くのも効果的だとされます(出典:神田橋條治、白柳直子「神田橋條治の精神科診察室」(IAP出版))。
5.スナッピング(輪ゴムを弾く)
輪ゴムを腕に向かって弾く痛みで自傷行為の代わりとなります。
6.香水やアロマオイルなどを嗅ぐ
嗅覚を刺激することで、感情をそらす効果があります。
7.氷を握りしめる
8.腕を水性の用具などで赤く塗りつぶす
9.大声で叫ぶ
カラオケボックスなどで大声で叫ぶことで感情をそらすことができます。
10.楽器を弾いたり、ゲームをする
11.運動する
運動療法とは、有酸素運動などを行い、脳や身体の機能を改善、回復させるものです。さまざまな精神障害の改善にも高い効果があることがわかっています。
運動の効果として明らかになっているのは、まず脳内のニューロンの新生が活発になり認知機能が改善することです。ラットの実験では、ニューロンの新生は3、4倍になることがわかっています。次にシナプスの可塑性や伝達効率が上がるなど、脳内伝達物質の循環も活性化されます。また、運動を通じて自分の身体感覚が戻り、自律神経系、免疫系、内分泌系といった身体の機能が回復すると考えられています。
(例えば、うつ病の治療でも、統計上あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。)
有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2、3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。日中外に出ることが難しい場合は、夜中に歩く、屋内でのヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます
有酸素運動は、決して気休めや道徳的な助言ではありません。非常に高い効果が見込めますので、すべての方に必ず取組んでいただきたいセルフケアの方法の1つです。
12.マインドフルネスなどの瞑想を行う
精神を落ち着けるだけではなく、自ら状態を客観的に捉えることにもつながります。また、意識が嫌なことに向かいにくくもなります。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「マインドフルネスとは何か?~本当の定義、やり方、学び方のまとめ」
13.薬物療法
自傷行為そのものを治す薬は存在しません。ただ、どうしようもない感情を和らげる効果があります。
感情の程度がひどい場合は、病院などで相談しましょう。
14.アルコールを控える
アルコールを摂取した状態は、自傷行為がエスカレートすることが多いため、アルコールは避ける、控えるようにしてください。
周囲の人はどのように対処、サポートすればいいのか?
・適切な対応
自傷行為には下記のような態度が求められます。
・冷静で穏やかな態度をもって、自傷に至る自傷への理解、理解をする。
・自傷行為を告白、相談してくれた場合は、その行為をねぎらってあげてください。
・本人をとりまく環境がいかにひどいものか?ひどかったのか?について理解してあげてください。自傷行為をすぐに止めさせようとしないでください。
大元の問題が解決するまで、自傷行為はその人にとって必要なことなのです。その上で、エスカレートした場合の心配を伝えてください。それ以上の専門的な対処は必要ありません。
・不適切な対応
一方、不適切な対応としては、
・驚いたり、言葉を失う
・気味悪そうな、けげんそうな表情
・しっせき、非難、停止の約束
・同情、優しく対応
・見て見ぬふり
などが挙げられます。
本人は、やりたくてやっているわけではなく、どうしようもなく追い込まれているのです。本人に責任を帰すようなしっせきや非難はもってのほかで、本人が異常であるかのような反応も不適切なのです。
必要であれば、カウンセラーや、地域の保健所や、精神保健福祉センターに相談してみることです。
(参考)
自傷行為を異常なものととらえないことが大切です。自傷行為そのものよりも、その背景にある過去、現在の不適切な環境について理解や改善に向けてのサポートをしてあげることが大切です。できれば、愛着やトラウマに詳しいカウンセラーなどに相談してみてください。
→自傷行為(リストカットなど)の心理と原因については、下記をご覧ください。
▶自傷行為(リストカット、など)の心理と原因~なぜ行うのか?
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
林直樹「リストカット・自傷行為のことがよく分かる本」(講談社)
松本俊彦「自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント」(講談社)
神田橋條治、白柳直子「神田橋條治の精神科診察室」(IAP出版)
など