近年、有名人でも闘病経験を告白するようになり知られるようになりましたパニック障害(パニック症)。実は広く認知されるようになったのは最近のことです。克服するためには適切な知識が必要です。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、パニック障害(パニック症)についてまとめてみました。
<作成日2016.2.19/最終更新日2024.6.7>
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この記事の執筆者みき いちたろう 心理カウンセラー(公認心理師) 大阪大学卒 大阪大学大学院修了 日本心理学会会員 など シンクタンクの調査研究ディレクターなどを経て、約20年にわたりカウンセリング、心理臨床にたずさわっています。 プロフィールの詳細はこちら |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
・偏見や誤解を防ぐために、最新の診断基準(DSM)などでは病名のdisorder「障害」を「症」と表記するようになっています。ただ、一般には情報を調査、検索する際に旧名称(~障害)で検索されるケースのほうが多いために、便宜的に「障害」との表記を残しています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・パニック障害(パニック症)とは何か?
・理解されにくいパニック障害(Panic disorder)
・パニック障害のチェック~その多彩な症状
→パニック障害(パニック症)の原因と治し方については、下記をご覧ください。
▶「パニック障害の原因とは何か~内因説と「葛藤によるパニック」」
パニック障害(パニック症)は、身体に現れるために、身体の病気ではないか?未知の病では?と考えてしまいがちです。しかし、パニック障害は身体には原因はありません。病院で検査などを受けて、何も問題ないと診断されながら症状が継続する場合はパニック障害を疑う必要があります。パニック症状は、血糖値の上昇や免疫の低下など様々な形で現れることがあります。特に近年は、トラウマ由来の葛藤やフラッシュバックによってパニックが生じていることもわかってまいりました。パニック障害に詳しい心療内科などで鑑別してもらい、カウンセラーとも連携して治療に取り組むことが大切です。
パニック障害(パニック症)とは何か?
単なる恐怖症との違い~内因性の恐怖あるいは、葛藤によるパニック(トラウマ因)
パニック障害が単なる恐怖症と異なる点は、単なる恐怖症はある対象への恐怖、状況への恐怖という「外側への恐怖」であるのに対して、パニック障害は「自分自身の内側からくるものへの恐怖」であるという点です。
パニック障害は、基本的には突然ひとりでに湧いてくる恐怖です。単なる恐怖症は自分が立つこの世界が「まともである」という確信の中で、恐怖となる対象物がある、という感覚ですが、パニック障害の場合は、よって立つ世界や自分そのものがめまいなどで揺れて感じたり、身体が言うことを効かなくなるなど、主観的世界全体が恐怖となる感覚です。
そのため、通常の恐怖症とは異なる難しさがあります。
別の記事でも書きましたが、内側からの恐怖の原因としては、自律神経の失調などを原因としてみる内因説と、「葛藤によるパニック(トラウマ因)」によるものとがあります。
→パニック障害の原因については、下記をご覧ください。
▶「パニック障害の原因とは何か~内因説と「葛藤によるパニック」」
理解されにくいパニック障害(パニック症 Panic disorder)
パニック障害(パニック症 Panic disorder)とは、突然、めまいやはき気、過呼吸や激しい動悸などが生じる症状です。古くからある病気で、かつては「不安神経症」などと呼ばれていました。「パニック障害」との呼び名が使われたのは1980年のことです。
現在においても、一般社会や医療現場などでも理解が十分とはいえないとされます。
そのため、「気持ちの問題だ」「また発作が起きたのか!」といった心ない言葉をかけられるということが実際にあったようです。
近年、有名人が自身の闘病経験を発表したり、書籍、インターネット等での情報発信などから徐々に知られるようになってきています。医療現場での体制も整い始めています。
(参考)過去にパニック障害を罹患された有名人
漫才コンビ「中川家」の剛さん、大場久美子さん、長嶋一茂さん、円広志さん、作家の宮本輝さん、Kinki Kids の堂本剛さんなど。体験談を出版されている方もいらっしゃいます。
パニック障害(パニック症)のチェック~その多彩な症状
パニック障害(パニック症)というと、過呼吸が知られていますが、それはあくまで症状の一つで、実際は多彩な症状がおきます。
・診断基準
診断基準(米国精神医学会 DSM-5-TR(医学書院))では、下記のうち4つ以上が当てはまり(パニック発作)、一回目の発作から1月の間に、また発作が起きるのではないかという「予期不安」や、発作が起きそうな状況の回避が起きる場合に「パニック障害」と診断されます。
・動悸、心悸こう進(心拍数の増加)
・発汗
・身震いまたは震え
・息切れ間または息苦しさ
・窒息感
・胸痛または胸部の不快感
・嘔気または腹部の不快感
・めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
・現実感消失(現実ではない感じ)または離人症状
・コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
・死ぬことに対する恐怖
・異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
・冷感または熱感(ほてり)
・下記の場合はパニック障害ではありません
・身体に異常がある場合
(低血糖、貧血、高血圧、褐色細胞腫、更年期障害、狭心症、僧帽弁逸脱症、甲状腺機能こう進症、
不整脈、側頭葉てんかん、メニエール病、カフェイン過敏症など)
・他の精神障害で説明できる場合
(パニック発作自体は統合失調症、うつ病、PTSDや社交不安障害でも生じます。)
・薬物などの影響で説明できる場合
・特定の状況で必ず発作が起きる場合
・「予期不安」とは何か?
発作への恐怖から、また起きるのではという不安を持つのが「予期不安」です。予期不安は、パニック発作に伴って生じる症状でパニック障害の根本的な症状です。予期不安がない場合は、パニック障害とは診断されません。
・「過換気症候群」と「パニック障害(パニック症)」の違い
過換気症候群はパニック発作で見られる症状の一つではありますが、基本的には別の病気です。過換気症候群のみの場合はパニック障害とは見なされません。また、過換気症候群とパニック障害ではメカニズムも異なるとされています。過換気症候群はストレスへの反応で生じる「心身症」であるのに対して、パニック障害は脳や神経系の機能不全であるとされます。
・パニック障害(パニック症)の二層構造~2つの恐怖
クレア・ウィークス博士は、パニック障害を二層建て(2つの恐怖)で説明しています(クレア・ウィークス「不安のメカニズム」(筑摩書房)など)。
一つ目の恐怖は、パニック発作など身体に生じる症状です。
二つ目の恐怖は、症状に対する認識(恐れ、不安)です。
二層建てで分けることはとても大切です。克服する際にそれぞれ分けてアプローチをできるからです。
また、一つ目の恐怖だけであれば回復は比較的容易です。しかし、適切な診断が行われず、対応が遅れると、二つ目の恐怖が膨らみ始めます。そして、二つ目の恐怖が一つ目の恐怖を促進するという悪循環に陥ってしまいます。
・パニック障害(パニック症)に伴う症状~「広場恐怖症」「対人恐怖症」「うつ状態」「アルコール依存症」「自傷行為」など
・広場恐怖症
パニック障害になると、逃げられない場所、助けを求められない場所を避ける「広場恐怖症」を引き起こします。広場とは、広い場所のことではなく、街中など逃げられない場所のことです。古代において公共の場所をアゴラ(広場)といったことからきています。パニック障害の約8割の方が、広場恐怖症に陥ると言われます。
・対人恐怖症
また、パニック発作で恥をかくことを恐れて人前を避ける、「二次的対人恐怖(社交不安障害)」になる人も、全体の3分の1に及びます。
・うつ状態
さらに、6割の人が「うつ状態」に陥ることがあります。パニック障害が収まっても、うつ状態だけが残るケースも見られます。パニック障害に伴ううつ状態とは、本当のうつ病とは異なります。そのため、見逃されがちです。
▶「うつ(鬱)病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント」
・依存症と自傷行為
パニック障害に伴う不安を紛らわせるために、「アルコール依存症」に陥ったり、「自傷行為」を行ってしまうことも少なくありません。
▶「依存症(アルコール依存等)とは何か?その種類、特徴、メカニズム」
▶「自傷行為(リストカットなど)の心理と原因~なぜ行うのか?」
・パニック障害(パニック症)に伴う身体の症状
パニック障害に伴って身体でも症状が起きることがあります。「過敏性腸症候群」「偏頭痛」「睡眠障害」が代表的です。特に、パニック発作の4割は睡眠中に生じていることから睡眠が怖くなり、睡眠障害に陥るケースは多いとされます。
▶「不眠症・睡眠障害の原因と診断~6つの視点からチェックする」
・パニック障害(パニック症)に伴う性格や行動の変化
・依存的になる
パニック発作で自信を失い、過度に依存的になるケースがあります。
・自己中心的になる
うつ状態を併発している場合に、気分のアップダウンが激しくなり、過度に自分が望むことを要求し、そうではないものを避けるようになり、まわりからは自己中心的とみられる場合があります。
・攻撃的になる(怒り発作)
いわゆるキレる状態です。ささいな事に突然怒りだして、大声を出す怒り発作がおきるケースです。うつ状態を併発している場合に多く、発作の後は自己嫌悪に陥ってしまいます。
・パニック障害(パニック症)の残遺症状
パニック障害は、非発作性不定愁訴と呼ばれる残遺症状が残る場合があります。
・なんとなく不安
・現実感がない感じ
・イライラする
・感情がわかない
・首や肩などが痛い
・息苦しい
・動悸がする
・熱感や寒気がする
・目がチカチカする
など
回復からかなりの時間(数十年)が経ってから残遺症状が起こる場合もあります。残遺症状が残ることがあることを知らない場合、別の体調不良とされて、適切な対応がなされないことにもなります。
→パニック障害(パニック症)の原因と治し方については、下記をご覧ください。
▶「パニック障害の原因とは何か~内因説と「葛藤によるパニック」」
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(参考・出典)
渡辺登「パニック障害」(講談社)
磯部潮「パニック障害と過呼吸」(幻冬舎)
森下克也「薬なし、自分で治すパニック障害」(角川書店)
ベヴ・エイズベット「パニック障害とうまくつきあうルール」(大和書房)
シャーリー・スウィード、シーモア・シェパード・ジャフ「パニック障害からの快復」 (筑摩書房)
中原和彦「「お手玉をする」とうつ、パニック障害が治る」(ビタミン文庫)
野沢真弓「私のパニック障害」(主婦の友社)
長嶋一茂「乗るのが怖い」(幻冬舎)
円広志「僕はもう、一生分泣いた」(日本文芸社)
大場久美子「やっと。やっと!パニック障害から抜け出せそう・・・」(主婦と生活社)
貝谷久宜「パニック障害 治療・ケアに役立つ事例集」(主婦の友社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
など