医師の監修のもと公認心理師が、スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症(Internet addiction/Game addiction)の診断方法についてまとめてみました。
<作成日2016.4.19/最終更新日2024.6.7>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
1.スマホ、インターネット・ゲーム依存症を診断基準からチェックする
・インターネット・ゲーム依存症の基準(DSM-Ⅴより)
・スマホ依存に関する基準(S-スケール)
・インターネット依存についての基準(ヤングのチェックリスト)
2.スマホ依存、インターネット依存、ゲーム依存症の原因(背景)からチェックする
3.依存症のタイプからチェックする
4.インターネット・ゲーム依存症の特徴(派生する問題)からチェックする
5.併発する問題からチェックする
→依存症全体の知識、スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方については、下記をご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
▶「依存症(アルコール依存等)とは何か?その種類、特徴、メカニズム」
スマホ、ネット、ゲーム依存症については、通常の遊びの範囲かどうかをチェックすることは難しい場合があります。特に、親の言うことを聞かずにゲームばかりをしているということをもって、「スマホ依存かも??」とご不安になる親御さんは少なくありません。実際にお伺いしてみると、依存症でもなんでもない、というようなケースは現場で多く経験します。やはり、的確な診断(アセスメント)が必要になります。
スマホ依存、インターネット依存、ゲーム依存の背景には家庭や現実での居場所のなさが原因であることがあります。つまり、スマホ依存、インターネット依存、ゲーム依存と見えるものは問題そのものではなく、問題に対する「未熟な自己治療」です。「家に閉じこもってゲームばかりしているから、ゲーム依存に違いない!」と表面的な現象に飛びついたりすることは本質を見誤ってしまいます。まずは、ご本人の考えをゆっくり聴く機会を持ち、「背景にあるもの」、「問題の全体像」を先入観なく明らかにすることが大切です。今回の記事では、多面的に判断いただけるように海外などの複数の診断基準と様々な視点からご判断いただけるように工夫をしています。ご覧ください。
下記に3つの診断基準と、その他4つの視点を並べています。単に診断基準だけではなく、その他の視点もご覧いただき、当てはまるかどうか?多角的にとらえていただければと思います。特に、2に示しました「原因(背景)」は診断基準以上に重要です。
1.スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症を診断基準からチェックする
・インターネット・ゲーム依存症の基準(DSM-Ⅴより)
DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)の第5版で「インターネット・ゲーム障害」という名称で、インターネット・ゲームへの依存症について基準が定められています。この基準では、「ゲーム」に焦点があたった記述となっていますが、ネット、スマホ、その他のサービスについても同様とお考えください。
以下の項目に5つ以上に該当する場合、依存症と考えられます。
1.インターネットゲームへのとらわれ
2.インターネットゲームが取り去られた際の離脱症状
3.耐性、すなわちインターネットゲームに費やす時間が増大していくことの必要性4.インターネットゲームにかかわることを制御する試みの不成功があること
5.インターネットゲームの結果として生じる、インターネットゲーム以外の過去の趣味や娯楽への興味の喪失
6.心理社会的な問題を知っているにもかかわらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける7.家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度についてウソをついたことがある
8.否定的な気分を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する
9.インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある※いわゆるインターネットの使用や、インターネットを利用したギャンブルの利用は除きます。
ゲーム依存については、下記からも簡単にチェックすることができます。
・スマホ依存に関する基準(S-スケール)
韓国政府が作成したスケールです。文化的にも近い日本でも利用できます。※成人の場合は、学業や成績についての記述は仕事に置き換えて仮にチェックしてみてください。
1.スマートフォンの使いすぎで、学校の成績が下がった
2.家族または友人と一緒にいるより、スマートフォンを使っている時のほうが楽
3.スマートフォンを使えなくなったら、我慢するのが大変そう
4.スマートフォンの利用時間を減らそうとしたが失敗した
5.スマートフォンの利用で、計画したこと(勉強、宿題または塾の受講等)をするのが難しい
6.スマートフォンを使えないと、世界が終わったような気がする
7.スマートフォンがないと、落ち着かずイライラする
8.スマートフォンの利用時間を自分でコントロールできる
9.いつもスマートフォンを使っていると指摘されたことがある
10.スマートフォンがなくても不安にならない
11.スマートフォンを使っているとき、やめなくてはと思いながらも続けてしまう
12.家族または友人からスマートフォンを頻繁に、または長時間使いすぎだと不満を言われたことがある
13.スマートフォンの利用は、今している勉強のじゃまにならない
14.スマートフォンを使えないとき、パニック状態になる
15.スマートフォンの長時間利用が習慣化している
1~7,9,11,12,14,15の答えは下記の点数で総得点を計算します。
まったく当てはまらない=1点
当てはまらない=2点
当てはまる=3点
とても当てはまる=4点
8、10,13の答えは下記の点数で計算します。
まったく当てはまらない=4点
当てはまらない=3点
当てはまる=2点
とても当てはまる=1点
<判定>
※実際の判定は、要因別に計算したものも加味しますが、ここではシンプルにするために、総得点だけとしています。
総得点45点以上=スマホ依存症の危険性が高い
総得点42~44点=潜在的な危険性がある
総得点41点以下=一般的な利用者
スマホ依存については、下記からも簡単にチェックすることができます。
・インターネット依存についての基準(ヤングのチェックリスト)
1998年に米国の心理学者キンバリー・ヤングが作成したチェックリストです。※成人の場合は、学業や成績についての記述は仕事に置き換えて仮にチェックしてみてください。「インターネット」という言葉は、スマホやゲームに置き換えても活用できます。
1.気がつくと思っていたより、長い時間インターネットをしていることがありますか
2.インターネットをする時間を増やすために、家庭での仕事や役割をおろそかにすることがありますか
3.配偶者や友人と過ごすよりも、インターネットを選ぶことがありますか
4.インターネットで新しい仲間を作ることがありますか
5.インターネットをしている時間が長いと周りの人から文句を言われたことがありますか
6.インターネットをしている時間が長くて、学校の成績や学業に支障をきたすことがありますか
7.他にやらなければならないことがあっても、まず先に電子メールをチェックすることがありますか
8.インターネットのために、仕事の能率や成果が下がったことがありますか
9.人にインターネットで何をしているのか聞かれた時に防衛的になったり、隠そうとしたことがどのくらいありますか
10.日々の生活の心配事から心をそらすためにインターネットで心を静めることがありますか
11.次にインターネットをするときのことを考えている自分に気づくことがありますか
12.インターネットのない生活は、退屈でむなしく、つまらないものだろうと恐ろしく思うことがありますか
13.インターネットをしている最中に誰かに邪魔されると、イライラしたり、怒ったり、大声を出したりすることがありますか
14.睡眠時間を削って、深夜までインターネットをすることがありますか
15.インターネットをしていない時でもネットのことを考えていたり、ネットをしているところを空想したりすることがありますか
16.インターネットをしているとき「あと数分だけ」と言っている自分に気づくことがありますか
17.インターネットをする時間を減らそうとしても、できないことがありますか
18.インターネットをしていた時間の長さを隠そうとすることがありますか
19.誰かと外出するより、インターネットを選ぶことがありますか
20.インターネットをしていないと憂うつになったり、イライラしたりしても、再開するといやな気持ちが消えてしまうことがありますか
それぞれの質問について下記の点数で計算します。
いつもある=5点
よくある=4点
ときどきある=3点
まれにある=2点
まったくない=1点
<判定>
総得点70点以上=依存傾向が高い。治療が必要
総得点40~69点=依存傾向がある
総得点39点以下=平均的なユーザー
下記からも簡単にチェックすることができます。
2.スマホ依存、インターネット依存、ゲーム依存症の原因(背景)からチェックする
・現実への居場所のなさ(不適応)
私たち人間は、ゆるやかに多くのものに依存しながら生活をしています。
例えば、人間関係では家族、職場、友人・知人など、社会(職場、地域、趣味のグループなどが挙げられます。依存の中で私たちは居場所を持つようになります。自分のアイデンティティも関係性の中で確立されます。
しかし、さまざまな要因で人間関係や社会においてゆるやかな依存がなくなると居場所を失うようになります。私たちは居場所のなさに耐えることができません。そこで、何か特定のものに極端に依存して擬似的に報酬を得ることで、居場所を得ようとします。
依存症とは「社会のパラレルワールド」(社会薬理学者マリー・ジャホダ)といわれるのはまさにこのためです。
・家族の不和
スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存の子どもを見ると、家族に不和があるといったケースも少なくありません。事実、家族の不和はリスク要因に挙げられています(ダニエル、L.キング「ゲーム障害 ゲーム依存の理解と治療・予防」福村出版)。特に、子どもの場合は、両親や家族の不和は大きな影響があります。家族が安全で落ち着いた場所ではなくなります。また、不適切な養育などによってトラウマや愛着障害になるなど、さまざまな悪影響があります。
・愛着障害、発達性トラウマ
幼いころに不適切な養育環境にあった場合、社会との関わりの基礎となり安全基地となる「愛着」がうまく形成されず、パーソナリティの不安定さや、適応の難しさを生むことがわかっています。不安定な愛着は、依存を生む大きな原因の一つです。アルコール中毒では「アダルトチルドレン」という言葉が生まれたように、依存症あるいは依存症の親に育てられても同様にその子どもも依存症に陥ることが指摘されています。逆に過保護すぎてもよくないとされます。
⇒参考となる記事はこちら
▶「「愛着障害」とは何か?その特徴と悩み、メカニズム」
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
・発達障害
発達障害傾向のある人は独特なコミュニケーションのスタイルから不適応を起こしてしまいます。また、特定の事柄に強い執着をもつこともあり、依存症の背景として考えられます。
ADHD傾向のある子どもの場合、もともとドーパミンの働きが弱く、衝動性や不注意につながっています。
ゲームに依存することでドーパミンが放出されて一時的に落ち着き、注意力が高まる効果があるため、ある種の自己治療として依存症に陥ってしまうのです。
▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説」
上記のように研究ではされていますが、発達障害のみのよって大きな問題になるということは少ないと感じます。発達障害は気質、体質としてありますが、問題が生じる場合は、必ず「愛着障害」や「発達性トラウマ」といった後天的な環境要因が存在していて、「気質×環境」(環境の問題がレンズのように気質の凸凹を歪に拡大させる)となって問題となっていることが多いです。
3.依存症のタイプからチェックする
日本の総務省の研究プロジェクトが下記のような分類を示しています。どのタイプに当てはまるか、確認してみてください。
・リアルタイム型ネット依存
チャットやゲームなどリアルタイムにやり取りをすることを前提としたサービスへの依存です。オンラインゲームなどはこれに該当します。ユーザーが集まる深夜にプレイし、昼夜逆転を引き起こします。
・メッセージ型依存
ブログや、掲示板、SNSへの書き込みやメール交換など、利用者同士のメッセージをやり取りするサービスへの依存です。LINE、X(旧ツイッター)などが代表的です。
・コンテンツ型依存
ネット上の記事や動画など、受信のみで成立する一方向のサービスへの依存です。動画配信サイト、ニュースサイト、まとめサイトなどが代表的です。
4.スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の特徴(派生する問題)からチェックする
スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症になると、下記のような特徴が現れます。衝動の制御や認知、注意力、社会的機能に悪影響があることがわかります。以下のようなことが生じていないか?確認してみてください。
・神経過敏
・不機嫌になりやすい
・イライラしやすい
・不安、
・うつ状態
・無気力
・注意力や集中力の低下
・社会的機能の低下
・多動、不注意の増加
・学力、仕事の成績の低下
・睡眠障害や昼夜逆転
・偏食、欠食
・無断欠席、無断欠勤、遅刻
・課金など金銭面でのトラブル
・ネットでの不正アクセスのトラブル
また、上記以外でも、視力の低下や腰痛、肥満、エコノミークラス症候群など付随する身体の不調も指摘されています。
・依存行動は多様で波がある
アルコール依存症においても指摘されていることですが、依存症の行動は人によって多様で、症状に波があります。あるとき熱中しているかと思えば、パタリとやめてしまう。そしてまた行うようになる。スマホのゲームはしないが家での据え置きゲームはする。逆に家では全くしない、といったことです。
多様で波があるということを知らず誤ったイメージをもっていると、「自分は依存症ではない」と考えたり、家族も「いつもしているわけではないから、依存症というわけではないかも」と捉えてしまい、適切な対処が遅れてしまう原因となりかねません。
5.併発する問題からチェックする
スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症は、ひきこもりやその他の精神障害などと併発することもあります。併発するものから、依存症ではないか?とチェックすることができます。下記に該当するものがないか、チェックしてみてください。
・ひきこもりとの併発
スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症は、ひきこもりと併発することも少なくありません。
その際にも2つのタイプがあります。
一つはもともとひきこもりの人がインターネット・ゲーム依存症に陥ってしまうケース。
もう一つは、インターネット・ゲーム依存症の人がひきこもりとなってしまうケース。
前者の場合は対応が難しく、インターネット・ゲーム依存症から回復してもひきこもり自体が治るかどうかはわかりません。しかし、後者の場合は、インターネット・ゲーム依存症から回復することでひきこもりも解消していきます。
▶「ひきこもり、不登校の真の原因と脱出のために重要なポイント」
・発達障害、適応障害(適応反応症)、うつ病など精神疾患との併発
発達障害を持つ人が、対人関係や適応がうまくいかないために、インターネットの世界に没入してしまうというケースも多いです。
昨今、後天的な環境によっても発達障害様の状態に陥ることがわかってきており、インターネット・ゲームへの過剰な依存が、認知や社会性の低下を生み、発達障害様障害を引き起こす危険性も指摘されています。
久里浜医療センターの調査では、ゲーム依存の約45%が何らかの精神障害を併発していると報告されています(樋口進「ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本」(法研))。
▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説」
▶「うつ(鬱)病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント」
▶「適応障害(適応反応症)とは何か?~本当の原因、症状とその治療」
・その他の依存症との併発
クロスアディクションといいますが、依存症は、根底にある問題は共通しているため、複数の依存症を併発したり、ある依存症が治ると別の依存症に陥るなど、依存症同士で行ったり来たりということが起きます。
→依存症全体の知識、スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方については、下記をご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
▶「依存症(アルコール依存等)とは何か?その種類、特徴、メカニズム」
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(参考・出典)
樋口進「ネット依存症」(PHP研究所)
樋口進「ネット依存症のことがよくわかる本」(講談社)
樋口進「ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本」(法研)
岡田尊司「インターネット・ゲーム依存症」(文春新書)
遠藤美季「脱ネット・スマホ中毒」(誠文堂新光社)
墨岡孝、遠藤美季「ネット依存から子どもを救え」(光文社)
清川輝基編著「ネットに奪われる子どもたち」(少年写真新聞社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
ダニエル、L.キング「ゲーム障害 ゲーム依存の理解と治療・予防」(福村出版)
など