医師の監修のもと公認心理師が、近年、注目されている「マインドフルネス」について、その定義や特徴、効果、方法についてまとめてみました。
<作成日2015.11.30/最終更新日2024.6.2>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・マインドフルネスとは
・マインドフルネスのポイントは“今ここ”
・マインドフルネスが身体や心の疾患(ストレスやうつなど)に効果が生まれるメカニズム
・臨床心理学における位置づけ~第三世代の行動療法
・マインドフルネスの効果
・企業や政府機関、ビジネススクールでの実践例
・マインドフルネスのエクササイズ(瞑想)のやり方・方法
・マインドフルネスをサポートするアプリ
・マインドフルネスを学べる場所
東洋の瞑想が西洋で技法化、概念化されて逆輸入してきたマインドフルネスですが、ここ10年の間にすっかり市民権を得ました。マインドフルネスそのものではなくても、概念化された要素は様々に応用されています。例えば、日常で生活習慣を整える(習慣形成)といったことはトラウマを解消する際も重要ですが、そうしたこともマインドフルネスの要素を含んでいる日常での取り組みです。人間は社会的動物と表現されるように、素のままで自分らしくいられるというわけではなく、社会化される状態では、安心していることができます。習慣形成は、社会化のための枠組みを提供するものです。真の意味での社会化とは、自我をしっかりエンパワーメントしたうえで、整えていくということです。しかし、日常にまみれていると、他者の感情やローカルな立場などに振り回されて、本来の意味での「社会化」からは離れてしまうことが生じます。マインドフルネスとは、そうしたことを整え直す機能があると考えられます。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、本来は仏教や禅などの考えに基づいた考えで、仏教では「サティ」のことです。漢語では「念」、日本語では「気づき」と訳されます。
1900年に英国人のリース・デービッズがパーリ語を英訳した際に「マインドフルネス」と訳したことが最初です。
もともとは仏教など東洋の思想を源流としていますが、マサチューセッツ大学医学大学院教授 ジョン・カバットジン博士が瞑想を医療現場に応用し始めたことが「マインドフルネス」という概念が広まることになったきっかけとされています。
その後、さまざまなセラピーにおいてマインドフルネスという概念は取り入れられています。
(もともと、心理療法(精神分析やゲシュタルト療法など)には、“今ここ”(here and now)という考え方がありました。)
一般に「マインドフルネス」という場合は、
1.マインドフルネスという状態
2.マインドフルネスをもたらすエクササイズ(瞑想)
の大きく2つを指しています。
・マインドフルネスの定義
ジョン・カバットジン博士は
「瞬間瞬間の体験に対して、今の瞬間に判断せず、意図的に注意を払うことで実現される気づき」としています。
また、より詳細な定義(ビショップらによる)として、
①一瞬一瞬の体験に意図的に注意を向けること
②今の瞬間の体験に対して心を開き、好奇心を持ってアクセプトする(そのままにしておく)こと
③結果的に思考や感情に対して脱中心化した視点を獲得し、主観的で一過性という「心」の性質を見極めること
とされています。
(参考・出典)J・カバットジン『マインドフルネス瞑想ガイド』(北大路書房)など
マインドフルネスのポイントは“今ここ”
“今ここ”とは、過去でも未来でもない、今まさに立ち現われている自分や他者をありのままに捉えることです。心理療法、カウンセリングにとっては基本中の基本であり、目指すゴールでもある状態です。
過去はどこにも存在しません。記憶や記録の中にしかありません。未来もまだ存在しません。過去や未来とは頭のなかで起きる観念に過ぎません。現実的に存在するのは“今ここ”しかありません。すべては“今ここの連続”とも言えます。
しかし、私たちは、頭のなかで浮かぶ過去や未来という観念にとらわれて“今ここ”に集中できません。
過去への囚われを、“後悔”といい、未来への囚われを、“不安”と言います。
例えば、
・今している作業に集中することではなく、次の作業のことばかりを考えて不安になり、集中できずミスをしてしまう。
・今この瞬間を楽しむことができず、週末のことばかりを考えてしまう。
・学校であれば夏休みを待ちわび、卒業を待ちわびている。
・会社に就職すればボーナスを待ちわび、定年を待ちわび、定年になったら、今度は若い時代を後悔してしまう・・・
こうして人生の大半を頭の中の「未来」や「過去」という観念や、他者に意識を取られてしまい、“今ここ”の自分を楽しむことができないまま過ごしてしまっています。
一方、マインドフルネスとは、自分を中心としたとても安心した空間。今ここと言っても刹那的ではなく、むしろ時間のない永遠につながるような感覚といっても良いかもしれません。
マインドフルネスとは、瞑想を通じて意識的に瞬間瞬間の自分を感じ、“今ここ”を生きる習慣をつけるエクササイズなのです。
・五郎丸選手などスポーツ選手も実践!?マインドフルネス
ラグビー日本代表(当時)の五郎丸選手は、高校時代に試合で次のプレーを意識しすぎたために大きなミスを犯したことがあるそうです。それ以降、今その瞬間のプレーに集中することを心がけるようになったそうです。
これも、まさにマインドフルネス、“今ここ”の実践といえます。ルーティンもそうですが、“今ここ”へと集中させるための行為といえます。
マインドフルネスが身体や心の疾患(ストレスやうつなど)に効果が生まれるメカニズム
私たちの身体や心は、恒常性維持機能(ホメオスタシス)が備わっています。恒常性維持機能は、問題となっている状況を感じることができれば、適切に働いてくれ、ニュートラルな状態へと戻してくれます。しかし、その状態をありのままに感じることができなければ、働いてはくれません。回避といいます。回避すればするほど問題はむしろ大きくなります。
私たちは、常にさまざまな雑念に意識を取られて、自分の心や体の状態をありのままにはとらえられていません。
例えば、肩こりを感じても「肩こりだ」と漠然と思うのと、微細な筋肉の疲れや張り、痛みが頭から来ていることなどを感じる、というのとでは全く異なります。「肩こり」という言葉は単なるラベルであり“今ここ”の自分そのものではありません。後者はマインドフルネスの捉え方です。曖昧な捉え方はある種の回避であり、恒常性維持機能は働きにくくなります。
また、私たちは自分を評価してレッテルを貼ってしまいます。
「自分はダメだ」「自分は~な人間だ」などなど
これもありのままに捉えられていません。
ありのままの自分と評価とのギャップがあると、ストレスとなり、身体や心の病を生むことになります。
マインドフルネスを通して、今ここの自分を感じることができれば、心や身体が悪い状態をニュートラルな状態に戻そうという働きが起きるのです。マインドフルネスが身体や心の不調に効果があるのはこうしたメカニズムが働いていると考えられます。
臨床心理学における位置づけ~第三世代の行動療法
マインドフルネスは、「第三世代の行動療法」とされています。
第一世代とは古典的な行動療法、第二世代とはベックなどの認知行動療法。そして第三世代はより統合性を高めたものとされ、行動活性化療法や、メタ認知療法と並び、マインドフルネス(ストレス低減法、認知療法)が挙げられています。
・マインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、身体的なストレスを原因とする疾患を改善するために用いられるプログラムです。
・マインドフルネス認知療法(MBCT)は、MBSRを応用して作られた方法で、うつ病など精神的なストレスによる問題を改善するために用いられます。否定的な認知にとらわれがちな状態を評価せず捉えることで、認知を適切にし、症状を改善させます。
また、マインドフルネスは、「森田療法」の考えともよく似ていると言われています。
(参考)マインドフルネスの用語
・アクセプタンスとは
「与えられたものを手に取る」ということであり、「今ここ」で体験していることを、評価や判断をせずに積極的に受け取ることを指します。
・リトリートとは
リトリートとは、日常から離れた場所あるいは修養という意味です。
マインドフルネスにおいてリトリートとは、日常のけん騒を離れた場所でのトレーニングや研修を指します。
マインドフルネスの効果
マインドフルネスを行うと以下の様な効果があるとされています。
・ストレスを解消できる
・リラックスできる
・自分の状態を知ることができる
・人に対する共感や優しさを持つことができる
・イライラなどネガティブな感情のとらわれなくなる
・意識が明確になる
・幸福を感じることができる
・自信がつく
・自分のスペースと時間を作ることができる
・自分の“心”(無意識)とつながりやすくなる
・集中できる
・創造性が高まる
・直感が鋭くなる
・身体疾患の改善に役立つ
・うつ病など心の病にも効果がある
・トラウマの解消にも役立つ
・科学的に検証されたマインドフルネスの効果
マインドフルネスの科学的な研究は1979年にジョン・カバットジン博士によって行われた身体疾患(慢性疼痛)についての研究や、博士が開発したマインドフルネスストレス低減法(MBSR)がその最初とされています。
その研究の結果、
・慢性疼痛を始め、喘息、糖尿病などの身体的な病状の改善
・不眠、不安、恐怖症、摂食障害など、精神的に困難が状況を改善する
・学習、記憶、感情コントロールに関する脳の領域の活性化
・おもいやり、共感など心理的な機能の向上
・交感神経系を落ち着かせ、副交感神経系を活性化する
・免疫システムの働きの向上
というような効果が見られたそうです。
・マインドフルネスを行った後の脳の変化
サラ・ラザー博士の研究によると毎日1時間8週間にわたり瞑想すると、
・海馬の部分(学習、記憶、感情コントロールをつかさどる)が大きくなる。
・扁桃体(情動をつかさどる)が小さくなる。
・耳の上にある側頭頭頂接合部(思いやりや慈悲をつかさどる)が大きくなる。
ことなどがMRIの測定でわかったそうです。
つまり、感情に流されにくくなり、思いやりが高まるということが脳の変化からも裏付けられました。
ちなみに、サラ・ラザー博士は、自身が交通事故にあい、リハビリに苦労をした際に行った瞑想が効果があったことがきっかけで効果についての科学的な研究を行うことになったそうです。
企業や政府機関、ビジネススクールでの実践例
2000年頃から経営、人材開発やリーダーシップ論などにも取り入れられないか、注目されるようになりました。ダボス会議で2012年に取り上げられ、2013年には企業やビジネススクールでのトレーニング例などが紹介され、注目されました。
・グーグル
・インテル
・マッキンゼー
・ツイッター
・ナイキ
・フォード
・ドイツ銀行
・フェイスブック
・アメリカ海軍
など大企業や政府機関でマインドフルネスのトレーニングが導入されています。ハーバード大学やコロンビア大学のビジネススクールでもカリキュラムに採用されています。
・グーグルの実践例
グーグルでは、自己を認識する力と自己を制御する力を身につけることを目的に、ストレスの低減、チームビルド、集中力や創造性を高める、EQの向上を狙い、「SIY」という研修プログラムを開発して導入されました。
世界のグーグルのオフィスで毎日瞑想プログラムが実践されており、新入社員研修でもマインドフルネスのための休憩が設けられています。
また、「ヘッドスペース」というアプリを使って、アプリにガイドをしてもらいながら会議の冒頭に瞑想をしているそうです。
・インテルの実践例
「Awake@Intel」というプログラムを設けています。1回90分9週間のプログラムで呼吸と瞑想を指導されるものです。社員の想像力や集中力が増し、問題解決のスピードが上がったと言われています。
・日本におけるマインドフルネスへの取り組み
・日本では2013年に日本マインドフルネス学会が設立されるなど、近年、本格的に研究や実践が進んできています。
・NHKニュース「おはよう日本」(2014年11月6日)でも紹介されました。
・マインドフルネス研修を実施することで、職場のより良い環境づくりに取り込む企業も多くなっています。
マインドフルネスのエクササイズ(瞑想)のやり方・方法
誰でもできる基本的なマインドフルネスのエクササイズをご紹介させていただきます。
・呼吸に気づくエクササイズ(瞑想、呼吸法)
1.リラックスした状態で、
床であれば楽にあぐらを組んでください。
あるいは椅子に座ってください。
どんな座り方でもよいのですが、大切なのは腰が起きる姿勢を取ることです。猫背や骨盤が倒れるようなもたれた姿勢を取らずに、背筋を伸ばしてください。
その際、背骨がポールでそこに旗が立つイメージをする、あるいは、地面から木がしっかりと生えたようなイメージをしてすっと背筋が立つような感覚で座ってください。
手は、膝の上かあぐらでしたら印を結ぶようするなどしてください。
エクササイズの間は違和感がなければ手の位置は変えないようにしましょう。
2.呼吸を繰り返してください。
呼吸を繰り返すごとに身体がリラックスするのを感じていってください。中には、深呼吸が苦手な方もいらっしゃいますので、無理に深くせずに、自然に楽にできる方法で結構です。
3.自分の呼吸に意識を向けてみましょう。
呼吸を感じるために、胸やお腹など呼吸を感じやすい場所に意識を向けてみるのもよいでしょう。
しばらくの間、呼吸に意識を向けて観察します。
続けていると、ついつい考え事が浮かんだりして呼吸から意識が離れます。そうしたら、もう一度呼吸(今ここ)に意識を向けてください。雑念も自分の感覚です。意識が離れたことに気づいたことも自分の感覚を気づけたということで良いことなのです。
5~10分程度続けてください。
4.終わったら、どんな気づきや変化を感じたか振り返ってみても良いでしょう。
うまく行ったかどうかを評価するのではなく、ありのままに確認するように振り返ってください。
・歩きながら行うエクササイズ(瞑想)
1.いつもよりもゆっくり目に歩いてください。
手は後ろ手にするか前に組んで、あまりブラブラとしないようにしてください。自然に歩ける姿勢で結構です。
2.呼吸の代わりに、“一歩”“一歩”に意識を向けていきます。
呼吸のエクササイズと同じく雑念が湧いたり心が移ろいゆきます。雑念は気づいた時点で自分の感覚に気づけたということです。もう一度、“一歩”“一歩”に意識を向けます。
通勤途中や普段歩いている時にも行うことができます。
・日常生活のいろいろな場面がエクササイズになる
ポイントは“今ここ”に意識を向けることです。
「食事」、「掃除」などさまざまな行動がエクササイズになります。 例えば食事であればアゴが動く様子、味覚などの感覚の一つ一つに意識を向けていきます。
雑念も感覚の一つですから、それにも意識を向けていきます。
・その他のエクササイズ
マインドフルネスにはさまざまなエクササイズが存在します。
くわしくは関連する書籍などをご一読いただくことをおすすめします。
マインドフルネスをサポートするアプリ
本を読んでもなかなかやり方に自信が持てなかったり、あるいは自分で行うとどうしても忙しくて、時間を確保しにくい事があります。
そのため、書籍についているCDや、アプリなどのガイドを活用すると助けになります。
ヘッドスペースという160万を超えるユーザーを持つ世界的に有名な専用アプリがあります。
日本語のアプリもいくつか存在しています。
・「5分間の瞑想」
・「マインドフルネス ガイド付き瞑想・瞑想を学ぶ」
グーグルプレイや、iTunes で「マインドフルネス」と検索してみてください。
マインドフルネスを学べる場所
例えば下記のような場所があります。
マインドフルネス学会理事の小西喜朗氏がおこなっている
「マインドフルネス実践会」などがあります。
民間でもさまざまな団体やグループがあります。また、いろいろな心理療法の中でもマインドフルネスが取り入れられていることがあります。
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
J・カバットジン『マインドフルネス瞑想ガイド』(北大路書房)
『ハーバード・ビジネス・レビュー(2014年9月号)』
『日経サイエンス(2015年1月号)』
サンガ編集部『グーグルのマインドフルネス革命』(サンガ出版)
松村憲『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想』(BABジャパン)
熊野宏昭『新世代の認知行動療法』(日本評論社)
丹野義彦ほか『臨床心理学』(有斐閣)
など