ここ数十年で注目され始めた「恋愛依存症」。近年、依存症、精神障害として治療の対象とされるようになってきました。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、「恋愛依存症」についてまとめてみました。
<作成日2017.4.14/最終更新日2024.5.29>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・恋愛依存症とは何か?
・愛依存症の背景
・恋愛依存症のタイプと症状
→依存症全体についてや、恋愛依存症の診断や治し方については、下記をご覧ください。
▶「恋愛依存症の診断【公認心理師監修】~3つの視点(知識)による」
人は不全感を癒やすために、自ら自己治療を行うことがあります。それが「依存症」というものです。アルコールや薬物がよく知られていますが、同じくらいかそれ以上に刺激的で、燃えるように不全感を癒やしてくれるものが恋愛です。恋愛依存に関するご相談もものすごく多いです。恋愛依存が厄介なのは、恋愛自体が社会でも普通に行われる好意であるために、おかしさに気が付かないことがあるということです。しかし、普通の恋愛と恋愛依存の違いは明確に存在します。それは、自分の存在の欠損を相手との関係で埋めようとしているか、否か?ということです。普通の恋愛とは、ある程度自分も満たされた中で、互いに愛情を交換し合うということです。さらにもう一つの違いは何かというと、普通の恋愛は「信頼」を基礎に置いているということです。恋愛依存は「恋愛の刺激や興奮」に足場を置いているために非常に不安定です。本記事を通じて、ぜひ、恋愛依存とはなにか?について参考にしていただければ幸いです。
恋愛依存症とは何か?
恋愛依存症(Romance addiction/Love addiction)とは、自己愛の傷つきなど自らの手に負えない苦しみを、相手に尽くしたり支配したりという歪んだ恋愛によって埋めようとする行為です。本人は恋愛に燃えている、と感じていますが、実際には恋愛にではなく過去の傷を癒すために行っている未熟な自己治療です。
恋愛依存症という名称が用いられるようになるのは、1975年に「Love and Addiction」という書籍が出版されてからです。
ただし、現在も明確な定義はありません。
・依存症という病の一つ
恋愛依存症とは、アルコール依存症やギャンブル依存症と何ら変わりのない「依存症」という病です。上記にもあるように現代は恋愛至上主義の文化で、恋愛は素晴らしいという風潮があるために依存症であることが見えにくくなっています。
依存症は、大きく分けて、物質依存(薬物、アルコールなど)とプロセス依存(ギャンブル依存、ゲーム依存、買い物依存症など)に別れます。どちらも脳内で神経伝達物質が過剰に放出されて、快感への依存がおさえられなくなります。恋愛依存症は、プロセス依存になります。
「恋愛は素晴らしいもの」という風潮も手伝い、本人にはあまり自覚はありません。
依存症であるかどうかを見分けるポイントとしては、一つのモノや関係に過度に依存しているかどうか、本人や周囲の日常生活に支障をきたしているかどうか、その背景に自己愛の傷つきやトラウマがあるかどうか、ということです。
・クロスアディクション
恋愛依存症の方は、アルコール依存症やギャンブル依存症、薬物依存、過食など他の依存症を併発していることも多いです。これは、依存症のメカニズムが共通していることが原因と考えられます。
共通するメカニズムとは、自己愛の傷つきを癒すための行為がさらなる苦痛を生んで、それを他の依存行為で癒すといった悪循環のことです。
・その他精神障害の併発
恋愛依存症の場合、うつ病や、パーソナリティ障害など他の精神障害や発達障害を併発していることもあります。
▶「うつ(鬱)病とは何か~原因を正しく理解する9のポイント」
恋愛依存症の背景
・自己愛の傷つき(不安定な愛着、トラウマ)と脳の報酬系メカニズムの変化
恋愛依存症の背景には「自己愛の傷つき」があります。幼少期の養育環境の影響での不安定な愛着やトラウマが原因です。傷ついた自己愛は大きな痛みをもたらします。その痛みとは不安や恐怖、怒り、自己承認の過度な欲求などです。
人間は社会的動物と呼ばれるように、いろいろな人やモノにほどほどに依存しながら生活を送っています。また、仕事や人間関係から承認、信頼という(長期の≒フィードバックに長い時間を要する)報酬を得ながら自分を保っています。このことを脳のメカニズムでは「報酬系」と呼ばれます。
しかし、自己愛が傷ついた状態では、その傷をいやすために、長期の報酬では間に合わずに、短期の報酬(興奮や快楽)を求めるようになります。
幼い子どもは欲求を我慢することが苦手です。明日まで待つよりも目の前のものがほしいと考えてしまいます。しかし、しつけや教育を受けて訓練を積む中で、我慢してより長期の報酬を得ることを覚えていきます。
しかし、依存を繰り返すと、その報酬系のプログラム自体が書き換わってしまい、意志の力では制御できなくなってしまいます。頭では分かっていてもひどい相手に依存してしまう、といったことは脳内ホルモンの作用によってなされているのです。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
恋愛依存も含め、依存症の背景には必ず愛着不安やトラウマが存在しています。依存傾向がある方は、ぜひ専門のカウンセラーなどに相談することをおすすめいたします。
・性格気質(遺伝的要因)
衝動性や感情的になりやすい、失感情症などの性格気質(遺伝的な要素)も背景です。依存症になる人は、イメージに反して意志が強く、頑張り屋であることがあります。自己努力の果てに、頼る先が限られる中での未熟な自己治療として、依存症に陥ってしまうのです。
・環境や社会的要因
環境や社会的な要因も背景です。人間関係が少なく孤独を感じている、過度なストレスも恋愛依存を後押しします。さらに、「恋愛は素晴らしいもの」とする現代の風潮や、出会い系サービスなど恋愛対象と出会う手段が増えていることも大きな要因の一つです。
・現代における恋愛至上主義
現代は恋愛至上主義だ、とは評論家や学者などが指摘していることです。もちろん、人類は昔から恋愛をしますが、その在り方はさまざまです。特に庶民は、現代人のように個人と個人とが自由に恋愛をしてというスタイルではなかったと考えられます。恋愛とは近代の産物だ、日本には明治以降に輸入されたとする説もあれば、もともと日本にも恋愛はあった、とする説もあります。
恋愛至上主義の背景には、個人主義や自己愛型社会(個人の自己愛を満たすことに価値を置く社会)もあります。自己愛を満たしてくれる装置として、恋愛はとても手軽で情熱的なものです。 特に、自己愛の傷つきを抱える人にとってはまさに麻薬のように作用し、依存を生むことになります。
ただ、麻薬の場合は「違法なもの」として病識を生みますが、恋愛は「素晴らしいもの」という価値観が社会にあるために、なかなかそこから抜け出すことができません。恋愛依存症が問題になったのには、こうした時代背景もあります。
恋愛依存症のタイプと症状
心理学者の伊藤明は、著書の中で以下の4つにタイプを分類しています(出典:伊藤明「恋愛依存症 苦しい恋から抜け出せない人たち」(実業之日本社))。
1.共依存(尽くす側)
2.回避依存(尽くされる側)
3.ロマンス依存
4.セックス依存
それぞれはタイプは分かれますが、根本は同じです。自己愛の傷つきがあります。
4つのタイプは、くっきりと分かれるわけではなく、それそれが要素として各人の中に含まれてそれぞれの依存症を形成します。
→各タイプの特徴の詳細については、下記をご覧ください。
▶「恋愛依存症の診断【公認心理師監修】~3つの視点(知識)による」
1.共依存
「共依存」とは、もともとは、アルコール依存症を持つ妻と夫との関係を指す言葉です。妻がアルコール依存で何もできなくなった夫を支えることで、何もできない状態が継続し、依存症に手を貸している状態のことを言います。
恋愛依存症の場合の共依存も同様に、相手を過度に世話すること、尽くすことに一生懸命で本人の周囲の日常生活に支障をきたしている状態です。相手から求められること=自分の存在価値、となっているため、強迫的に世話をしようとします。
2.回避依存
回避依存とは親密な人間関係をさける過度な傾向を指します。いくつかのタイプがあります。
※タイプの名称はわかりやすくつけているもので確定されたものではありません。
・独裁者、搾取者
罪悪感や恐怖を利用して相手を支配し、搾取するタイプです。暴力や暴言というわかりやすい場合もあれば、暗に「おまえはダメなヤツだ」という無言の圧力をかけてくる場合もあります。自分の考えは正しくて、絶対で、反論すれば、同意するまで責め続けたりします。
行動を制約したり、金銭的な要求をすることもあります。自己愛性人格障害や反社会性人格障害などがこれに当たります。
・ナルシスト
何より自分が好きで、自分の理想を周囲に押し付けようとします。子どもっぽいところがあります。自己愛性人格障害や演技性人格障害などが該当します。
・逃げ腰症候群
愛情を求められたり、迫ると嫌がって逃げてしまいます。一人を好み、束縛を嫌がります。本心をはぐらかします。込み入った話、深刻な話題になると避けようとします。いわゆる回避性人格障害や、回避型の不安定型愛着がそれにあたります。
・愛着不安と依存
愛着障害の研究でも指摘されていますが、不安定な愛着状態に置かれると子どもは3,4歳ごろから親や環境を統制、コントロールしようと試みます。代表的なものとして2つのものがあります。
1つ目は、「懲罰型」と呼ばれるもので、親に罰を与えたり、拒否することで思い通りにしようとします。
2つ目は、「懐柔型」と呼ばれるもので、親の相談相手となったり、支えることで、親の気分や行動をコントロールしようとします。
懲罰型は「回避依存」になり、懐柔型は「共依存」になると考えられます。
3.ロマンス依存
ロマンス依存とは、刺激的な恋愛ばかりを求めようとしてしまうタイプです。
ドラマのような恋愛、不倫、略奪愛や怪しげな人との恋愛に魅力を感じてしまう傾向です。熱に浮かされたように恋愛に没頭し急激に醒めることがあります。
共依存との違いは、相手の世話をすることを志向していないという点です。
また、ロマンス依存の特徴は、恋愛ホルモンだけではなくて、ギャンブル依存などのようにリスクから来る刺激にも依存している点です。
4.セックス依存
性衝動がおさえられない。性的快感や刺激に依存している状態です。セックスをしているときだけ愛されている感覚を得ることができたり、自己愛の傷つきからくる苦しみを和らげることができます。
不安が強い、抑うつ傾向が強い、強迫傾向が強い人がセックス依存に陥りやすいことが知られています。
また、過去に性的虐待を受けていた方が、「再演」としてセックス依存となることがあります。傷をいやすためや、価値のない自分を罰するためにセックスを行っていると考えられます。強い快楽で心の傷の痛みを一時的に覆い隠すためや、自身の体を軽く扱ったり汚したりすることによって自分を罰するという自傷行為の一種としてセックスを繰り返している場合もあります。
→依存症全体についてや、恋愛依存症の診断や治し方については、下記をご覧ください。
▶「恋愛依存症の診断【公認心理師監修】~3つの視点(知識)による」
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(参考・出典)
ハワード・M.ハルパーン「ラブ・アディクションと回復のレッスン 心の中の「愛への依存」を癒す」(学陽書房)
ピア・メロディ「恋愛依存症の心理分析 なぜ、つらい恋にのめり込むのか」(大和書房)
ヘレン・E・フィッシャー「愛はなぜ終わるのか 結婚・不倫・離婚の自然史」(草思社)
ラリー・ヤング「性と愛の脳科学 新たな愛の物語」(中央公論新社)
斎藤 学「アダルト・チルドレンと家族 心のなかの子どもを癒す」(学陽書房)
小谷野 敦「日本恋愛思想史 - 記紀万葉から現代まで」 (中公新書)
小谷野 敦「恋愛の超克」(角川書店)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」(星和書店)
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
伊藤明「恋愛依存症 苦しい恋から抜け出せない人たち」(実業之日本社)
など