あまり知られていませんが、実はトラウマはさまざまな問題を引き起こします。特に人間関係においては影響が大きく、自分の性格のせいかな、と思っていたことの多くはトラウマに起因します。医師の監修のもと公認心理師が、トラウマがどのよう人間関係の悩みを生み出すのか、についてまとめてみました。
これまでいろいろな本を読んだけども、カウンセリングを受けてみたけど変わらなかった、という方は特に参考になるかもしれません。
<作成日2016.9.10/最終更新日2024.5.30>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・人間関係での悩み
・人間関係は、トラウマの影響が最も強く表れる
・トラウマとは何か?
・トラウマが人間関係に及ぼす20の影響
・人間関係の問題を克服する方法
関連する記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「あなたの仕事がうまくいかない原因は、トラウマのせいかも?」
私たちの悩み、生きづらさの多くが人間(対人)関係にまつわるものです。対人関係を変えたい、良くしたい、もっとうまく人と付き合えるようになりたい、あるいは、人に煩わされたくない、と私たちは願います。書店では自己啓発や心理学で、対人関係を指南する本が並んでいます。しかし、そうした本を読んだりセミナーに出てもその時は良くなる気がしますが、すぐにできない状態に戻ってしまいます。実は対人関係というのは、コミュニケーションの改善といったレベルだけではなく、自律神経やテンション(緊張)のコントロールと言った生体的なレベルから、社会、文化的な影響まで含めて総合的に成り立っています。そのため、いくらコミュニケーションのレベルだけを改善しても問題の解決にならず、土台から改善していく必要があるのです。そして、その土台を揺るがしてしまうのが「トラウマ」の存在です。トラウマの影響でいくら頭でわかっていてもうまく人と付き合えなくなってしまうのです。結果、自己嫌悪に陥ってしまい、努力を重ねてもまたできないという悪循環に陥ってしまいます。世の中では殆ど知られていないトラウマの対人関係への影響についてまとめています。
人間(対人)関係での悩み
人とうまく付き合えない、という悩みを持つ方は本当に多いと思います。例えば、以下のようなことはないでしょうか?
・話がかみ合わない。空気がうまく読めない
周囲の友だち、職場の人と話をしたいけど、なぜか話がかみ合わない。自分だけが浮いているような気がしてしまう。実際に、空気がうまく読めずにずれた発言をしてしまうこともしばしばある。
・うまく話ができない
話がまとまらない。うまく話ができない。頭で考えて準備しても、いざ話そうとするとめちゃくちゃになってしまう。
・人と一緒にいたいのに、しんどいから一緒にいたくない
人と一緒にいたい気持ちはあるけど、でも気疲れしてしまうので、できる限り一緒にいたくない。一人のほうがいい。でも寂しい。
・緊張しちゃう
いつもなぜか過剰に緊張してしまい、落ち着いて行動ができない。いつも慌てて動いてしまって、挙動不審に思われることもある。
・自分らしくいられない
人といると、自分らしくいることができない。うわついて、元気な人を演じたり、そうかと思うと黙り込んでしゃべれなくなったり。
・横柄になったり、卑屈になったりしてしまう
自分でも変だと思うが、なぜか人に対して横柄になったり、逆に卑屈になり、ぺこぺこしてしまったり、極端な態度になってしまう。浮ついた感じや、あるいは、自分の腰が砕けたように相手と対等で自然な関係を作ることができない。
・自分の意見を言うことができない。自分の意見が何かもわからない
どこに行く、何を食べる、といったささいなことも自分では決められない。すべて相手に合わせる。自分の意見を聞かれると頭が真っ白になる。友達からは、「自分の意見を言ってよ」と責められたことがある。
・自分を出すことができない
自分のことを話せない。自分のことを話すと、誤解されるのではないかという強い恐れを感じてしまう。事実、過去には非難されたこともある。だから余計に、自分は隠さないといけないと思う。嫌われないように演じて、頑張ってしまう。
・感情的になってしまって、人間関係を壊してしまう
家族や彼氏、彼女、友人あるいは職場の同僚や上司、部下に対して感情的になってしまい、相手を責めたり、追い込んだりして人間関係を壊してしまう。
・好きになった相手も、急に醒めてしまう
付き合った相手や職場の人についても、急に醒めてしまったり、欠点ばかりが見えるようになって、悪く評価してしまう。
・相手からなめられやすい。バカにされやすい
いつも自分だけが相手から低く見られる。仕事でもプライベートでも。仲の良い友達ができたと思ったら、次第に相手が自分をバカにするようになったしまう。
・自分の状況をなかなか理解をしてもらえない
自分の悩みがあっても、それを言葉にすることが難しいし、理解してもらえない。言葉にして相談したら、自分の性格のせいやコミュニケーション力のせいにされてしまう。
・”自分”というロボットに乗って操縦しているような感覚
自分が人からどのように見えているのかが自分でよくわからない。自分が他人と直接コミュニケーションを取れている感覚がない。自分では良かれと思った言動で相手を怒らせたり、バカにされたりといったことが繰り返されるために、自分で自分の行動を適切にコントロールできているような感覚がない。あたかも外が見えないコックピットで自分というロボットを操作しているような感覚がある。
など
ここで例としてご紹介したような人間関係の悩みは、決してあなたの人格がおかしいわけでも、コミュニケーション力がないからでもありません。あなたの責任ではありません。実は、その背景には問題が引き起こされるメカニズムがあります。
人間(対人)関係は、トラウマの影響が最も強く表れる
あまり知られていませんが、人間関係という領域は、トラウマが如実に表れるのです。
人間関係で自分を発揮できない、という悩みを聞けば、真っ先にトラウマの影響が疑われます。
ただ、トラウマというのは、専門とするカウンセラーや医師も非常に少なく、苦手とされる領域です。そのため、人間関係のさまざまな悩みがトラウマからくるものであるとは誰も説明してはくれません。
また、世の中はコミュニケーション力を過大視し、うまくいかない場合は個人の人格に原因を求める風潮もあり、実態を知ることをさらに妨げてしまっています。
この記事では、トラウマがどのように私たちに影響して、対人関係で自分らしくいられなくしてしまうのか、についてまとめています。
トラウマとは何か?
トラウマとは何か?それは、簡単に言えば「ストレス障害」のことです。過度または慢性的なストレスを受けることで、脳、自律神経、心理などに失調が生じるのです。
そして、過去に自分に降りかかってきた理不尽な出来事の記憶が処理されないことも、さまざまな症状を生じさせます。
トラウマを負っているとは、本人にとっては常に危機がそこにあるということです。そのため絶えず緊張を強いられ、目の前の対人関係に集中することができなくなります。その結果、対人関係がうまくいかなくなってしまうのです。
自分がトラウマを持っていると自覚できている人は多くはありません。そのため、もし自分にここで書いたような症状が見られるようでしたら、一度トラウマを疑ってみることが大切です。
→トラウマについてくわしくはこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
トラウマが人間関係に及ぼす20の影響
具体的にどのように影響しているのかを確認していきます。トラウマを負っていても、以下のすべてが当てはまるわけではありません。ケースによって濃淡があります。
1.常に“危機”にさらされている
・再体験、フラッシュバック
トラウマの特徴の一つは、再体験ということです。理不尽な出来事の記憶が繰り返しループするように浮かんできます。まさに今そこにあるように、ありありと感じられるのです。そのために、穏やかな日常の中にあっても、本人にとっては常に“危機”と隣り合わせの状態で過ごしています。
他人も自分を脅かす存在として感じられ、自信をもって自然に接することを妨げられてしまいます。
フラッシュバックと呼ばれるように、過去の嫌な出来事の映像が浮かんだり、言葉が思い出されたり、ということがあります。
よくあるのは、自分を否定する「声」が聞こえるというものです。「おまえはダメだ」「人を不幸にする」といったように、自分を否定する親の声が絶えず聞こえており、安心して人と接することができません。
・基本的信頼感の欠如
特に両親の夫婦仲が悪くケンカが絶えない環境で育った場合は、常に暴力、暴言のイメージが人間関係の下地としてあり、安心して人と接するということができません(基本的信頼感の欠如)。
人の感情に接することはとても苦手です。うまく対処できません。恐怖が浮かんできたり、頭が真っ白になってしまいます。職場などでも感情的な人や、話し方などがきつい人にはへりくだってしまったり、恐れを感じて解離してしまってうまく対応できず、その態度を見て相手がさらに怒り出してしまう、ということが生じます。
・逆再体験による問題行動
さらに、逆再体験(逆再上演)といいますが、自ら周囲に対して自分が被ってきた理不尽な行為をすることもあります。
2.過剰な緊張と周囲とのペースを合わせることができない
・過覚醒
過覚醒(覚醒こう進)といいますが、危機と隣り合わせにあるために、常に気が張っているような状態になります。過剰に緊張したり、興奮したり、ということが起きます。本人の中では過去の危機への反応として生じているのですが、周囲の人は平和な日常で接しているために、相手とペースが合いません。そのために、空気が読めない、会話がかみ合わない、ということが生じるのです。
挙動不審になって、「不思議ちゃん」「天然」と呼ばれることもあります。内心では「私はそんな人間ではない」と戸惑ったり、自尊心が低下したり、はらわたが煮えくり返っていたりします。
・テンション(緊張)がコントロールできない
テンション(緊張)のコントロールする機能が低下しているために、まわりが落ち着いているときにテンションが上がったり、盛り上がる時に気持ちが下がったり、ということも生じます。
普通の会話で緊張し、飲み会など盛り上がる場面では気持ちが沈んでしまったり、ということが起きます。
(脳が常に緊張状態にあるため疲労が起こりやすく、いざというときにはすでに脳が疲れており適切な反応ができない場合があります。)
3.見捨てられ不安とその結果の過剰適応も背景にある
過覚醒だけではなく、人から見捨てられたり、嫌われたりすることを過度に恐れる見捨てられ不安も背景にあります。
見捨てられることを過度に恐れるために、対人関係で常に緊張してしまうのです。また、見捨てられたくないがために、自分をおさえて過剰に相手に合わせすぎてしまう過剰適応も生じます。
その恐れは死の恐怖に匹敵するような強い感情である場合もあります。そのため、頭ではわかっていてもどうしようもないくらい相手に合わせてしまいます。子どものころから過剰適応に慣れている場合は、本当の自分の考えが何かもよくわからない、本音で人と付き合ったことがほとんどないことも珍しくありません。
4.強い対人不安、対人恐怖
自分はいつも人から嫌われやすい、最初は良くても結局嫌われて関係が破たんしてしまう、という恐れを抱いています。自分で状況をコントロールできない感覚を持っています。
状況をコントロールできないので、他人がちょっと機嫌が悪くなると気が気ではなくなってしまいます。特に、気が強そうな人や、いつも不機嫌な表情の人や、ぶっきらぼうなタイプだと冷静にコミュニケーションをとることができません。
5.気を遣いすぎてヘトヘト~でも、気を遣えない人だと正反対の評価を受けてしまう
外面はトラウマによって解離して能面のようになっていますが、内面では、気を遣いすぎてもうヘトヘトです。気を遣いすぎるくらい、気を遣っていますが、気疲れしすぎて、いざとなると動けなくなってしまいます。
そうすると、気を遣えない人、動けない人として狙われて、悪く評価されてしまいます。「なんで?こんなに気を遣っているのに悪く言われるの?!」と戸惑いと無理解な周囲への怒りが沸き起こります。
6.自分に基準がないために、他者の評価=自分自身となる
トラウマの特徴として、物事の基準が自分ではなく、自分の外側に置かれてしまう、ということがあります。
特に理不尽な目にあわされ続けた場合、外側の基準が正しくて自分は間違っているというように感じさせられてしまいます。他者の評価がすなわち自分自身となります。
そのため、他者の評価に過剰に舞い上がってしまい、逆にネガティブな評価に必要以上に落ち込んでしまいます。
また、親が支配的であった場合などで顕著ですが、自分の外側の基準が絶対に正しいと感じられるために常識やルールを強迫的に守ろうとしたり、他人に押し付けたりするようにもなります。常識を守れない他者をこき下ろしてしまいます。状況に合わせて柔軟に対応したりすることができず、他人それぞれにもペースや常識があることが見えなくなり、相手に強制するようになることもあります。
7.断ることができない
見捨てられる不安や、自分に確固たる判断基準が奪われているために、相手からの誘いや要望を断ることができません。断ったら何か良くないことが起きるのではないか?可能性が閉ざされてしまうのではないか?として断れないのです。
八方美人のようにすべての誘いを受けてしまいます。その結果として、相手との関係が逆に悪くなることもあります。すべてにYesと言っていますが、何一つ本心からくるものではない感じがしています。どこか自分の判断に自信がありません。
8.トラウマによって時間が止まり、未熟な状態に留め置かれてしまう
トラウマを受けた人の特徴は、「年齢よりも幼く見える」ということです。本人の意識も実際の年齢よりも若く自分を捉えており、一方、他人は自分よりもずっと年をとって見えます。
これは、トラウマによって、その当時の記憶がループしているために、その人の中では時間が止まってしまっているために起こります。3歳の時のトラウマなら、3歳の時で、5歳の時のトラウマなら5歳の時で止まっていると考えられます。
9.未熟なままに留め置かれた自分や他者のイメージ
成長する過程では、健全な自己愛が徐々に発達していきます。自己愛とは自分自身を肯定的に愛する能力のことで、自分自身に対するイメージや自尊心を形成するもとになります。健全な自己愛が育っていない場合には人とのコミュニケーションに支障をきたす場合もあります。健全な自己愛が適切なサイズへと育つためには、親との間で形成される愛着を土台として発達課題をクリアして行く必要があります。
・未熟なままの自分や他者のイメージ
通常は、幼い頃は万能感を持ち、親は理想化されていますが、失敗や周囲と関わる中で適切なサイズへと収まり、適度な自信と周囲への信頼を獲得していきます。しかし、トラウマが時間を止めてしまう結果として、自己愛の発達が適切になされずに自分や他者のイメージが未熟で歪んだままでとどまってしまいます。
例えば、自分は何でもできるという万能感と自信のなさとが同居しています。他人を理想的な人間と思って持ち上げたり、自分の中で基準に満たないと感じたら半端な人間として徹底的にこき下ろしてしまうのです。その人の人格全体を評価することができません(スプリッティング)。
・「自己愛性人格障害」という状態
他人が同じ人間という認識がいまいち持てず、相手の気持ちの機微をうまく感じ取ることができない、といったことが代表的な症状です。「自己愛性人格障害」といわれるような状態に陥ってしまいます。
▶「パーソナリティ障害とは何か?その原因と特徴を公認心理師が解説」
・自己愛の肥大化
この自分や他者のイメージが未熟なままで留め置かれてしまう人は、世の中では想像以上に多く存在します。私たちの周りでも出会います。例えば、仕事ができないということで過剰に相手を見下したり、こき下ろしたりする人はよくいますが、自己愛が肥大化していることが分かります。
・更新されない関係性
また、過去の関係性をそのまま社会に出ても持ち込んでしまう場合もあります。例えば教師-生徒の関係。会社の上司は教師ではありませんが、同じようにとらえてしまいます。
上司は自らの理不尽な言動を単に正当化しているだけであるにもかかわらず、「上司は常に自分のためを思ってくれている」として、真に受けてしまうようなケースです。ブラックな会社でパワハラを受けてもボロボロになるまで我慢してしまう、というようなことが起きるのです。
・トラウマの影響であり、本人が未熟なのではない
トラウマによる場合は、本人が未熟というよりも、トラウマの影響で解離して未熟な状態にさせられている、というほうが適切です。本来の人格は二重帳簿のように裏ではしっかりと大人の部分が発達していて自分や他人のこともちゃんと理解していたりします。
自身にトラウマの影響があるかどうか知りたい方は以下のページで簡易にチェックできます。
(参考)→「自己理解のためのトラウマ(発達性トラウマ)チェック」
10.”力関係”や感情で成り立つ、人間関係のメカニズムがうまく理解できていない。負けてしまう
世の中の人間関係は、二元論的にできています。一つは、「人間はみな分かり合える」「誠実に接すればいい」というような建前の部分。もう一つは、“力関係”や嫉妬や恐れ、反感など、感情によって成り立っているという動物的な、土台の部分です。
”力関係”とは地位や権力の上下や駆け引きということだけではなく、1対1での人間関係の関係性のバランスのことであり、そのバランスを支える心身のコンディションのことです。世の中で人間関係をうまくこなすためには、建前と土台の両者を兼ねそなえていく必要があります。これは成熟するための発達課題ともいえます。
しかし、トラウマにさいなまれていると、時間が幼いままで止まっているので、そのことをうまく理解できません。また、脳内のホルモンや血糖のバランスも崩れているために”力関係”でニュートラルとなることができません。力関係でニュートラルになれてこそはじめて、その上で建前は実現していくものですが、トラウマによって理想主義的になり、土台部分を抜きにして良い人間になろう、純粋な関係だけを求めようとしまいます。
常に自分に問題の原因を帰してしまったり、トラウマによる脳のコンディション不良のために、現実の人間関係では”力関係”で負けてしまい、自分ばかりが惨めな思いをしてしまいます。
11.過剰な客観性
世の中は、それぞれの人間の主観と主観の関わり合いという側面があります。 「客観」なるものはどこにもありません。
しかし、トラウマにさいなまれていると、現実には存在しない”客観的な視点”に意識が解離してしまい、常に自分や物事を客観的にチェックするようになってしまいます。そして、客観的な基準から見て自分は偏っていないか、間違っていないかと恐れて自信をもってふるまえなくなってしまいます。
そのうち、声の大きな人に負けてしまい、自分は我慢しなければならなくなってしまいます。
12.嫌な人になぜかこだわってしまう。嫌な言動の記憶やシミュレーションで頭がグルグル回る
嫌な人や自分に合わない人なのに、その人の言動に振り回されたりしてしまいます。
「あの人はなぜあのようなことを言うのだろう?嫌なことをしてくるのだろう?」と常に相手の言動が気になってしまいます。過去にされた嫌な言動について気持ちを切り替えたくても切り替えられずに嫌な記憶や、「次にはこう対応しよう」というシミュレーションで頭がいっぱいになり思考がグルグルまわります。
「あの人に認めてもらいたい。認められたい。」「あの人の態度を変えてやろう」としてしまうこともあります。関係を断ってしまいたいと思っていても、なぜか気持ちが嫌な人に向いてしまいます。
ご自分が、他人の言葉に振り回されやすいかどうか?を知りたい方は下記のページで診断できます。
13.他者に対して厳しい
他者に対して厳しい傾向があります。他者をそのままで見ずに理想化してとらえてしまっていますから、いつも要求水準が高いのです。仕事でも厳しくしっせきして、他者に高い基準をクリアすることを求めます。それが達成できないと激しくこき下ろします。
自分にも厳しく頑張りますが、自己愛が未熟ですから、他者から見るとストイックでありながらどこか自分に都合がよくて自分に甘い、言い訳が多いと感じられます。そのために、周囲とは協調が取れなくなったり、関係がこじれてしまいます。
14.他者への横柄な態度と極端なへりくだり
・大人への反発
相手をこき下ろしたり、ということと似ていますが、自己愛が誇大なままで成長しているためにどこか横柄な態度をとってしまったりして、人間関係がぎくしゃくしたりします。特に親が理不尽だった場合は、親や大人への反発が内在している場合もあります。同時に、どこか自信のない、自分は本物ではない、といった感覚にもさいなまれています。
・横柄な態度と高い理想
ある元ベンチャー企業経営者は、幼い頃は親が子どもの前で包丁を突き立てたりしたという経験を自著で語っていましたが、その方のどこか人を見下した横柄な態度や大人への反発を見ると、養育環境でのトラウマ(発達性トラウマ)に影響されたものであることがよくわかります。ただ、トラウマを負った多くの人に共通しますが、本人の本音では相手を見下そうとは思っていません。逆に自分はそんな人間にはなりたくない、そんな人間ではない、純粋に本音で触れ合いたいと強く考えています。
・スティグマ感と躁的防衛
横柄な態度とは逆に、他者を理想化してしまうために周囲の人たちが極端にしっかりしていて、常識があり、自分よりも正しいと捉えてしまい、極端にへりくだってしまうことがあります。いつも自分の中にはぬぐえない劣等感(スティグマ感)があります。劣等感があるのですが、劣等感を感じたくないために尊大になることで自分を守ります(躁的防衛といいます)。
15.退行してふてくされてしまうことも
自己愛が幼いままにされてしまっていますから、叱られると退行して、ふてくされてしまうことも起きます。自分が分かってもらえていない、と感じてしまいます。
注意したいのは、その人の人格がおかしいわけではありません。幼いわけではありません。自分の意志に反して解離して退行してしまうために起こります。本人の中では、意志に反して退行してふてくされたり、感情的になっていることについて、強い戸惑いを感じ、自分を責めて恥じています。ただ、原因がわからないため戸惑い、言い訳をして自分を防衛し、あるいは無理解な周囲に怒りと敵意を向けたりしてしまうのです。
16.感情的な人への軽蔑
自己愛が誇大化していることや他者を理想化しているために、つねに理想的な人間であろうとします。研鑽を積んで高みを目指すことが人間の本来の姿とし、感情的な人間を軽蔑する傾向があります。
親が理不尽な態度をとっていた場合はより顕著になります。自分は、あの理不尽な親のようにはならない、なりたくない。感情的になるのは未熟な人間によるもので、自分は感情を乗り越えて理性的な人間になりたい、自分はより人間性が高い存在にならなければならない、と感じています。
ただ、感情をおさえた結果、他者とのコミュニケーションがうまくいかなくなります。他人からは冷たく、心が通わないと感じられたり、理屈は正しくても、気持ちを理解してもらえていないと感じられてしまい、逆効果になります。そのため、感情を克服したと思っているにもかかわらず、周囲に対して怒りを感じたりイライラを感じてしまいます。そうした自分にも器が小さいと自己嫌悪したり、違和感を感じるようになります。
17.強い恥や罪悪感、自責の念
トラウマにさいなまれると、強い恥の意識や罪悪感を感じやすくなります。過去の自分の行動を過度に恥ずかしいものととらえてしまいます。また、本来自分が原因ではないことまで自分の責任として罪悪感を感じたり、過度に自分を責めたりします。
18.虚無感、無価値観、ニヒリズム
自分は価値のない人間であるという感覚や、世の中が虚しい、という感覚を持っていることがあります。とくに性的虐待などひどい虐待を経験していると、自ら再上演するかのように自分を大切にしない行動や関係を持ったり、風俗業に身を置こうとする人もいます。実際に実行していなくても、かつて夜の街で働こうと思った、とおっしゃる方は多いです。その背景にはトラウマによってもたらされた無価値観や虚無感が潜んでいます。
19.周囲との距離感やペースが合わない
トラウマによって自分の基準や土台を崩されてしまい、誇大化した自己や見捨てられる恐れがあるために、他者との距離感がうまく取れません。
過度に距離を取りすぎて関係を作ることができないか、あるいは、相手との距離が近すぎたり、関係が熟していないのに踏み込みすぎたり、といったことが起きます。妙になれなれしくなってしまったり、妙にへりくだりすぎたりということが起きます。
自信がない不安な感じを悟られたくないために不自然にテンションを上げたり、なれなれしくしたりということもあります(躁的防衛)。
いずれにしても本来の自分で人と接するということができなくなってしまいます。
その違和感は本人も感じていて、どうしていいかわからないつらさや孤独感を感じていたりします。
20.解離して本来の自分自身じゃなくなってしまう
トラウマの症状にすべて共通することですが、「本来の自分」ではなくなってしまう、ということがあります。解離と言いますが、過去の記憶のフラッシュバックや、現在の刺激が引き金となって、今この瞬間の自分自身ではなくなってしまうのです。そのために、周囲からのコミュニケーションに対して反応することができなくなってしまいます。
顔は能面のようになり、言葉には感情が乗らなくなります。相手はそれを見て、バカにされていると勘違いしてさらに感情的になり怒られる、ということもしばしば起きます。
解離するというのは、意識状態(場合によって人格)が変容してしまうということです。軽い解離の場合にはぼっーとして周囲で起きていることの現実感がなくなったり、後から記憶を思い出せなかったりするという現象が起こります。解離の程度が強く人格そのものが変容する場合は、過去の幼い自分や否定的な感情を浴びせてくる親や周囲の人の人格を自分の中に再現したりします(最重症の場合は二重人格や多重人格とよばれる病像をとります)。
そのために自分でも気がつかないうちに退行させられたり、相手をこき下ろして否定的な感情を浴びせたり、ということが起きます。
例えば、境界性人格障害という症状も、広い意味のトラウマによる解離と考えると理解しやすくなりますし、本人も傷つきません。本当は人格には何の問題もありませんが、トラウマによって解離しやすくなるため、ちょっとした刺激(見捨てられる不安)によって、人格がスイッチして、相手をこき下ろしたり、振り回したりしてしまうのです。
(参考)発達性トラウマ障害と愛着障害
虐待を受けると発達障害様状態が生じることが知られています。杉山登志郎教授は精神発達遅滞、自閉症スペクトラム、ADHD・学習障害に次ぐ「第四の発達障害」と呼んでいます。最近は、「発達性トラウマ障害」と呼ばれることもあります(出典:杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」)。
▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説」精神科医の岡田尊司氏も、愛着障害になると発達障害用状態を生むことから、発達障害が増えている要因を「愛着障害」によるものではないかとしています(出典:岡田尊司「発達障害と呼ばないで」(幻冬舎新書))。
人間関係の問題を克服する方法
・スキルや能力の問題ではない~わかっていてもできない
書店にあるようなコミュニケーションの本や、自己啓発に取り組んでも根本的には解決しません。なぜなら、トラウマによって引き起こされた問題の特徴は「分かっちゃいるけどやめられない」ということだからです。頭ではわかっているのです。しかし、恐れや不安がふいに沸いてきて、動けなくなってしまう。思うように行動できなくなって、関係がぎくしゃくしてしまうのです。スキルや能力の問題としてコミュニケーション力を身に着けようとしてもうまくいかずに、かえって傷ついてしまうこともあります。
・人格や性格の問題ではない~むしろ、気遣いすぎで社会性過多にさせられている
たとえ、相手に対して失礼な態度になっていたりしても、それらは人格や性格の問題によるものではありません。人格が未熟と書きましたが、それも本人の責任ではなく、トラウマによって一時的に未熟な状態に留め置かれている、ということなのです。社会性がないのでもありません。逆に過剰適応によって社会性過多になっているのです。
自分には常識がない、人格がおかしいと思い込まされて、過剰に社会的であることを意識させられすぎて身動きが取れなくなってしまっている状態なのです。むしろ、社会に適応しようとすることをおさえ、自分を信頼し、自分の基準を取り戻すことのほうが必要です。
・人間関係の問題はあなたの責任ではない。自分のせいだと思わない
現在の問題は、自分の人格のせいでも、コミュニケーション力がないせいでもありません。トラウマが影響して、自分の言動がおかしくなってしまっているだけです。ですから、自分のせいだと思う必要はありません。自分を責める必要は全くありません。
・問題の原因や人間関係のメカニズムを知る
この記事で紹介したようなメカニズムをご自身でも知ることです。トラウマによる再上演、過覚醒、解離によって、自分でいることを妨げられているために問題は生じています。そのメカニズムを知るだけでも思いがけない力に巻き込まれることを防ぐことができます。
メカニズムとは、人間関係の二元論的なメカニズムを知ることも含まれます。二元論とは、対人関係は力関係を土台として、その上に建前が乗っているということです。力関係でニュートラルではない関係、こき下ろされたり、へりくだられたり、している状態とは、支配-被支配の関係であり、そこでは私たちが求める建前(誠実な人間関係)は実現しません。
・ニュートラルな”力関係”を作るためのコンディションを整える
人間関係の場で生まれる”力関係”でニュートラルな関係性を作れなければ、求めているより良い人間関係はできません。特に、いつも自分を責めていたり、生体的にもトラウマによってホルモンのバランスや脳内のエネルギーが低下していると、相手にやり込められて不快な思いをさせられてしまいます。
ニュートラルな”力関係”を実現するためには、心身を強かに整えていく必要があります。脳の機能を低下させる大きな原因となるトラウマを解消することはその方法の一つです。
・嫌な関係は遠ざけ、自分に合う人や環境を求める
トラウマを負っていると、どうしても自分に合わない嫌な関係にこだわらされてしまいます。本来の自然な状態とは何かを知る必要があります。私たちにとっての基本は、嫌な関係は遠ざけて、自分に合う人や環境を求める、ということです。
目の前にいる嫌な人にこだわり、その人に好かれよう、変えようとしても意味はありません。嫌な人、合わない人はサラッと受け流して遠ざける。そうすると、本当に自分に合う関係がやってきます。この原則を知っているだけで環境は少しずつ変わっていきます。
・トラウマを解消する
今まさに苦しんでいるのでしたら、トラウマケアを受けてトラウマを解消することが必要です。トラウマの解消については、よろしければこちらを参考にしてください。
→トラウマについてくわしくはこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
バベット ロスチャイルド「これだけは知っておきたいPTSDとトラウマの基礎知識」(創元社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
飛鳥井 望「PTSDとトラウマのすべてがわかる本」(講談社)
大嶋信頼「それ、あなたのトラウマちゃんのせいかも?」(青山ライフ出版)
「季刊 ビィ 2015年9月号」(アスク・ヒューマン・ケア)
白川美也子「赤ずきんとオオカミのトラウマケア」(アスク・ヒューマン・ケア)
ベッセル・ヴァン・デア・コーク「身体はトラウマを記録する」(紀伊國屋書店)
ブルース・マキューアン&エリザベス・ノートン・ラズリー「ストレスに負けない脳」(早川書房)
ロバート・M・ サポルスキー「なぜシマウマは胃潰瘍にならないか」(シュプリンガー・フェアラーク東京 )
ステファン・W・ポージェス 「ポリヴェーガル理論入門: 心身に変革をおこす「安全」と「絆」」(春秋社)
ジョン J. レイティ「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」(NHK出版)
ドナ・ジャクソン・ナカザワ「小児期トラウマがもたらす病」(パンローリング出版)
ナディン・バーク・ハリス「小児期トラウマと闘うツール――進化・浸透するACE対策」(パンローリング出版)
川野 雅資「トラウマ・インフォームドケア」(精神看護出版)
野坂 祐子「トラウマインフォームドケア :“問題行動"を捉えなおす援助の視点」(日本評論社)
「精神療法 第45巻3号 複雑性PTSDの臨床」(金剛出版)
など