医師の監修のもと公認心理師が、機能不全家族の問題、家族の悩みを解決するためのポイントをまとめています。よろしければご覧ください。
<作成日2019.9.12/更新日2024.5.28>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・1.家族の機能とはなにか?機能不全家族とはなにか?を理解する
・2.家族の機能不全、家族の問題に気づく
・3.機能不全家族、家族の問題を解決するための7つのポイント
→関連する記事はこちら
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
家族の問題として自覚できている悩みを解決するにとどまらず、家族の問題に気がつくこと、家族の影響を相対化することは、悩み全般の解決には必須要件と言えるものです。家族ほど幻想にまみれているものはありません。その幻想を溶きほぐして、実態を知るだけでも解決につながることがあります。とりわけ「機能」に着目することで、問題がスッキリと明らかになります。私(三木)も臨床において「何でも家族の問題につなげるのは・・」とためらいがあった時期もありますが、20年以上臨床を経験してきて感じるのは、家族の影響というのは想像する以上に大きいということです。特にしつこい悩み、問題について家族を捉えることなしには解決はありません。
1.家族の機能とはなにか?機能不全家族とはなにか?を理解する
家族の問題を知るためには、家族とはなにか?機能不全家族とはなにか?を理解する必要があります。
・家族の機能、機能不全家族とは何かを知る
機能不全とは何かを知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
・「家族とは~だ」あるいは「家族の愛」といったものもあくまで観念に過ぎない
家族とはなにか?を知るうえでもっとも大切なのは、「家族」というのは固定された本質ではなく、歴史や社会の中で変化するということです。「家族の愛」というものも同様です。
歴史的な背景を知ることはとても大切です。なぜなら、現在の社会において、「なんだかんだ言っても、家族や親子は愛があるものだ」「夫婦は愛し合わなければならない」といった考えは真理でもなんでもなく、特定の時代の条件付きの観念であることがわかるからです。私たちは家族や夫婦の問題に直面した際に、家族や夫婦にどんなに不和や虐待があっても必ず分かり合える、と考えてしまうことは誤った思い込みにすぎません。特に心理臨床においては、「家族の愛」や「親子の愛」という常識や社会的通念は必ず脇に置いて考える必要があります。(悩みをサポートする専門家も「愛」を当然の前提としていないか、気をつける必要があります。セカンドハラスメントを生む恐れがあります。)
2.家族の機能不全、家族の問題に気づく
自分自身が生きづらさや、悩みを抱えていてもそれが家族の影響によるものだ、と気がつけなかったりします。それどころか、「うちの家族はいろいろあるけど普通だ」「まあ、家族というのはこんなものだ」と思い込んでいたりもあります。
機能不全な家族の問題を解決するためには、まずは、家族の問題に気づく必要があります。そのためのポイントをまとめてみました。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴」
▶「モラハラ(モラルハラスメント)への対策、対処法~6つのポイント」
・「うちの家庭は何も問題がない」と感じていたら要注意!
家族とはとてもぜい弱なもので、機能が満ち足りている家庭はありません。それは完璧な会社や組織がないのと似ています。「うちの会社は、完璧で全く問題はありません」と聞けば、「そんなわけないでしょ?」と思います。
人間の作る集団は常に何かを抱えています。それをそのまま見て、感じることが大切です。
「うちは問題は何もない」と考えていること自体が、実は問題の兆候かもしれません。
何かおかしいと考えることで、問題は浮かび上がってきます。
・家族を機能としてとらえてみる~「家族の愛」や「親子の愛」「夫婦の愛」という観念や「家族はこうあるべき」という常識はまず脇に置く
上記でも書きましたが、家族というのはあくまで歴史的な観念にすぎません。そのため、そうした常識から考えると問題は見えなくなります。また、虐待や、暴力、モラルハラスメントを行うメンバーは、かならず、「おまえが悪いからだ」「おまえのためを思ってやっている」「本当は愛している」といった建前で覆い隠そうとします。ダブルバインドと言いますが、行動と言語で矛盾するメッセージが送られると人間は身動きが取れなくなります。
そうしたことを防ぎ、問題を直視するためにもまずは、観念や常識は脇に置いてみましょう。そして、家族を「機能」としてとらえてみることです。機能としてとらえてみることで、客観的に問題を把握しやすくなります。
・ファンタジー(幻想の愛)に気をつける
機能不全家族もケンカが起きている時もあれば、団らんもあります。それを指して、「ケンカするけど、本当は仲が良い」と考えてしまう方がいます。
これは、共依存状態になっている方の典型的な症状です。家族の現実を見ることが怖いために、「本当は優しい人、仲が良い」というファンタジーを作り出して、苦痛を紛らわせている状態です。
人間は常に鬼のような人はいません。例えば、家庭内で虐待を行う人でも、気まぐれに温かい表情を見せたり、機嫌がよくなったりすることがあります。だからと言って、それが本当の姿ではないし、仲が良いといったことを示しているものではありません。
問題は、家族がケンカしたり、仲良くなったりする気まぐれにあなたが気をもまされたり、振り回されたりしていることです。そのことに気がつきましょう。
例えば、あなたの頭の中に
「問題があるけど、本当は家族は大事にしないといけないし・・・」
「問題があるけど、優しいところもあるし・・・」
「問題があるけど、穏やかな瞬間もあるし・・・」
「問題があるけど、自分にも問題があるし・・・」
「問題があるけど、家族がいなければ生活できないし・・・」
という思いがグルグルしているなら、そこから抜け出したほうがいいというサインかもしれません。
・家族の機能が満たされているか?をチェックしてみる
本記事で示した家族の機能が満たされているかをチェックしてみてください。
特に「安心安全が満たされているか?」「メンバーが社会で生きていくために必要な導きや支えが提供されているか?」「自尊心が満たされているか?」をチェックしてみてください。
過度な教育やルール、過干渉、否定的な言動や決めつけを繰り返す家族がいることや、社会へと導く父親的機能の欠如というケースは少なくありません。
・家族のメンバーの人生のステージ、発達段階に見合った対応、環境になっているか?を考えてみる
上にも書きましたように、発達の段階、人生のステージごとに、求められるものは変わっていきます。反抗期で自立しようとしているお子さんに、手厚い世話は不要です。成熟期に入れば、夫婦の関係も変わっていきます。時間とともに変化をしているのに、同じであると考えていれば、あつれきが生まれてしまいます。
・“絆”、ネットワークとは不変ではなく移ろいゆくもの、と知る
前項と関連しますが、人間にとっての”絆”というのは不変ではなく、人生のステージごとに変化していくものです。世の中でのつながり(ネットワーク)を接続-離脱しながら、人生は作られていきます。家族でも同様です。
最初は「愛着」として唯一無二であったものが、ワンオブゼムへ(いくつもの絆の中の一つ)と変わり、自らパートナーを得て新しい家庭を持ち、またその家庭も相対化されていく、というプロセスを経ます。絆が不変である、そうでなければならない、としてしまうと、家族という存在は呪縛となってしまいます。
・役割や機能は完璧でも、なぜか自分の心が晴れないなら、やはりそれは機能不全です
表面的に機能や役割が完璧にそろっていても、自分の気持ちが鉛のように重く晴れないなら、やはり問題はあるようです。社会では「家族はこうあるべき」という規範も強く、世間体を気にする家庭では外面だけが良い、ということはあり得ます。
3.機能不全家族、家族の問題を解決するための7つのポイント
・“自分にとって必要な”家族の機能を回復することこそが大切です
大切なのは、自分にとって必要な家族の機能をどのように回復させるのか、ということです。特に、「安全基地」と、「社会への導きやサポート」という機能はとても大切です。世間で俗に考えられている家族のモデルに自分を合わせる必要はありません。むしろ、囚われから抜け出せなくなる弊害も多いです。
家族は機能をはたせなくなった場合は、あり方を変えるように内や外から働きかける必要があります。また、家族の機能とは、決して家族固有の要素ではありません。そのため機能不全に陥った場合は、場合によっては、所属する家族から避難したり、家族以外のところで機能を満たすということが必要です。
・問題のメカニズムを理解する
本記事でまとめたような内容や、モラルハラスメントやトラウマがどのようなメカニズムで、どのような症状を生み出すのかについて理解することも必要です。自分自身でも知識を仕入れて、まずは頭の中だけでも問題を整理しましょう。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
・相談する相手は慎重に選ぶ
社会では、「こうあるべき」といった家族に対する信念は根強いものがあります。相談する相手も、その信念に染まっています。カウンセラーや医師、教師でさえも自由ではありません。
例えば、「問題があっても、家族は家族を愛しているものだ」といった考えを持つ人に相談しても、話は聞いてくれるでしょうが、「(問題のある状態でも)家族は本当はあなたのことを大切に思ってくれているんじゃない?」といった答えが返ってきて、かみ合わない話になってしまいます。あるいは問題にこだわる自分が責められることが起きます。これをセカンドハラスメントといいます。
相談先としては、精神保健福祉センター、配偶者暴力相談支援センター、子ども24時間電話相談、児童相談所、地域の児童家庭支援センター、など公的なものや、民間では、NPOが行っている窓口、同じ問題を抱える人が集まる自助会また、モラルハラスメントなどにくわしいカウンセラーも良いでしょう。性的虐待や暴力などの場合は、警察への相談、通報をためらわずに行いましょう。
・自分が安心安全になることが最優先
家族の世話を焼くということよりも、まずは自分にとって安心安全な環境づくりが最優先です。自分が余裕ができてはじめて他者のサポートできます。
・家族への執着やトラウマをケアする
機能不全家族や、問題のある家族の背景には必ずと言っていいほど、家系で受け継がれてきた不全感が存在します。それは「愛着不安」「トラウマ(発達性トラウマ)」と呼ばれるものです。そして、長年、そんな機能不全家族の中にいると、複雑性PTSD状態となり、自尊心が低下したり、身体にも症状が出るなど心身にさまざまな問題を抱えるようになります。一番は、家族に執着してしまうことです。もしそうした問題があるなら、トラウマをケアすることが必要です。
→参考となる記事はこちら
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
・家族を変えようとはしない
相手を意図して変えることは誰にでもできません。人は自らなるようにしかなりません。解決行動は副作用として「おまえはおかしい」という非言語の前提が入ります。変えようとすると余計に変わらなくなります。
ただ、機能を回復させる途中のプロセスとして、ある人を悪者とみなすことが必要なことはあり得ます。例えば、虐待をしている親がいた時にそれを悪者とするな、というのは明らかに無理なことです。その場合は、まず避難して当事者は別のところに代わりの家族を求めて、機能を回復することが必要です。
・環境を変える
否定的な発言、心理的な支配、暴言、暴力が続く場合は、今の家族を維持したまま問題を解決しようとしてもなかなかうまくいきません。環境を変えることも第一選択として考えてください。一人暮らしや、離婚、子どもの場合でしたら、公的機関に保護してもらう、といったことをちゅうちょせずに検討しましょう。
その際、「自分だけで生きていけるだろうか?」という強い不安がわいてきますが、実はそれも家族の否定的な影響による症状です。信頼できる相談相手の力も借りながら少しずつ悪い環境から抜け出していくことが大切です。
→関連する記事はこちら
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
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(参考・出典)
エドワード・ショーター「近代家族の形成」(昭和堂)
エリザベート・バダンテール「母性という神話」(筑摩書房)
日本家族研究・家族療法学会編「家族療法テキストブック」(金剛出版)
団士郎「対人援助職のための家族理解入門 家族の構造理論を活かす」 (中央法規出版)
東豊「家族療法の秘訣」(日本評論社)
フィリップ・アリエス「<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活」(みすず書房)
岩間 暁子「問いからはじめる家族社会学」(有斐閣)
木下 謙治「家族社会学 :第3版 -基礎と応用-」(九州大学出版)
レイモンド・M.ジャミオロスキー「わたしの家族はどこかへん? -機能不全家族で育つ・暮らす-」(大月書店)
斎藤 学「「家族神話」があなたをしばる -元気になるための家族療法-」(NHK出版)
信田さよ子「アダルトチルドレン完全理解」(三五館)
斎藤学「アダルトチルドレンと家族」(学陽書房)
西尾和美「機能不全家族」(講談社)
星野仁彦「機能不全家族」(アートヴィレッジ)
亀口憲治「家族療法」(ミネルヴァ書房)
若島孔文、長谷川啓三「事例で学ぶ家族療法・短期療法・物語療法」(金子書房)
AERAムック「家族学のみかた。」(朝日新聞社)
森山茂樹「日本子ども史」(平凡社)
柴田純「日本幼児史 子どもへのまなざし」(吉川弘文社)
上笙一郎「日本子育て物語 育児の社会史」(筑摩書房)
中江和恵「江戸の子育て」(文春新書)
柴崎正行「歴史からみる日本の子育て」(フレーベル館)
梅村恵子「家族の古代史 恋愛・結婚・子育て」(六一書房)
アスク・ヒューマン・ケア研修相談室「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」
など