機能不全家族とはなにか?家族の悩みの原因と特徴

機能不全家族とはなにか?家族の悩みの原因と特徴

ハラスメント・生きづらさ家族の問題(機能不全家族)

 私たちにとって最も身近な環境である”家族”。悩みの解決を考える際に家族を抜きにしては語ることはできません。私たちを社会から守るところであり、また厄介な存在でもある<家族>について医師の監修のもと公認心理師がまとめてみました。

 

<作成日2016.12.11/最終更新日2024.5.28>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

”家族”とは何か?その定義や捉え方
”家族”の機能とは何か?
健全な(機能している)家族とは何か
機能不全家族とは何か?

機能不全家族では自分が失われてしまう

 

 →参考となる記事はこちら

 ▶「私たちを悩ませる<機能不全な家族>の問題を解決する7つのポイント

 ▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状

 ▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴

 

専門家(公認心理師)の解説

 長引く悩みの多くは、「家族」にまつわるものといっても過言ではありません。そのくらい私たちにとって家族とはどのようにとらえてよいのか?悩ましい対象です。家族は、現時点での実際的な悩みの原因である場合もあれば、自己のアイデンティティや心理的な影響を意識、無意識に与えてくるものでもあります。問題のある家族であれば絶縁してでも関係を切ればよいはずですが、なかなかそのように思いきれないこともあります。それは、経済的な問題やしがらみ、社会の中で「家族を大切にしなければならない」という規範があったり、自らの善性や社会性がそれをためらわせたりするためです。家族が意識的にそれらを悪用してくるケースもあります。当事者が問題を自覚できていないケースもあります。問題が曖昧なケースもあります。問題があるにも関わらず「自分の家族は良い家族だ」との幻想の中にいる場合もあります。このように家族の問題を対象化して捉えることは困難を伴います。しかし、”機能”という観点で家族を捉えると問題がクリアになります。愛や道徳ということは脇において、「機能しているのか?」という観点で家族を捉えると、自らに及ぼしている家族の呪縛が明らかになります。程よい付き合い方とはなにか?も”機能”という観点で見れば明確になります。臨床においてもとても役に立っています。家族の”機能”、あるいは機能不全という知識はぜひ多くの方に知っていただきたいものです。

 

 機能不全家族、家族の機能不全とはなにか?について知るためには、当然ながら、家族とはなにか?家族の機能とはそもそもどういったものか?を踏まえる必要があります。まずは冒頭に家族とはなにか?について社会科学などの知見をまとめています。

”家族”とは何か?その定義や捉え方

 社会学(森岡清美による)では「夫婦・親子・きょうだいなど少数の近親者を主要な構成員とし、成員相互の深い感情的関わり合いで結ばれた、幸福(well-being)追及の集団」としています(木下 謙治「家族社会学 :第3版 -基礎と応用-」(九州大学出版))。

 近代の家族は、基本的には、①核家族 ②家族の中で情緒的絆が強まること ③夫婦が性役割別分業を行う が特徴とされます。日本の場合は、家制度として独自のスタイルとして成立しました。

 

・家族とは何か?は時代とともに変わる

 明治維新以前は、家族と家族外の境界もあいまいで子どもの養育も親族や共同体で担っていたものが、明治維新以後は、富国強兵の中、男性を家長とする家制度が敷かれ、性役割別分業のもと、子どもの養育は母親の役割とされるようになりました。そのなかで、母性愛や家庭を守る良妻賢母といった観念が強調されるようになっていきました。

 特に戦後は、制度ではなく個人同士の選択により「友愛(愛)」をもとに結びついた関係で成り立つとされます。結婚の前提もお見合いといったものではなく、恋愛を前提として、結婚後も家族愛で結ばれるとされるようになりました。個人主義や女性の社会進出、多様化が進む中、家族の在り方は急速に変化しています。

 

・「家族の愛」「親子の愛」もあくまで観念に過ぎない

 家族研究においては、友愛で成り立つ家族というのは、近代、現代の産物とされます。それ以前は、結婚や家族も制度として形成されるもので、そこに現代で考えられるような「家族の愛」はなかったとようです。夫婦の間でのロマンティックラブや、母性的な情愛というものも近代の産物とされます。

 現代の私たちからは信じられませんが、例えば、近代以前のヨーロッパでは子どもは生まれれば里子に出してしまい、不慮の事故で死んでも親は涙を流して悲しむというようなことはなったとされます(E・バダンテール「母性という神話」など)。子どもは人間とは異なる生物であると考えられていました。死んでもあわれみに値しないものでした。

 「家族の愛」というのも歴史的に作られて、そして社会や家族の関係性の中で育まれていくものであり、あらかじめ生理的に存在するものではないようです。

 

 

 

”家族”の機能とは何か?

研究者や観点によってさまざまですが主要なものを整理してみました。

・人類学や社会学の観点から

人類学者のマードックは、家族とは下記の4つの機能をはたすとしています。

・性
・経済
・生殖
・教育

 

バージェスとロックは下記としています。
・生殖
・養育
・情愛と文化の機能

 

社会学者のパーソンズは
・成人の情緒的安定
・子どもの社会化

としています。

上記の中で、近代国家において「教育」は国が担うものとされ、家族を飛び越えて国家が子どもに対して教育を行い自立した個人を育てるということが特徴です。

岩間 暁子「問いからはじめる家族社会学」(有斐閣)より)

 

 

・愛着研究の観点から

 愛着研究の観点からは、家族とは、メンバーが社会で自己実現をはたすための「安全基地」の場であると考えられます。さながら動物にとっての巣のように、社会に出る冒険から戻れる場所であり、そこでは安心安全が約束され、生きるために必要な養育の機能と、社会に出るための基本的な教育や導きが提供されるところです。

岡田尊司「愛着障害」(光文社)など)

 

 

・ハラスメントの研究の観点から

 安富歩教授などが行っているハラスメントの研究などからは、家族とはメンバーが本来持っている固有の気質、人格が尊重されてはぐくまれる場所、環境からの学習、情動の表出を妨げられず、そのための支援や機能が提供される場所と考えられます。

安冨歩・本條晴一郎「ハラスメントは連鎖する」(光文社)より)

 

 

・家族療法の観点から

 家族療法もさまざまな流派があり、家族療法全体として家族とはこうだ、という定義はありません。構造派などは、家族の内のサブシステムそれぞれの境界が明確であること、夫婦が適切な連合関係にあること、親子や兄弟のヒエラルキーが階層通りになっていて役割が逆転していないこと、などが健全な家族として想定されていました。ただ、そうした想定は伝統的な家族のスタイルであり、実際の家族の在り方は多様で変化していくことから、必ずしも普遍的なモデルとは言えないとされています。

 特に近年の家族療法は、そこで行われるコミュニケーションやシステムを問題として扱うのであって、扱われる家族の問題とはあくまで実体はなくストーリーに過ぎない、といった捉え方がなされます。大切なのは、目の前のクライアントが元気になることで、家族がかくあるべきとは二の次であるということです。

 

 家族療法の大家である東豊教授も、ストーリーが真実として扱われて、家族が問題とされて苦しんだり、犯人探しが始まったりという弊害を指摘しています。「家族構造なんてただのフィクションですよ。使い方によってセラピーの役に立つ一つの視点・道具にすぎません」(東豊「家族療法の秘訣」(日本評論社))としています。

 目の前のクライアントの問題こそが大切であり、標準とされる家族モデルはあくまで「フィクション」や「ツール」として参照することが適切なようです。

 

 

(参考)トルストイの言葉

 幸福な家庭は、どれもよく似通ったものだが、不幸な家庭はみなそれぞれに不幸である。
 (「アンナ・カレーニナ」

 

 

 

 

健全な(機能している)家族とは何か

 問題のない家族というものはありません。何かしら問題を抱えているものです。ただ、仮に健全な家庭というものを想定したとすれば下記のものが参考になるかもしれません。
アスク・ヒューマン・ケア研修相談室「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」より)

・問題があれば話し合う
・感情は率直に表現する
・言いたいことは、直接言う
・現実的な期待~弱くてもいい、間違ってもいい、完全でなくてもいい
・自分のことを大事に考えていい
・本音で話す
・大いに遊び、楽しむ
・変化は良いことだ

 

アメリカのセラピスト、クリッツバーグは下記のようにまとめています。
・強固なルールがない
・強固な役割がない
・家族に共有されている秘密がない
・家族に他人が入ることを許容する
・ユーモアのセンス

・家族成員はそれぞれに個人プライバシーを尊重され、自己という感覚を発達させている
・個々の家族成員は家族であるとの感覚を持っているが、家族から去ることも自由である
・家族成員間の葛藤は認められ解決が試みられる
・常に変化し続ける
・家族に一体感がある

 

 アメリカの進路カウンセラーのジャミオロスキーは、マズローを援用しながら家族が、下記の中でそれぞれ必要とするものと満たしていれば機能的な、健全な家族としています。
・生存 ・安全と安心 ・愛情と帰属感 ・自尊心 ・成長 ・自立して生活するスキルを身につけること

 

 

 

機能不全家族とは何か?

 私たちの多くが直面する家族に由来する悩み、問題はもっと目に見えにくく、微妙なものです。ただ、機能不全家族についての書籍や研究では、虐待など比較的大きな問題を抱える家庭が取り上げられています。

 そのため、機能不全家族の書籍で見られるような説明からいきなり入ったのでは問題のいき値が高すぎて、多くの問題がこぼれ落ちてしまう恐れがあります。ここでは、表面的な問題の大きさではなく、家族の機能不全の本質を整理してみました。

 

・機能不全とは誰にでも起きる身近な問題

 機能不全とは、まさに上記で明らかにしたような家族の機能が失われてしまうことです。
 家族にとって

 1.「安全基地」ではない
 2.「社会で生きていくための導きや支え」がない

 状態です。

 

 ジャミオロスキーが挙げた要素はとてもわかりやすいもので、機能する家族の要素が欠けていることがわかります。
 (・生存 ・安全と安心 ・愛情と帰属感 ・自尊心 ・成長 ・自立して生活するスキルを身につけること)

 

 例えば、否定的な言動を行う家族がいた場合に、は自尊心が満たされません。
 夫婦がけんかをしている場合も、子どもにとっては安全と安心が脅かされています。父親が仕事で家にいない、あるいは、子どもっぽい性格で父親としての役割をはたさない場合、子どもは社会で自立して生活するスキルを十分に身に付けることができなくなります。

 このように、機能不全とは、ちょっとしたことで誰にでも起きる身近なことです。 

 

・機能不全は、建前で覆い隠されてしまう

 多くの場合、機能不全家族では、ダブルバインドによって機能不全を、“ニセの愛情”“ニセの規範”“ニセの教育、しつけ”によって覆い隠され、当事者にとっても問題を感じられなくさせられています。 
 偏った、過剰なしつけやルールを押し付けるメンバーがいた場合に、そのメンバーは、表面的な家族の建前を持ち出して覆い隠してしまいます。「おまえのことを思って厳しくしている」「心を鬼にして怒っている。これが本当の愛情だ。」と。

 子どもや妻の場合、「生存」の機能を握られていますから、見捨てられる不安を感じて、「おかしい」と思う気持ちを押し殺してしまいます。そのうち建前を真実だと考えて家族が変だということに気がつけなくなってしまうのです。

 多くの場合、当事者は、「他の家庭でも同様だ」「本当は優しいところもある」と考えて、問題であることがわからない場合があります。

 

 

・家族とはとてもぜい弱なシステムで機能不全が生じやすいもの。機能不全が全くない家族は存在しない

 家族は私たち個人を社会から守ったり、幸福追求を支えるものです。しかし、家族が単なる「観念」であることを忘れ、家族のメンバーが自らの信念を絶対として支配的にふるまったり、必要な役割をはたせない場合には機能不全に陥って私たちを縛り苦しめます。
 機能をはたすために必要な条件やサポートが欠けているにも関わらず、家族のメンバーの問題として個人に原因を押し付けてしまうと問題は見えなくなります。
 特に現代では、家族の在り方も急速に変化してきており、それらに対応しながら家族は機能をはたしていく必要がありとても難しいものです。会社など人間が作る組織で問題のないものはないように、問題のない家族は存在しません。少なからず必ず機能不全が存在します。
 

 

・“完全な家族”も実はおかしい

 家族療法の構造派が想定するような境界やヒエラルキーが明確で、社会的に見ればモデルになるような完全な家族(例えば、母親は良妻賢母、父親は社会的エリート、子どもは親孝行、というパターン)で、実は機能不全家族ということがあります。

 家族のメンバーがあるべき姿を演じさせられているだけで、人間的な温かみに欠け本来の自分を受け入れてもらえていないために、何かの拍子に問題が噴出することになります(例えば、行動障害、摂食障害といったようなこと)。

 

 〝問題のない”家族、“完璧な”家族”があれば、それはどこかに無理があり、異様なものです。問題のあることが問題ではなく、問題を見ないようにしていたり、解決する力や機能がない状態を「機能不全家族」と言います。

 

 

・家庭裁判所の研究報告や非行の事例などから見る機能不全家族の特徴

非行に走る子どものいる家庭に共通する家族像として下記のことが指摘されています。

益田哲「第10章 青少年問題と家族」『第3版家族社会学』より)

 

1.母親(やそれに代わる存在)への基本的信頼感の欠如
2.親が「良い子」「理想の姿」だけを求めている(期待過剰)
3.父親の役割の欠如(父親が母をサポートできなかったり、父親像を示すことができない。主体性がなく感情表出が乏しい影の薄いタイプや、暴力的で威圧的なタイプなどがあります)

4.祖父母の陰に隠れる両親

 

また、子どもの社会化機能を阻害するものとして、下記のものを上げています。

1.期待過剰な親

2.家庭内の一体感のなさ

3.父の役割の欠如

4.社会性の未発達、社会経験の乏しさ

5.社会体験の乏しさ~ギャングエイジ体験の衰退

 

 

・アメリカのセラピスト、クリッツバーグによる機能不全家族の特徴

 ・強固なルールがある
 ・強固な役割がある
 ・家族に共有されている秘密がある
 ・家族に他人が入り込むことへの抵抗
 ・きまじめ
 ・家族成員にプライバシーがない(個人間の境界があいまい)
 ・家族への偽の忠誠(家族から去ることが許されない)
 ・家族成員間の葛藤は否認され無視される
 ・変化に抵抗する
 ・家族は分断され統一性がない

 

 世の中では、芸能人、著名人などで子どもへの厳しいしつけを教育として自慢している方がいますが、まさに「強固なルールがある」ということからすれば、機能不全家族かもしれません。

 また、機能不全家族の基準は、「愚痴を言うな」「仕事がつらくても逃げるな」として、社員に過酷な環境や労働を押し付けるブラック会社にもそのまま当てはまることがわかります。

 

・アメリカのカウンセラー、ロバート・サビ― とジョンフリエルによる機能不全家族に共通するルール

1.問題について話し合うのは良くない
  問題があっても話し合わずに否認する。

 

2.感情は率直に表現してはいけない
  親に甘えられない。感情を表現できない。

 

3.言いたいことは直接言わずに、第三者を介す
  例えば夫婦の問題を、子どもを介して伝え合うなど。

 

4.非現実的な期待~強く、正しく、完全であれ
  高い理想を示し、それから外れることを許さない。

 

5.利己的であってはいけない
  勝手なことは許されない。自分のニーズは後回しにさせられる。

 

6.私が言うようにせよ、するようにはするな
  子どもには決まりを守るように言うが、自分は守れない。
  子どもは失望し、本音と建て前を使い分ける。

 

7.遊んだり、楽しんだりしてはいけない
  親がいつも緊張度が高いなど、深刻そうにしていたり、疲れていたり、
  何かを成し遂げることが重要で、リラックスしてのんびりするようなことは許されない。

 

8.波風を立てるな
  機能不全な状態に問題を感じてもそれを変えることは許されない。

 

 

参考)「レイモンド・M.ジャミオロスキー「わたしの家族はどこかへん? -機能不全家族で育つ・暮らす-」(大月書店)

 

 

・機能不全家族の子どものパターン

 機能不全の家庭の子どもは、ある役割にはまり込むことで機能不全家族を支えるようになります。

 

・ヒーロー:一家の中でヒーローのような役割を背負い、完璧主義で勉強やスポーツで頑張り、「よい子」となり。家族をまとめようとします。評価されなくなると自分は認められないと感じています。本当は休みたいと感じています。

・スケープゴート:一家の中のダメな部分をすべて背負います。家族の中で問題児となり、彼がいなくなればすべてうまくなると思うような行動をとることで、家族をまとめています。誰も自分を理解してくれずにモヤモヤを感じています。

・ロストワン(いない子):壁のシミのように存在感がない状態を作り、自分が傷つくことを防いでいます。周囲はほおっておいても大丈夫と思っていますが、本人は自分には存在価値がないと不安や寂しさを感じています。

・プラケーター(慰め役):小さなカウンセラーのように問題を抱える親を慰める役割をします。

・クラン(道化):家族でいさかいが起きると、道化を演じてまとめます。トラブルに正面から向き合うことを恐れています。

・イネイブラー(支え役):偽親となって、機能しない親の代わりをして家族の世話をします。人の世話ばかりをして、自分が何をしたいかは、わからなくなっています。男の子が母親と疑似夫婦となる情緒的近親姦と呼ばれる状態が起きることがあります。特に女の子が父親と疑似夫婦となった場合、性的虐待が生じることがあります。

 ブラック企業も、機能不全家族と非常に類似しますが、上記のような頑張るヒーロー社員や、問題社員がいることがわかります。ヒーロー社員のニセのやりがいだけを取り上げると、「良い会社」となりますが、実態はそうではないということです。

 

 

・機能不全家族で見られる親の特徴

・家族や子どもが遭遇する失敗や挫折に適切に対処できない

 人間は失敗や挫折を次への”機会””方向転換の契機”として利用しながら人生を切り開いていきます。しかし、機能不全家族では、失敗はただ責めるべきもの、恥ずかしいものととらえたりしてしまいます。事故、病気、死別も同様にそれらを適切に処理することができず、例えば子どもが代わりに負債や幻想を担う、ということが生じます。社会への導き手としての機能を果たすことができません。

 

・子どものわがままや感情を”異常なもの”ととらえてしまう

 人間は自我(エゴ)があり感情を持つ生き物ですが、わがままや感情を表現する自分の子どもを異常な存在ととらえ、恐れてしまう、ということも機能不全家族では生じます。その結果、子どもに適切に接することができず、折檻したり、心のない言葉をかけて決めつけて、ということがしばしば見られます。

 

・親バカになれない

 機能不全家族では、子どもやメンバーにトラブルがあっても子どもを守らず、世間体や喧嘩両成敗、「あなたにも悪いところがあるのでは」といった定見がない対応がなされます。親は親バカであるくらいがちょうどいいものですが、機能不全家族の親は健全な親バカになることができません。

 

・パブリック(社会)を代表できない

 子どもにとって親はパブリック(社会)を代表する存在として、子どもに必要なことを伝えたり、接したりするものです。しかし、機能不全家族はパブリック(社会)を代表した関わりをすることができません。代わりに、親の不全感や特定の偏った思想に基づいたローカルルール(偽ルール)を「これが常識だ」として押し付けようとします。

 

・弱くあることを許さない

 子どもやメンバーが弱くあることが許されません。弱音を吐いたり、ぐちを言ったりすることができません。

 

・公的な役割意識の欠如、未熟さ

 機能不全家族では、「父」「母」「夫」「妻」といった公的な役割意識が欠如しています。子どもに嫉妬したりへそを曲げたりするなど、大人が幼いふるまいを見せたりすることがあります。欠如した機能を子どもなど他のメンバーが代替します。

 

・異文化や多様性、変化への対応の弱さ

 機能不全家族の親は、異文化や多様性のあるもの、変化への対応が弱いです。子どもはまさに異文化、変化の塊のような存在です。子育ては異文化や変化に柔軟に対応していく事が必要ですが、異文化を恐れ、自分が信じる正しい文化、安定した状態に押し留めようと統制してしまいます。その結果、異文化から得られる豊かなリソースが失われていってしまいます。

 

 

・機能不全家族で生じる事象やその他の特徴

下記のようなことも機能不全家族に見られる事象です。

 

・情緒的な虐待

 ネガティブな発言、暴言などを繰り返して、メンバーの自尊心の発達を阻害し、自らで問題を解決する力を奪います。

 

・ネグレクト

 食事や衣服や医療、愛情など子どもに必要なものを与えない状態です。

 

・過保護

 子どもは10代の終わりまでに自立をはたせるように支援する必要があります。
 そのためには自らで問題を解決できるようにする必要があります。
 親が先回りして問題を解決することは子どもの成長に役立ちません。

 

・支配的な親、家族

 自分の考えは正しい。私の世話がなければ生きていけない、といった考えを家族に押し付ける親や家族がいる場合です。その言葉の裏には「あなたはダメな人間」という罪悪感の植え付けがあります。言葉ではなく、無意識に刷り込んでくることもあります。

 

・性的虐待

 いわゆる性的虐待もそうですが、ポルノを見せる、性的な発言をするということも含まれます。

 

・身体的な虐待

 

・完全主義

 完璧であれ、ということや一方的に親の期待やルールを押し付けることは子どもの自尊心や帰属感をそぎます。

 

・依存症

 アダルトチルドレンの本来の意味は依存症の親の子ども、という意味ですが、依存症に陥っている親や家族がいると身体的、精神的にさまざまな悪影響があります。

 

・宗教や政治的狂信

 親が偏った信念に執着すると家族の精神的、知的な成長が止まってしまうことがあります。

 

・ワーカホリック

 親が仕事優先すぎて家族に必要な関与ができないと、子どもにとって必要なものを満たすことができなくなります。

 

・病気や障害のある子どもがいる場合

 手のかかる子どもばかりに愛情を注ぎ、ほかの家族がないがしろにされる場合に機能不全となることがあります。

 

・精神的な疾患

 親や家族が精神障害や発達障害を持っているような場合、身体的、精神的に必要な支援を受けることができなくなります。例えば、精神障害、発達障害傾向を持つ親や家族が不安、心配過多でネガティブな発言を繰り返したり、こだわりが強すぎて柔軟に対応ができないということはよく見られます。 

 

 

参考:近年話題となる「ヤングケアラー」という視点

 近年、ヤングケアラーが問題となっています。若年や成人してからも介護など家族の問題に関わらされることで自分の本来の仕事や学業に十分に取り組めない、というケースはあります。時間的なものだけではなく、精神的にも罪悪感や偽の責任意識から社会に出ることができなくなるということもあります。まさにヤングケアラーも家族の機能不全によって生じる現象の一つと言えます。下記の書籍は大変参考になります。

 村上靖彦「「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立」(朝日新聞出版)

 山中 浩之, 川内 潤「親不孝介護 距離を取るからうまくいく」(日経BP)

 

 

・機能不全家族の背景にある”愛着不安””トラウマ”の存在

 機能不全家族の生育歴を聴取すると、必ずと言っていいほど、”愛着不安””トラウマ”の存在が確認できます。まさに家系の中で引き継がれてきた不全感、負の文化が家族の機能不全を引き起こしていることがわかります。機能不全家族の問題を理解するためには、”愛着不安(愛着障害)””トラウマ”について理解することが必須です。

 

 ▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状

 ▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状

 

 

 

機能不全家族では、自分が失われてしまう

 機能不全家族においては一番の問題はなにか?といえば、それは、家族のメンバーがそこにいることで「自分がなくなってしまう」「自分が失われてしまう」ということです。

 近年問題となるヤングケアラーについて報告される中でも当事者が「自分がなくなっちゃうんですよね」と口にしまうが、家族の機能不全を埋めるために自分が使われてしまったり、家族を通じて自己を形成するために重要な家族が機能不全に陥ることで、本当に自分がなくなってしまうのです。実際に、私(三木)も臨床の中で機能不全家族に育った方をカウンセリングすることがありますが、「白くぼんやりした」印象を受けます。自分を失うと、簡単なことでも時間を守れなくなったり、社会に出ることが困難になったり、家族への恨みや怒りやこだわりに支配されてしまったり、さまざまな問題が生じるのです。

 

 

 

 →参考となる記事はこちら

 ▶「私たちを悩ませる<機能不全な家族>の問題を解決する7つのポイント

 ▶「ハラスメント(モラハラ)とは何か?~原因と特徴

 

 

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(参考・出典)

エドワード・ショーター「近代家族の形成」(昭和堂) 
エリザベート・バダンテール「母性という神話」(筑摩書房)
日本家族研究・家族療法学会編「家族療法テキストブック」(金剛出版) 
団士郎「対人援助職のための家族理解入門 家族の構造理論を活かす」 (中央法規出版)
東豊「家族療法の秘訣」(日本評論社)
フィリップ・アリエス「<子供>の誕生 アンシァン・レジーム期の子供と家族生活」(みすず書房)
岩間 暁子「問いからはじめる家族社会学」(有斐閣)
木下 謙治「家族社会学 :第3版 -基礎と応用-」(九州大学出版)
レイモンド・M.ジャミオロスキー「わたしの家族はどこかへん? -機能不全家族で育つ・暮らす-」(大月書店)
斎藤 学「「家族神話」があなたをしばる -元気になるための家族療法-」(NHK出版)
信田さよ子「アダルトチルドレン完全理解」(三五館)
斎藤学「アダルトチルドレンと家族」(学陽書房)
西尾和美「機能不全家族」(講談社)
星野仁彦「機能不全家族」(アートヴィレッジ)
亀口憲治「家族療法」(ミネルヴァ書房)
若島孔文、長谷川啓三「事例で学ぶ家族療法・短期療法・物語療法」(金子書房)
AERAムック「家族学のみかた。」(朝日新聞社)

森山茂樹「日本子ども史」(平凡社)
柴田純「日本幼児史 子どもへのまなざし」(吉川弘文社)
上笙一郎「日本子育て物語 育児の社会史」(筑摩書房)
中江和恵「江戸の子育て」(文春新書)
柴崎正行「歴史からみる日本の子育て」(フレーベル館)
梅村恵子「家族の古代史 恋愛・結婚・子育て」(六一書房)

広田照幸「日本人のしつけは衰退したか」(講談社)

E.トッド「家族システムの起源 上・下」(藤原書店)

E.トッド「新ヨーロッパ大全 Ⅰ Ⅱ」(藤原書店) 

アスク・ヒューマン・ケア研修相談室「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」

など