過度に体重を制限したり、過食がやめられなくなったり、など多彩な症状を見せる摂食障害。女性に顕著に見られる症状です。「ダイエットのし過ぎ」など誤解も多いです。今回は医師の監修のもと公認心理師が、摂食障害の概要と原因についてまとめてみました。
<作成日2016.4.13/最終更新日2024.6.6>
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この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・摂食障害(過食症、拒食症)とは何か
・摂食障害(過食症、拒食症)の種類
・摂食障害(過食症、拒食症)発症のきっかけ
・摂食障害(過食症、拒食症)発症の原因~7つのポイント
→摂食障害(拒食症、過食症)の症状と治し方については、下記をご覧ください。
トラウマ臨床の観点からは、過食でお困りのケースがとても多いです。むちゃ食いや嘔吐を伴うようなケースがよくみられます。摂食障害と診断されていなくても、お伺いすると不全感を解消するために食べ過ぎてしまうというという方はとても多いです。もちろん背景には愛着や発達性トラウマの問題が存在します。そうした過食はトラウマケアの対象となり、取り組む中で改善されていきます。
拒食症についても愛着やトラウマ、家族関係の問題が想定されます。ただ、拒食症は精神障害の中でも対処が難しい症状の一つです。拒食症をカウンセリングのみで対応することは危険です。また、病院もどこでも良いわけではありません。必ず専門の医師、病院でのサポートを受ける必要があります。
摂食障害(過食症、拒食症)とは何か
簡単にいえば、「痩せていることにしか自分の存在価値を見いだせない」という心の病です。
身体の疾患ではなく精神的な要因による病気と考えられています。体重をコントロールすることで、自分の価値や人生への不安を緩和させようとします。
拒食のみ、過食もあり、などさまざまなタイプがありますが、基本的にはコインの裏表のように同じ病と考えられています。
(参考)摂食障害の患者数
1998年の調査では、年間の有病率は、拒食症は12,500人、過食症が6,500人、特定不能の摂食障害が4,200人となっています。2014~15年の調査でも同傾向とされます。9割が女性で、拒食症は10代で、過食症は20代でのり患が多いとされます。摂食障害による死亡率は日本では7%となっています。自殺も多く、精神障害の中でも最も致死率の高い症状です。
摂食障害(過食症、拒食症)の種類
摂食障害には、いくつかのタイプが存在しています。拒食症や神経性過食症は若い女性が多いです。
「拒食症」(神経性やせ症)
拒食症状があり、体重が最低体重以下が続いている場合(3ヶ月以上)。
「摂食制限型」:いわゆる拒食のみのケースです。
「過食(むちゃ食い)・排出型」:拒食もありますが、過食も見られるケースです。
「過食症」(神経性過食症/過食性障害)
過食症状があり、体重が標準以上にある場合(3ヶ月以上)※嘔吐などが伴う場合に体重はそれほどではないケースはあります。単なる食べ過ぎなどとは異なります。ストレスや生活の変化をきっかけに過食を行います。スイッチが入るととりつかれたように食べ始めて、嘔吐などによって終わるものです。
「神経性過食症」:過食だけではなく、嘔吐や下剤、浣腸の乱用があるケースです。やせたいという願望があります。神経性やせ症から移行するケースもあります。
「過食性障害(むちゃ食い症)」:代償行為(嘔吐や下剤)はなく、過食のみケースです。※年齢は高めで、男性も多いです。
摂食障害(過食症、拒食症)発症のきっかけ
・発症のきっかけ
ほとんどのケースで思春期に発症します。拒食症は、思春期で価値観が多様化して人間関係が難しくなる中、人生がコントロールできなくなった不安、従来のやり方が通用しない不安や自信のなさを解消し、安心感と達成感を得るために生じます。自分の体重をコントロールすることで、絶対の安心や自信を得ようとします。基本的に、「自己への不信や不安の病」という性格があります。
一方、過食は、2つのケースが存在します。
一つは、拒食の反動で生命維持のために生じます。栄養が不足している状態を補うために身体から突き動かされるように過食がやめられなくなります。
もう一つは自分を嫌いと思う気持ちが蓄積されて、人に振り回されるもやもやを解消するために生じるタイプです。後者は「対人関係におけるもやもや」が特徴です。
摂食障害(過食症、拒食症)発症の原因~7つのポイント
1.遺伝的要因
他の精神障害と同様に、摂食障害には遺伝的要因(体質)が存在します。もちろん、遺伝だけで発症するかどうかが決定するわけではなく、環境要因と影響しあって決まります。セロトニンや、脳由来神経栄養因子、オピオイドに関する遺伝子との関連が指摘されています。
女性に圧倒的に多いことから、性別もリスク要因として挙げられています。
2.性格気質
摂食障害にはよく見られる性格気質があります。
・自分で努力するタイプ
・人に頼ることが苦手
・自己主張が苦手(特に周りの人へのお願いなどは苦手)
・不安の強い人
・環境の変化への柔軟性の欠如(セットシフトの困難さ)
・全体を見渡すことが苦手(セントラルコヒアレンスの障害)
・好奇心が強い人は過食に陥りやすい、保守的で慎重な人は過食にはなりにくい
・拒食症の人は石橋を叩いて渡るタイプが多い
3.文化的背景
現代における、痩身を美とする風潮や健康志向からのダイエットなど「痩せていること=善、美」とする情報にあふれています。そうしたことが摂食障害にも影響している、との指摘があります。
・摂食障害の歴史
摂食障害(Eating disorder)は、拒食症として認識されることからスタートしました。拒食症に関する記述は、1689年が初とされます。「消耗病」という名称でした。日本でも、江戸時代に「不食病」「神仙労」という拒食症に相当する病気についての記述があります。
1873年に「神経症性無食欲症」という名称がつけられるようになります。1930年頃までは、シモンズ病(新陳代謝が低下し著しくやせる病気)と混同され、下垂体の病気とされていました。社会的に問題になるほどまで増加したのは、冷蔵庫が普及した1950年代のアメリカでした。
過食症についても以前からそういう症状があることは知られていましたが、明確に捉えられるようになったのは1979年のことです。1980年のDSM(米国精神医学会の診断マニュアル)で「摂食障害」という概念が登場します。
かつては「思春期やせ病」と呼ばれていたように10代、20代の中流家庭の女性がかかる病でした。昨今は幅広い家族環境で見られ、30代、40代の患者も増えています。
4.家庭、学校、職場の環境
両親の不和や不適切な養育などが摂食障害の一因になるとの指摘があります。し癖モデルでは、依存症は家族関係の病であるとされます。
家族や友人からダイエットや容姿へのネガティブなコメントや過度な期待が発症のきっかけになることがあります(からかわれ体験)。
学校や職場での人間関係での否定的な体験、挫折経験が背景となることがあります。
また、部活やスポーツ選手で体重を維持することが求められる競技(バレエ、体操競技、陸上競技など)で、摂食障害に陥る危険性が指摘されています。
5.トラウマ/愛着障害
海外では、摂食障害の3~5割に性的虐待の被害経験があるとされます。全てのケースではありませんがトラウマ、あるいは愛着障害は摂食障害の背景として考えられます。特に過食を伴うタイプには、トラウマの関与が指摘されています。
⇒参考となる記事はこちら
▶「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因」
▶「「愛着障害(アタッチメント障害)」とは何か?その特徴と症状」
6.発達障害(パーソナリティ障害)
過度のこだわりや、対人関係がうまくいかない、など摂食障害の背景には発達障害が潜んでいることがあります。発達障害様状態は、愛着障害やトラウマによるものなど後天的な要因でも生じることがあります。
⇒参考となる記事はこちら
▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説」
摂食障害は自己愛的なパーソナリティ障害である、との見方もあります。昨今は、精神医学にも発達障害の観点から見直しが進んでいます。パーソナリティ障害とは実は発達障害のことではないか、とも指摘されています。世の中の価値を痩せていることに収斂させて人生や対人関係の問題に対処しようという極端な精神状態は、先天的にせよ後天的にせよ発達の未熟さということが背景として潜んでいると考えられます。
7.依存症や強迫性障害との関連性
摂食障害については、依存症の一種とする考え方(し癖モデル)、強迫性障害の一種とする考え方(強迫性スペトラム障害)、境界性パーソナリティ障害から説明しようとする考え方などさまざまなものがあります。
特に、過食や嘔吐などは、その苦しさから爽快感が得られるなど、依存症に近いものではないかと考えられてきました。
ただ、アルコールやギャンブルと違い、過食は必ずしも本人が望んで行っているわけではないことなどから、摂食障害全体を説明できるかについては、疑問ともされます。
⇒参考となる記事はこちら
▶「依存症(アルコール依存等)とは何か?その種類、特徴、メカニズム」
→摂食障害(拒食症、過食症)の症状と治し方については、下記をご覧ください。
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(参考・出典)
日本摂食障害学会「摂食障害治療ガイドライン」(医学書院)
滝川一廣・小林隆児・杉山登志郎・青木省三=編「そだちの科学25号 摂食障害とそだち」(日本評論社)
富澤 治「裏切りの身体-「摂食障害」という出口」(エム・シー・ミューズ)
松木邦裕「摂食障害というこころ」(新曜社)
水島 広子「焦らなくてもいい!拒食症・過食症の正しい治し方と知識」(日東書院出版)
など