吃音(どもり)とは、基本的に小児期に発症するもので多くは自然と回復しますが、症状の進展を防ぐためには環境を整えることが大切です。そのためには正しい知識を持って取り組む必要があります。インターネットでは古い情報、商材の販売目的のページなどが氾濫して正しい情報を得ることが難しくなっています。医師の監修のもとに、自身も吃音克服を経験した公認心理師が、幼児・子どもの吃音(どもり)に適切に対処するために大切なポイントをまとめてみました。よろしければご覧ください。
<作成日2016.1.16/最終更新日2024.6.4>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。自身も吃音に苦しみ、カウンセリングで克服した経験を持つ。吃音治療、克服のサポートに長年携わっている。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・自身が吃音当事者でもあり、克服経験を持つ公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
1.正しい知識がないと、幼児・子どもの吃音(どもり)への対応が不適切なものになってしまう
2.吃音(どもり)とは何か?
3.吃音の発症は、親のせいではない。親は悪くない
4.吃音(どもり)の多くは自然回復する
5.自然回復するか、症状が進むかは周囲の環境の影響が大きい
6.幼児・子どもへの吃音の対応の基本は“環境調整”~自然な発達を支援する
7.幼児・子どもの吃音(どもり)に関わる際に大切なこと
→吃音(どもり)について関連する記事はこちらをご参考くださいませ
▶「吃音(どもり)とは何か?その原因と症状を当事者でもある専門家が解説」
▶「吃音(どもり)の治し方~自ら克服経験のある専門家が伝える10のポイント」
→当センターの吃音(どもり)専門カウンセリングはこちらをご覧ください
私(三木)は吃音の当事者です。10代の頃は吃音に苦しみ、友だちとのコミュニケーションがううまくいかずに悩んだ経験があります。カウンセリングを通して大学院生の頃に吃音を克服した経験を持ちます。そして、治療者としても数多くの方たちと関わってきました。
子どもの吃音が大人と異なる点は、適切に対処すれば、わずか数日~数週間で改善するということです。特に周囲の大人の対応が改善するだけであっという間に改善することも珍しくありません(大人ではさすがにそこまでの速さはありません)。それだけに親や学校の先生が正しい知識を持つことはとても大切です。一方で、吃音は相談しようにも専門家が身近にいないことも多く、専門であるはずの耳鼻科や言語聴覚士に相談しても、よほど経験がない限り適切な対応がなされないこともしばしばです。間違った知識を伝える商材もありますから、書籍等で正しい知識を得ることが大切です。
1.正しい知識がないと、幼児・子どもの吃音(どもり)への対応が不適切なものになってしまう
ある調査では、幼児・子どもの吃音(どもり)に対して、88%の親が「ゆっくり話しなさい」「落ち着いて」など話し方へのアドバイス、干渉を行っていることがわかっています。これらのアドバイスは、暗に「あなたの話し方はおかしい」とのメッセージを含み、さらに流暢に話そうとしてかえって吃音(どもり)を悪化させてしまうことになります。
吃音(どもり)の発症の原因は親にはありませんが、症状の進展には周囲の環境の影響が大きいことがわかっています。吃音(どもり)にとって何が良いことなのか?悪いことなのか?を知ることがとても大切です。
2.吃音(どもり)とは何か?
吃音(どもり)は、発達の過程で生じる特徴的な非流暢さのことを言います。言葉を覚え始めた幼児が、多語発話期(まとまりのある文章で会話できる段階)に差し掛かった際に急速に身に付ける語彙や文章の複雑さに言語処理の能力が追いつかずに発症すると考えられています。
⇒別の記事でまとめていますので、そちらをご覧ください
▶「吃音(どもり)とは何か?その原因と症状を当事者でもある専門家が解説」
吃音(どもり)は多くの場合2~5歳までの間に発症します。基本的に生まれつき吃音であるという人はいません。吃音(どもり)の98%が10歳までに発症します。もちろん、青年期以降も発症しますがその割合は非常に少ないとされます。
もともと吃音(どもり)になりやすい体質の方が、環境を誘因として発症すると考えられています。人口の5~10%が生涯のうちに吃音(どもり)が生じるとされています。
私たち人間にとっては決してまれではないものと言えますし、幼いころの吃音(どもり)は、障害や病というよりは発達の中で起きる自然な過程ともいえます。そのため、多く(7~9割)は成長する中で自然と回復していきます。
3.吃音の発症は、親のせいではない。親は悪くない
かつては、親の育て方や子どもの性格が原因ではないかとされた時期もありますが、現在では研究によって否定されています。発達の過程で必然的に生じるものです。特に思い当たる理由なく急に発症することもあります。
そのため、発吃についてご自身を責めたり、罪悪感をお持ちになる必要はありません。
安心して、子どもが楽しく話ができる環境を一緒に整えていってあげてください。
4.吃音(どもり)の多くは自然回復する
幼児・子どもの吃音(どもり)は発症から1.5年以内に3分の1が回復し、4年では74%が回復するとされています。最新の研究では9割を越えるとされるなど考えられているよりも自然回復の割合は高いようです[Mansson,2005]。
男子よりも女子のほうが回復しやすいとされています。また親族に吃音(どもり)のある人がいない、発吃時期が早い、構音獲得に問題がない、言語能力や認知能力が高い、情緒/情動面の問題がない、といったことが回復しやすいケースとされています。
5.自然回復するか、症状が進むかは周囲の環境の影響が大きい
幼児・子どもの吃音(どもり)はほとんどの場合、環境を整えることで自然と収束していきます。環境を整えるとは、発話に関してストレスとなるようなことを避け、その子の発話の能力に応じた言語環境を整えていくことを言います。
逆に、過度なストレスがかかったり、心理的にネガティブな影響を受け続けると、負の強化(オペラント学習)が行われ吃音(どもり)が条件づけられてしまいます。
さらに、吃音(どもり)をおさえよう、隠そうとする随伴症状があらわれ、対人関係で苦手意識を持つようになるなどして、現実においても適切な対処ができなくなると、いわゆる「吃音(どもり)」という悩みが形成されてしまうことになります。
吃音(どもり)とは、非流暢さそのものをさすのではなく、それによって生み出された心理的、社会的な「悩み」全体を指します。
吃音(どもり)が自然回復せず悪化するかどうかは、環境の影響が大きいといえます。※この場合の環境とは、親のことだけを指しているのではなく、その他の家族、お友だち、学校の先生、習い事の先生など全て含みます。
6.幼児・子どもへの吃音の対応の基本は“環境調整”~自然な発達を支援する
幼児・子どもの吃音(どもり)への対応の基本は、環境調整です。
幼児は環境依存性が高く、環境が変わると見違えるように良くなることも珍しくありません。(大人の場合は、自分の中に環境を内面化しています。)
言葉の指導や治療は必要ないのか?と思われるかもしれませんが、必要ありません。吃音(どもり)というのは、発達の過程で発話の能力が追いつかないために生じるのであって、話し方に障害があるわけではないからです。話し方の指導は効果がないだけでなく、自尊心を傷つける結果にもなります。話し方は、環境に問題がなければ成長の過程で自然とバランスされていくものです。
環境調整とは、その子のペースに合わせた自然な発達を支援するということです。子どもですから、たどたどしくて当たり前ですし、うまく話せなくて当たり前です。過度な期待をしたり、不用意なアドバイスをして「うまく話をしよう」あるいは、「自分は話し方がおかしい」と思わせるようなことは避けることが求められます。
7.幼児・子どもの吃音(どもり)に関わる際に大切なこと
幼児・子どもの吃音(どもり)に関わる際に大切なことを下記のようにまとめてみました。
基本姿勢
吃音(どもり)への対応には禁忌事項も多いのですが、はじめて直面する親御さんにはわかりにくいことが多いです。細かなマニュアルを頭に入れようとするよりも、基本事項を踏まえることでその場その場で柔軟な対応が可能になります。
1.子どものペース、スタイル、人格を尊重する
成長、発達というのは、子どもによってさまざまです。早いから良い、遅いから悪いというものではありません。私たちが思っている以上に発達のスタイルは多様です。性格、人格も異なります。歩くペース、話すペース、得意なこと、皆が同じスピードでできるわけではありません。自分の子どもであっても、親が自分のスタイルを押しけたりすることはできません。
吃音(どもり)は、発達の中で発話能力が追いつかないことで起きるある意味自然な不調です。その子なりの成長のペースに合わせて環境や対応を調整してあげることが大切です。
2.安全基地となる
子どもにとって特に親や家庭は安全基地となる必要があります。安全基地とは、無条件に自分を受け入れてくれるような場所や関係です。
社会に出てさまざまな人と接する中で傷つくこともありますし、うまくいかないこともあります。しかし、安全基地があれば安心して社会と関わることができます。逆に、安全基地がなければ、ちょっとしたことで傷つき、人との関わりを恐れたり、避けたり、下手に出たりするようになります。
家庭が、子どもの尊重せず、常に欠点を指摘されるようなストレスが高い場所であれば、子どもにとって安心できません。子どもに対する無用な指摘や過度な期待、否定的な評価、決め付けなどは子どもには必要ありません。親がどっしりと構えて子どもの存在を認めてあげることが何よりの対処法になります。
3.ストレスを減らす
子どもの情緒、特に言語にとってストレスになるような環境は吃音(どもり)にとって大敵です。言葉への指摘や躾もストレスとなります。また、家族の不和などもストレスになることがあります。
ストレスは家庭内だけではなく、学校やお友だち付き合いにも及びます。からかわれたり、言葉への干渉を受けないように、親から積極的に働きかけてストレスを減らすようにしてあげてください。
⇒幼児・子どもの吃音に対しては、「どもってもいいよ」「あなたはそのままで大丈夫」「楽しくのびのび」が基本姿勢です。
具体的なポイント
・吃音(どもり)を悪いもの、異常なものと捉えない
吃音は、「吃音(どもり)が悪いものだ」と思うと不安が強化されていきます。周囲が異常ととらえて接してしまうと、子どもにも伝わり症状を進展させる要因です。子どもはどもって(非流暢で)当たり前、吃音(どもり)は発達の中で生じる自然な過程でもあります。自然な現象なのだととらえて、のびのびと話をさせてあげてください。
・環境を調整する(家庭、学校、地域、お友だち)
環境調整というと親の対応ばかりが注目されますが、環境調整の対象は親のみならず、その他の家族、お友だち、学校の先生、習い事など全てに及びます。
まず、家庭では、子どもに対して指摘や、話し方の矯正、言葉の先取りなどはせず、話をゆっくりと聞いてあげてください。ストレスを除いてあげてください。状況を家庭内で共有してください。
吃音(どもり)を持つ子の半数以上がからかいやいじめに遭うとされます。そして、周囲の大人からも言葉への干渉を受けることがあります。そのため、関係者にお子さんの吃音のことを理解してもらいましょう。
学校や習い事の先生などには、お子さんの状況や吃音についてまとめたお手紙、プリントを渡して、適切な対応をお願いしてください。特に吃音(どもり)で悩む子は、自己紹介や本読み、号令など決められた言葉を言うことがとても苦手で不安です。本人の意向を無視して本読みなどの順番を飛ばすと自身を失うことがありますので、本人と対応を話しあうようにお願いしてください。(プリントの例は、菊池良和「吃音のリスクマネジメント」(学苑社)に掲載されていますので参考になさってください。)
お友だちには、①真似る、②指摘する、③からかう/笑う などを行わないように、もし他の子にいじめられたら守ってくれるように優しく伝えてください。子どもがからかわれることについては、優しく、しかしきぜんと対応することが基本です。
・ゆっくり話を聞いてあげてください
お子さんの話をゆっくり聞いてあげてください。忙しい場合は一日15分だけでも構いません。そして、話し方にではなく、内容に注目してあげましょう。けげんな表情や焦らせたりしないでください。
ポイントとしては、
1.言葉を復唱してあげる
復唱すると、お子さんが自分の話が伝わったことを実感して安心し、次の会話への間をもって少しずつ落ち着いて話ができます。
2.交互に話をする
一方的にどちらかが話しをするのではなく、交互に話をするようにするとよいでしょう。
3.意欲を高めるように接する
お子さんにとって何より大切なのは、話したい、という意欲です。意欲があると、吃音(どもり)は軽減していきます。話に関心を持ち、内容をほめてあげて、もっと話がしたいという気持ちを高めるようにしてあげてください。
・話し方に躾やアドバイスは必要ない
「ゆっくりおちついて話をしなさい」「ちゃんと話をしなさい」といったアドバイスはしないでください。また、言い直させたりもしないでください。言い直させることは、子どもの話したいという意欲や自尊心を傷つけます。
吃音(どもり)が生じるメカニズムを理解するとわかりますが、吃音が生じるのはその子のペース以上に語彙が増えたり、話すことへの期待がその子のペースを上回る時期であり、吃音(どもり)が進展するのは話し方へのストレスや周囲の否定的な態度によります。話し方を矯正しようとすると、「自分はおかしい」という劣等感、罪悪感をもってしまい吃音(どもり)がかえって悪化してしまいます。
話し方の矯正、躾は必要ありません。また、話し方に過度な期待をかけたりすることも不必要なことです。
・吃音が収まるまで厳しい躾(しつけ)は控える
吃音(どもり)以外についても躾が厳しい家庭の場合は、吃音(どもり)が収まるまでは必要最低限のこと以外はしばらく躾は控えて、甘えさせてあげてください。
子どもへの対応は、年相応でその子のペースに合わせたものであること、ストレスとならない程度であることが大切です。
・吃音(どもり)には調子に波がある
吃音(どもり)には調子に波があり悪い時も長くは続かず、良い時があってもまた悪くなる時もあります。調子はお子様の状況をしるバロメーターとなります。悪くなった時は、からかわれていないか?ストレスになることがないか?ゆっくり話を聞いてあげられているか?確認してみてください。
・3年たっても症状が回復しない場合、小学校高学年以上の場合は専門的なケアが必要な場合がある
吃音(どもり)は発症から1.5年以内に3分の1が回復し、4年では74%が回復するとされています。環境改善を行っているにもかかわらず、発吃から3年たっても良くならない場合、あるいは小学校高学年以上の場合は専門的なケアが必要な場合があります。
・インターネット等で販売されている高額な商材や機器は必要ない
残念ながら、インターネット等で「吃音(どもり)を治す」とうたう高額な商材や機器が販売されています。それらはなんら根拠のないものです。心配する気持ちやコンプレックスを利用した商法で効果を語るために偽名や偽の肩書を用いて架空の体験談を作文して宣伝しているものもあります。お子さんのことを心配するあまり購入しようとしてしまいますが、そうしたものには手を出さないように気をつけましょう。
九州大学の菊池先生も「吃音をこの方法で改善できる、という通信販売がたくさんありますが、私がおすすめする教材はないですし、吃音を改善するエビデンスの確立された方法はありません」と述べています(菊池良和「エビデンスに基づいた吃音支援入門」(学苑社))。
下記のサイトでも注意を促されています。
「お金だけでなく、健康までも損なう高額インチキ医療・美容マニュアルにご用心」
・治らないのでは?と心配する必要はない
吃音(どもり)は多くが自然回復します。万一吃音(どもり)が自然回復せずに、進展しても軽減する方法はあります。進展した吃音(どもり)を全てのケースについて完全に治す療法はまだありませんが、一定割合の人が治っていることも事実です。
また、吃音(どもり)を持ちながらでも成功している社長や有名人も多くいます。過度に心配をなさらないようにしてください。
・一人で抱え込まず専門家に相談する
吃音(どもり)について相談できる場所としては、市区町村で「発達相談窓口」「精神保健福祉センター」「発達支援センター」があります。小学校であれば「ことばの教室」があります。まずはお住まいの地域で問い合わせしてみてください。
病院では対応してくれるところはそれほど多くありません。担当科としては小児科や耳鼻咽喉科など、専門家としては言語聴覚士がいますが、残念ながら、吃音(どもり)を専門として対応できる方は少ないのが実状です。
吃音(どもり)についてさらにくわしく知るために
最近は、エビデンスを踏まえた良書が出版されています。ぜひ参考になさってください。
都筑澄夫「吃音は治せる」(マキノ出版)
菊池良和「吃音のリスクマネジメント」(学苑社)
菊池良和「エビデンスに基づいた吃音支援入門」(学苑社)
菊池良和「吃音のことがよく分かる本」(講談社)
など
→吃音(どもり)について関連する記事はこちらをご参考くださいませ
▶「吃音(どもり)とは何か?その原因と症状を当事者でもある専門家が解説」
▶「吃音(どもり)の治し方~自ら克服経験のある専門家が伝える10のポイント」
→当センターの吃音(どもり)専門カウンセリングはこちらをご覧ください
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
小林宏明・川合紀宗「吃音・流暢性障害のある子どもの理解と支援」(学苑社)
バリー・ギター「吃音の基礎と臨床」(学苑社)
都筑澄夫編著「改訂 吃音 言語聴覚療法シリーズ13」(建帛社)
都筑澄夫「吃音は治せる」(マキノ出版)
都筑澄夫編著「間接法による吃音訓練」(三輪書店)
菊池良和「吃音のリスクマネジメント」(学苑社)
菊池良和「エビデンスに基づいた吃音支援入門」(学苑社)
菊池良和「吃音のことがよく分かる本」(講談社)
マルコム・フレーザー「ことばの自己療法」
飯高京子、若葉陽子、長崎勤編「吃音の診断と指導」(学苑社)
など