アルコール依存症が典型ですが、ネット依存症など、時代の流れや社会状況によってさまざまな形の依存が存在します。医師の監修のもと公認心理師が、依存症についてまとめてみました。
<作成日2016.3.30/最終更新日2024.6.16>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・依存症(し癖)は、個人のだらしなさか?病気か?
・依存症の特徴
・依存症のメカニズム
・さまざまなタイプの依存症(し癖)
→依存症の治し方やその他の依存症については、下記をご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
依存症(し癖 Addiction)は、だらしない性格のせい、といった誤解が多い問題です。あるいは、「お酒が好きなだけで、依存症ではない」「意思で辞めれるから依存症ではない」といったように、実は依存症なのにそのように自覚していないケースもあります。ドラマや漫画のようなイメージと実際とは異なります。依存症は、アダルトチルドレン、イネーブリングなど、家族や周囲も巻き込んで問題が拡大されていきます。依存症の背景には必ずと言ってよいほど、トラウマや愛着の問題が潜んでいます。本来アプローチすべきは、背後にある問題です。多面的にとらえていく必要があります。
依存症(し癖)は、個人のだらしなさか?病気か?
・個人の性格が原因ではなく、あくまで病気である
芸能人などで薬物で捕まったりといったニュースを目にすることがあります。その時の論調としては「道を踏み外した」「ファンを裏切った」「心が弱い」といったものです。一般の感覚としては、薬物に手を出すのはその人の責任、問題である、ということです。しかし、実は、薬物に手を出すのは個人の性格が原因ではなく、「薬物依存症」という病気によるものです。
・ストレスや悩み、体質が原因
依存症になるのは、その人では抱えきれないストレスや悩み、体質などを背景としています。
どうしようもない心の痛み、不安、生きづらさを癒やすためのやむを得ない手段として物質や行為に依存しているのです。もしそうでなければ、早々に自殺していたかもしれません。依存物によって自殺を免れているとも言えるのです(事実、元プロ野球選手の清原和博さんなどは、テレビ番組などでストレスから自殺願望をほのめかしていました)。
・人間は環境にはあらがえない
近年、心理学や脳科学などでは、人間には主体的な自由意志は存在せず、さまざまな環境からの刺激や影響を受動的に受けて行動している存在であると考えられるようになってきています。自由意志はあくまで後づけの解釈であり、自ら決めているという信念を持っているだけ、ということです。人間は、生まれることを自分で選択できませんし、養育環境も選べません。幼少時のストレスが成人時の行動に大きく影響することは実験などで明らかになっていますが、自分で選択できない要因によって私たちは行動を制限されているのです。
・「未熟な自己治療」としての依存症
依存症とは、そうした環境によって否応なく降りかかってくるストレスやトラウマ、個人の責任というある種のドグマによってどうしようもなくなった人にとっての「未熟な自己治療」であるということです。その未熟な自己治療の副作用として脳のメカニズムが書き換わりコントロールを喪失してしまう病気、精神障害なのです。
依存症の特徴
・進行性の病気(死に至る病)
進行性とは、放っておくと必ず悪化していくということです。依存症は、自分の身体や家族、人間関係、社会的地位を壊しながら止まることなく進行していき、最後は死に至ります。その人の性格や癖、だらしなさといったようなものではなく、致死率の高い恐ろしい「病気」なのです。アルコール依存症では、生還率が2,3割とも言われます。アルコールや薬物以外のものでも、家族や社会的地位を破壊していきます。
・コントロールの障害
依存への衝動をおさえることができなくなります。「ほどほど」ということがなくなります。精神依存だけではなく身体依存に陥ると、例えばアルコール依存症であれば連続飲酒といった状態に陥ります。
・否認(病識の欠如)
否認とは、自分ではいつでも止めることができるとして、自分が依存症であることを認めないことです。患者自身ではなく、パートナーも責任をとがめられることを怖れて認めない、ということが生じます。依存によって脳内の「島皮質」の活動が低下するために気づきが損なわれることも背景としてあるようです。依存症全体に見られますが、アルコール依存症ではより顕著に現れるとされます。
本人も周囲も「このくらいの飲み方ならアルコール依存症というほどではない」と思いがちなのです。一つにはいわゆる「アル中」のイメージがあまりにも重篤なケース、呑んだくれ、と言ったイメージだからということもあります。しかし、実際には、依存症は多様で「まさか」と思うような軽い病像でも実際には依存をすでに形成していることがあり得ます。
・性格変化
真面目で穏やかだった人が、自己中心的になってしまう。粗暴になったり、ウソをつくようになったり、性格がガラリと変わることがあります。妄想ともいえるような恨みつらみを抱く場合もあります。自身の暴言や暴力などによって人からさげすまれるようになると、さらに被害者意識を強くするという悪循環に陥る人もいます。
・世代連鎖
依存症は世代で連鎖していく傾向にあり、依存症の人には親や親戚に同様の人がいたり、その子どもが依存症や過剰適応で生きづらさに苦しんだりということが多く見られます。
・これも依存症なの?~多様なケース
依存症には多様なケースが存在しています。アルコール依存症だと、ある時は全く飲まなかったり(数カ月も)、飲んでもおとなしかったり、ケースによってさまざまです。典型的なケースのイメージが強すぎて、周囲も「依存症とまではいえないだろう」と考えて放置してしまい、結果として悪化してしまうということが起きます。社会生活に支障が出ていれば、「依存症」と疑って対処を始めることが大切です。
依存症のメカニズム
依存症はどのようなメカニズムで成り立っているのでしょうか。メカニズムについて、まとめてみました。
脳の「報酬系」の変調
ジェームズ・オールズという米に心理学者によって確認されましたが、人間の脳には、目標に向かって動かされる「報酬系」と呼ばれるメカニズムがあることがわかっています。「報酬系」とは、中脳の腹側被蓋野から前方にある側坐核にかけてドーパミンを作動させる神経系を指しています。脳幹でノルアドレナリンを生む青斑核なども関わりがあるとされます。報酬系では「好きなもの」「手に入れたいもの」「思った以上の見返りがあるもの」「報酬の予測」に反応してドーパミンが出るとされています。これが正常な働きですが、依存症を促す薬物はドーパミン分泌を強制的に促進してしまうことで衝動が高まり、我慢ができなくなってしまうのです。
行為への依存でも、対象物からの刺激や習慣によって類似のことが生じます。摂食障害でも、チョコレート、小麦粉などある種の食べ物(炭水化物)は、コカインのような働きをする依存の対象となるとされています。また、過食という行為によって糖分などを過剰に摂取することが、ドーパミンの放出を促すことがわかっています。
人間には、衝動制御をおこなう器官(前部帯状回や前頭眼窩野など)が脳には存在しますが、依存症になると報酬系に対する衝動制御が働かなくなります。
子どもの時は誰でも衝動制御は容易ではありません。子どもへの実験で、目の前のお菓子をガマンすればもう一つあげる、という命題を出しても、我慢できず食べてしまったりする(誘因特性といいます。)。大人であれば、ガマンすればすぐに2倍になるわけですから我慢します(合理的な行動を認知欲求といいます。)。
依存症はこれに似ています。教育によって育まれた長期の報酬系が、依存によって短期の報酬系に脳が書き換えられてしまい、衝動をおさえられなくなってしまうのです。
「連合記憶」と「習慣記憶」による再発の促進
依存症になると、依存行為を行っている際の感情や環境にまつわるさまざまな記憶が連合して記憶(連合記憶)が刻まれます。具体的には海馬、扁桃体から側坐核へと至るルートに記憶されることがわかっています。そうすると、ちょっとした刺激、例えば、悲しい気持ちになった、とか、人の話し声が耳に入ったとか、居酒屋の看板を見た、だけで依存症の記憶がよみがえり、渇望が喚起されるのです。
また、行動の習慣も記憶として刻まれます(習慣記憶)。側坐核から背側線条体にかけて記憶されることがわかっています。習慣は、文字通り、半ば無意識的に同じ行為を繰り返すことですが、これも、気がついたら飲んでいた、パチンコ屋に入っていた、という強迫的な行動につながります。
こうした、2つタイプの記憶によって、少しでも記憶を刺激するような体験があると依存への渇望は喚起されてしまいます。依存からの脱出は意志の力では難しいことがよくわかります。
過剰な自己コントロールと未熟な自己治療
依存症の背景には、過剰な自己コントロールが存在しています。本来、自らの手に負えない苦しみは、やり過ごしたり、他人に頼ったり、環境を変えたりするなどして回避することが大切ですが、依存症患者は抱える苦しみを自らなんとかしようと過剰な自己コントロールの果てに依存症に陥ってしまうと考えられています。
つまりだらしなくて陥るのではなく、むしろ意志が強すぎてかかる病なのです。
こうした捉え方は「自己治療仮説」といいます。アメリカの精神科医カンツィアン博士らが唱えた説です(エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」)。依存症になる人は自身の必要性に基づいて選択をしている。そしてそれは、苦痛を和らげるためのある種の自己治療である、という説です。※最近の脳科学の研究によっても、依存症とは快楽を求めてではなく、扁桃体の過活動などの苦痛の緩和のために生じているのではないか、と指摘されています。
酔い
人間は、苦しみを癒すために、本来であれば、自分の中にある愛着(親との関係で築いた心の安全基地)に戻る中や人間関係の中で癒やされます。しかし、そうしたものが得られない場合に代わりの物で満たそうとします。
当初は、「私は罪深いから愛されない。良い子でいれば愛される」といったファンタジーで満たしています。しかし、努力をしても愛は得られない、とわかると別のもので埋め合わせようとします。それが依存物質や依存行為です。
アルコールや薬物以外の依存症でも、依存行為によってある種の「酔っぱらった」状態が生まれていると考えられます。依存行為を行っている時には、脳内物質が分泌されて現実を否認することができます。「私はなんでもできる」「世界をコントロールしている」といった万能感や「お母さんのお腹に包まれたような」一体感を感じることができます。
しかし、万能感や一体感も長くは続かずに、目を覚ますと自己嫌悪に陥り、自己嫌悪を癒やすためにさらに依存を深めていきます。
さまざまなタイプの依存症(し癖)
基本的に、依存症の研究や治療は、アルコール依存症をひな形として発展してきました。さまざまなタイプの依存症がありますが、そのメカニズムは同様だとされます。依存症は、日本全体で2000万人存在するとされています。うつ病よりも多い心の病気です。
<主として物質への依存>
・アルコール依存症/アルコール使用症(Alcoholism/Alcohol Use Disorder)
依存症の代名詞とも言えるものです。昔は王様や貴族など普段お酒が手に入る裕福な人しか陥る可能性はありませんでした。しかし、近代に入り、アルコールが大量生産されると庶民の間でも依存症が生じるようになります。日本では、アルコール依存症患者の数は約200万人とされます。ただ、かつてのような重篤なケースは減ってきているようです。いわゆる麻薬などの薬物依存は誰でも恐ろしさがわかりますが、アルコール依存症も死に至る深刻な病です。アルコール依存症患者の平均寿命は52歳とされ、放置すると最後は事故や内臓疾患、がんなどで死亡します。※DSM(米国精神医学会の診断基準)では、「アルコール使用症」と表記されます。
・薬物依存症(Drug addiction)
薬物とは、覚せい剤、大麻、シンナー、睡眠薬等を指します。他の先進国と比べると日本では薬物が手に入りにくいため、患者数は少ないです。ただ、著名人の逮捕事件や、中高生でも大麻を入手しているというニュースもあり、近年は日本でも薬物依存のリスクは見過ごすことはできません。
<行為、プロセスへの依存>
・ギャンブル依存症/ギャンブル行動症(Gambling addiction/Gambling disorder)
文字通り、ギャンブルへの衝動をコントロールできなくなる症状です。患者の割合は欧米では人口の1%前後であるのに対して、日本は、3.6%と高い状況です(久里浜医療センター「国内のギャンブル等依存に関する疫学調査」)。韓国や台湾などパチンコを全面的に規制している国もあることに対して、日本は認識が甘いと指摘されています。競馬などよりもパチンコ・スロットなどのほうが依存の危険性が高いとされます。(視覚、聴覚の刺激や、街なかにありいつでも行えるといったことが原因とされます)※DSM(米国精神医学会の診断基準)では、「ギャンブル行動症」と表記されます。
ギャンブル依存の人は、そうでない人よりもアルコール依存になる危険は4~20倍高く、ギャンブル依存症でうつ病を併発する人は全体の3~8割。不安障害は3~4割とされます。生涯自殺企図率は約4割とアルコール依存症の約3割よりも高い割合です。また、ADHD、自己愛性人格障害。反社会性人格障害、境界性人格障害、行動障害などとも関連性が見られるとされます。ギャンブル依存症も非常に危険な依存症です。
出典:廣中直行「依存症のすべて」(講談社)、岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
⇒参考となる記事はこちら
・過食症(Bulimia)
過剰な量を摂取することや、食べ吐きを繰り返す行為を指します。男性よりも女性にり患者が多い依存症です。※摂食障害そのものは依存症ではありません。
⇒参考となる記事はこちら
・ドメスティックバイオレンス(DV)
ドメスティックバイオレンスも依存症の一種です。暴力を振るうことでしか自分の気持を表現できないということです。まさに癖のように、本人も止められなくなってしまいます。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「DV(ドメスティックバイオレンス)とは何か?本当の原因と対策」
・インターネット・ゲーム依存(Internet/Game addiction)
近年問題となってきている依存症です。インターネットやゲームスマホへの依存によって、日常生活に支障をきたしている状態です。ネット依存は家庭に居場所がなく、親子の関係が良くないと強まります。現在はまだ正式な病名ではありませんが、今後、病名としてDSMなどに掲載される可能性があります。韓国などでは小中学生の5%にその危険性があると指摘されています。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「スマホ依存、ネット依存、ゲーム依存症の治し方~8つのポイント」
・その他の依存症
その他の依存症としては下記のようなものがあります。
・セックス依存症
・恋愛依存症
・ニコチン依存症
・仕事依存症
・窃盗癖
・放火癖
・抜毛癖
・爪噛み
・買い物依存症
・世話型依存症
・虐待
・カルト宗教
・自傷、リストカット
▶「自傷行為(リストカットなど)の心理と原因~なぜ行うのか?」
→依存症の治し方については、下記をご覧ください。
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(参考・出典)
エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ「人はなぜ依存症になるのか」
クレイグ・ナッケン「やめられない心」(講談社)
M・クーハー「溺れる脳」(東京化学同人)
渡辺登「依存症のすべてがわかる本」(講談社)
岡本卓、和田秀樹「依存症の科学」(化学同人)
廣中直行「依存症のすべて」(講談社)
信田さよ子「依存症」(文春新書)
斎藤学「し癖行動と家族」(有斐閣)
斎藤学「アルコール依存症に関する12章」(有斐閣)
ロバート・メイヤーズ「CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック」(金剛出版)
吉田精次「アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法―CRAFT(クラフト) 」(アスクヒューマンケア)
など