解離性障害は、多重人格、幻覚、夢など小説や映画の題材にもなるようなドラマティックな症状や、かつてはヒステリーとして一般の人でも知られる精神障害ですが、奥が深く、診断や治療も難しい症状です。専門で扱う病院も多くはありません。実は、特殊な症状ではなく、軽度の解離は私たちも人生の中で経験する身近なものでもあります。今回は医師の監修のもと公認心理師が、解離性障害、解離性同一性障害とは何か?その原因についてまとめてみました。
<作成日2016.3.10/最終更新日2024.6.2>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
1.解離性障害(DD=Dissociative Disorder)とは
・解離性同一性障害(かつては多重人格障害)とは
2.解離性障害の原因
→解離性障害の症状とチェックやその治し方については、下記をご覧ください。
解離とは、トラウマ臨床においてよく見られる症状です。いわゆる解離性障害とまではいかなくても、自分の感情がよくわからない、自分が自分であるとの感覚が薄いなどといった問題は決して珍しくありません。当事者も自覚できていなかったり、言語化できない場合もあります。解離性同一性障害(いわゆる多重人格)も決して稀ではありません。最初から、多重人格という現れ方は見せなくても、カウンセリングが進む中で明らかになる場合もあります。いずれにしてもトラウマが重いケースで見られます。
解離性障害(DD=Dissociative Disorder)とは
解離性障害とは、自分が自分ではない感じがしたり、現実が現実とは感じられない膜の中にいるような非現実的な感覚にとらわれることで日常生活に支障をきたす症状です。かつては「ヒステリー」と呼ばれ、解離症状と転換症状(身体に不調をきたす症状)が現れるものと考えられていました。
「解離性障害」として認識されるようになったのは、DSM(米国精神医学会の診断マニュアル)が刊行された1980年代以降と実は比較的最近のことです。そのため、解離性障害についてはくわしい臨床家が少なく、その存在が意識されないまま他の障害として診断されることも多いとされます。
本人が意図的に症状をコントロールしているように見られることから詐病や虚偽性障害と診断されたりすることも少し前までは多かったようです。
・解離性同一性障害(かつては多重人格障害)とは
いわゆる多重人格で知られる症状であり、人格が交代して同一性が失われてしまう症状です。本来の人格を「基本人格」と呼び、代わりに現れる人格を「交代人格」と呼びます。交代人格の数は平均して8~9人とされますが、個人差があります。最初は人格がはっきりと別れておらず曖昧で自覚がありますが、重度になると完全に分離していきます。
ドラマティックで解離の代表的な症状ですが、解離性障害の1割程度でしか見られないものです。日本、アジアやヨーロッパよりもアメリカでよく見られます(アメリカで顕著な文化依存症候群とも言われています)。
(参考)解離性障害の発症頻度
北米では人口の2,3%とされている。日本では調査データが存在しないが、精神科に訪れる患者の1割未満ではないかとされています(柴山雅俊「解離性障害」(筑摩書房))。
(参考)解離性障害を扱った作品
下記のような作品があります。
解離性障害の原因
解離の詳細についてはまだまだわからないことも多く、研究の途上です。
現在までにわかっていることを簡単に整理してみました。
1.脳機能の障害ではなく心の傷が原因
現在わかっている範囲では、解離性障害は脳の障害ではなく、心因性、反応性の症状だと言われています。もともとは、精神疾患ではなく神経症とされていました。ストレスや外傷などの危機的な状況に対する生体の防衛反応と考えられています。
特にストレスや外傷そのものだけではなく、その苦しみを人に訴えることができない状況、理解してもらえない状況に置かれてしまうこと、「自己表現の抑制」と呼ばれる状況が解離性障害のトリガーとなることが考えられています。(解離性障害の前身であるヒステリーも「1対1の対関係の病」とされる)
空想傾向が強いといった傾向のある人が外傷体験を経て、苦しみを伝え共感される環境がなく、耐え難い苦しみや葛藤から自分を守るためにそれらを切り離そうとして生じている症状です。
まとめると
解離性障害の発症 = 外傷経験 + 本人の傾向 + 外傷を癒やす環境の欠如
と考えられています。
その構造から、愛着障害などとも密接に関連すると考えられます。
(参考)神経ネットワークモデル
解離という現象についての神経学的なモデルとして有力とされているのは「神経ネットワークモデル」です。神経ネットワークモデルとは、人間の脳を巨大で複雑なネットワークの活動と捉え、複数の個別モジュールが活動を営んでいるとするものです。解離とは個別モジュール間の連絡の障害や統合が損なわれている状態とされます。個別モジュールが自走して人格構造を持つまでに成長すると多重人格が生じると考えられます。
(参考)理不尽な出来事があると心を飛ばす
解離のある人には、親から怒られたりした際に心を飛ばしてやり過ごす経験のある方がいます。心を飛ばすことで、理不尽なことから逃れようとしているのです。
2.さまざまな外傷体験と環境要因
本記事内での「外傷」とは、身体的な傷ではなく心的外傷のことです。
解離性障害の患者の多くは家庭に問題を抱えています。客観的に見て明らかに問題を抱えている家庭もあれば、傍からは問題がなくても本人は強く傷を負うような関係が影響している場合もあります。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。をご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
<家庭内外傷>
・虐待
解離性障害の約3割で見られるとされます。
・性的外傷体験
解離性同一性障害を引き起こしやすい経験の一つです。米国で多く日本では比較的少ない傾向にあるとされます。特に、性的な体験では、「他の人に言ってはいけない」というダブルバインドを受けることが多く、そのことが深刻な解離症状につながると考えられています。
・親の不仲、離婚
家庭内外傷の6割に見られます。不仲が安心できる環境を奪い対人での緊張や攻撃を生みます。自傷や自殺の原因となりやすいとされます。
・居場所がない
<家庭外外傷>
・いじめ
家庭外外傷の6割に見られます。解離のある人の半数以上で持続的ないじめ経験があります。
・性的外傷体験
外傷全体の3割に見られ、そのうち近親以外(家庭外)からのものは7割に見られます。
・交通事故などのPTSD
交通事故によって解離性障害になるケースは意外と多いとされます。
<その他>
・「関係性のストレス」
外傷経験は、明らかな虐待や客観的に見て大きな出来事ではなくても、本人の不安を著しく高めるような場合は解離性障害を引き起こすと考えられます。外傷経験が解離性障害、愛着障害などさまざまな障害を生むことはわかっています。しかし、明らかな出来事が見られないことも多く、過誤記憶や医原病といった批判もなされてきました。最近では、客観的には見極められないものの、親子の関係性の中で生まれるストレスが解離性障害の原因となりうると考えられています。そのことを「関係性のストレス」と呼びます。
例えば、母親の過干渉などは「関係性のストレス」の要因となりえます。一見すると順調に見える親子関係でもそこに外傷が生じることは十分にありえます(母親に甘えようとした時に拒絶された、自分を否定されることを言われた、など)。
(参考)陽性外傷と陰性外傷
岡野憲一郎教授による陽性外傷、陰性外傷という分類もあります。
<陽性外傷>とは、虐待や事故など過剰な刺激にさらされること
<陰性外傷>とは、本来与えられるべき養育の欠如など、刺激の過小さによるもの
(参考)愛着と解離性障害
人間にとって親など親しい人との安定した関係(愛着)は安全基地となり社会生活の土台です。幼いころに愛着は形成されますが、不安定な親などに育てられた場合は土台が不安定(愛着障害)となります。愛着の対象となるはずの親から虐待を受けることを愛着外傷といいます。
3.本人の傾向
幼い頃からおとなしく、優しく、自己主張も控えめで、夢見がちで、空想傾向が強く、幽霊を見たり妖精を見たりという不思議な体験をする人が多いです。人の影響を受けやすい被暗示性や対人の敏感性も見られます。
解離性障害にかかった人は、スキゾイド的であるとされます。スキゾイドとは「社会的に孤立していて対人接触を好まず、感情の表出が乏しく、何事にも興味関心がないように見える」という傾向です。
また、解離性障害の患者は周囲からは、どこか魅力的で守ってあげたいと感じるような風情があるとも言われています。
圧倒的に女性に多く見られます(9対1の割合)。男性の方がストレスに遭った際により行動に移して解消する傾向があるためではないか、とも考えられています。
→解離性障害の症状とチェックやその治し方については、下記をご覧ください。
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(参考・出典)
細澤仁「実践入門 解離の心理療法」(岩崎学術出版社)
柴山雅俊「解離性障害」(筑摩書房)
柴山雅俊「解離性障害のことがよく分かる本」(講談社)
岡野憲一郎「多重人格者」(講談社)
岡野憲一郎「解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「続 解離性障害」(岩崎学術出版社)
岡野憲一郎「新外傷性精神障害」(岩崎学術出版社)
F・パトナム他「多重人格障害-その精神生理学的研究」(春秋社)
F・パトナム「多重人格障害―その診断と治療」(岩崎学術出版社)
みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)
など