双極性障害の対処に仕方は、いわゆる精神医学、臨床心理学で当たり前とされるような方法(カウンセリングや症状を抑えるような薬物療法)とは全く異なるアプローチが必要になります。今回は、医師の監修のもと公認心理師が専門知識や経験を交えてポイントを纏めてみました。
<作成日2016.4.30/最終更新日2024.5.25>
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・双極性障害(躁鬱病)を治療、克服するために大切な6つのポイント
→双極性障害(躁鬱病)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「双極性障害(躁鬱病)とは何か?実は”体質の問題”という正しい診断と理解」
双極性障害とは、基本的には「躁うつ体質」という体質の問題です。体質が環境や状況に合わないために病的な状態に陥ってしまうのです。こうしたことを基本として対処、治療を行っていく必要があります。問題となる行動や症状が生じている場合は、病気として薬物療法などで対処いたしますが、その後はお薬の力も借りながら、環境調整や生き方の調整をして体質に適した生活をしていくことになります。
一方、双極性Ⅱ型はこうしたことになからずしも当てはまりません。通常のカウンセリングや心理療法を行うことができます。
双極性障害(躁鬱病)を治療、克服するために大切な6つのポイント
1.躁うつ体質、双極性障害について正しい知識を得る
まず、躁うつ体質とは何か?双極性障害とは何か?について正しい知識を得ることが大切です。冒頭にも書きましたように、あくまで体質であり、体質に沿った環境づくり、生き方の調整が主になります。そのために、まずは、双極性障害、躁うつ体質とは何かを知らなければなりません。
入手できるものとしては下記の本がおすすめですので、よろしければご覧ください。
(参考):
2.躁うつ体質、双極性障害について知識、経験のある医師、医療機関にかかる
双極性障害は、「躁うつ体質」という体質の問題ですから、そのことを理解した上で、適切な措置を取ってくれる医療機関にかかる必要があります。表面的な症状だけから抗精神病薬などを投与されたりして問題がこじれてしまうと、元に戻すだけでも多くの時間を浪費してしまいます。適切な知識を持った上で、本当に理解、経験のある医師を探すことがもっとも重要です。
3.本人の異変に適切なタイミングで気づく
双極性障害は病気との認識を持つことがとてもむずかしい病気です。本人は、うつ状態になってはじめて受診します。家族や職場など周囲の人は、本人のテンションが異常に高く生活や仕事に支障が出てきたら、本人にそのことを伝えて診断を進める事が必要です。
その際、騙して連れてくる、強制的といったことは結局は適切な治療につながりません。本人とよく話して、「一度診察を受けてみたら?」と話し、納得した上で診察をうけることがのぞましいです。
本人が、周囲に危害を加えるほどこう進している場合は警察に連絡し、精神保健指定医による鑑定を求めることになります。
4.環境調整、資質の沿った生き方を目指す~「気分屋的に生きれば、気分は安定する」
精神科医の神田橋條治の有名な言葉に、「気分屋的に生きれば、気分は安定する」「小さな気分屋的生活は大きな波を予防する」というものがあります。
双極性障害とは、窮屈さや閉塞感に抗うようにして生じる特徴があります。そのため、完璧主義にならず、一つのことに集中せず、複数のことを「~しながら」行ったり、流れに任せて概ね適当で生活することはとても大切です。
統合失調症などもそうですが、時代によっては社会的な居場所・役割が与えられていた時代もありました。精神障害、精神疾患は社会によって規定されるもので、「生き方」が認められて、居場所があれば、症状は収まるところで安定することは事実です。
さすがに、Ⅰ型の激しい波のある場合は投薬によるサポートは必須ですが、Ⅱ型の場合などは、環境調整や医師のサポートで、活動性の高さなど特性を活かしながら社会生活を送る、といったケアのスタイルもあります。躁うつ体質は決して病的な体質でもなんでもなく、資質、特質です。特に対人関係職などで才能を発揮することが多いとされます。反対に苦手な職種や環境に身をおいて、自分を追い込まないようにする必要があります。
うつ病も同様ですが、睡眠リズムを安定させることはとても大切で、睡眠時間の確保と同時に、リズムを安定させることもとても大切です。
5.生活に支障がでるような躁状態には薬物療法が必須となる
双極性障害は、他の精神障害と違い、統合失調症などのような精神疾患により近いものと考えられています。また、自殺率も他の精神病よりも高いため、必ず精神科医にかかり観察を受ける必要があります。特にⅠ型の場合は、薬物治療は必須となります。
メインとなるのは気分安定薬で、横綱のような薬が「リチウム」になります。双極性障害の6割に人に効果があるとされます。人のよい、明るいタイプの人にはリチウムが効果があると言われます。リチウムは血中濃度を測定しながら処方されるもので、副作用があり扱いが難しいとされますが、躁状態にもうつ状態にも、予防にも効果があります。
4割の人にはバルプロ酸が効果があるとされます。比較的不機嫌な躁状態が見られるタイプに効くとされます。テグレトールが効果的なケースもあるとされます。非定型精神病と思われるようなタイプの方によく効くとされます。
逆に抗うつ剤(三環系など)を処方されるとラピッドサイクルという、うつと躁が急速に交代するような症状が出ます。また、デパスなど抗不安薬はパーソナリティ障害様状態に陥る危険性があるため、使用は避けることが望ましいとされます。
(出典:神田橋條治「第一回 福岡精神医学研究会講演会記録」)
双極性障害は、薬の合う合わないがはっきりしているようで、合わないと全く効かないことがあるようです。
6.精神療法~内省してはいけない
双極性障害は、病気への知識をつけて、考え方を変えたり、ストレスへの対処法を身につけるなど、精神療法も大切です。認知行動療法などは有効性が確認されています。双極性障害にくわしいカウンセラーから受けることも良いですし、患者自身で書籍などを参考に取り組むこともできます。
ただ、精神療法を行い場合に重要なポイントがあります。それは、双極性障害の患者は内省が不得手で、無理に自分の気持を考えるといったことをすると混乱し、不安定になってしまうことです。この点は、一般の精神療法とは異なります。
一方で、他者に合わせることが得意(対人過敏性)です。双極性障害の患者は、自分は自分のままでよいという安心感に乏しく、人がどのように考えているのかという他者中心の考え方、他者に評価されて自分の価値を見出す、といった点が強いとされます。自分の気持を深掘りするよりは、ねぎらいながら自己価値を修復し、相手の気持を考えてどう動くか、といった方向で行うのがコツです。
また、対人関係を気づくことに優れた能力を持つ方が多く、反面、管理職になったり、決まりの多い職場では能力を発揮できず、調子を崩してしまいます。場合によっては役職を外して、のびのび生きることができる環境を作るなど、職場に働きかけて調整をして貰う必要があります。
病気の知識は持ちながら、うまく気分の波に乗って自分の資質能力を発揮して生きていく、ということが双極性障害克服のゴールとなります。そうすると、躁状態などが落ち着いた後、ずっと薬を飲み続けなくても、立派に生活している人も多くいらっしゃいます。
双極性Ⅰ型の場合は、カウンセリングだけで改善させることは難しいです(そもそも続かないことがほとんどです)。医療機関にかかることが必要になります。
→双極性障害(躁鬱病)とは何か?については、下記をご覧ください。
▶「双極性障害(躁鬱病)とは何か?実は”体質の問題”という正しい診断と理解」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
樋口輝彦 神庭重信「双極性障害の治療スタンダード」(星和書店)
ラナ・R・キャッスル「双極性障害のすべて」(誠信書房)
岡田尊司「うつと気分障害」(幻冬舎)
加藤忠史「双極性障害」(医学書院)
内海健「双極Ⅱ型という病 改訂版うつ病新時代」(勉誠出版)
貝谷久宣「よくわかる双極性障害」(主婦の友社)
森山公夫「躁と鬱」(筑摩書房)
青木省三「精神科治療の進め方」(日本評論社)
神田橋條治「第一回 福岡精神医学研究会講演会記録」
「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)
神田橋條治、白柳直子「神田橋條治の精神科診察室」(IAP出版)
かしまえりこ、神田橋條治「スクールカウンセリングモデル100例」(創元社)
かしまえりこ「神田橋條治 スクールカウンセラーへの助言100」(創元社)
など