近年、大きく変わりはじめた腰痛への治療。かつては「脊椎の障害」として診断されていたものが、エビデンスに基づく医学の進展も背景に心理、社会的な要因が大きく影響する症状として捉えなおされています。今回は、医師の監修のもと公認心理師が、専門書をもとに腰痛の治し方についてまとめてみました。
<作成日2016.10.30/最終更新日2024.5.30>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・腰痛とは何か?
・腰痛の原因とは何か?~8割以上が原因不明
・原因のわかる腰痛でも診断は簡単ではない
・診断名がついても腰痛の原因が分かったことを意味しない
・なかなか効果が上がらない既存の治療方法
・変化する腰痛概念~「脊椎の障害」から「生物・心理・社会的疼痛症候群」へ
・痛みの感じ方は社会的、心理的に要素で変わる
・脳がもたらす幻の痛み(腰痛)を作り出すメカニズム
・診断名には惑わされない
→腰痛の治し方については、下記をご覧ください。
▶「慢性腰痛の治し方を公認心理師が解説~脳や心理へのアプローチ」
トラウマ臨床においては、身体に痛みが生じるというケースはよく見られます。そしてそうしたケースは身体的には問題がなく、トラウマケアなどを行う中で改善されていくことがよくあります。腰痛について海外では国家レベルで心理的社会的な要因であることが認められるようになっていることもそれを裏付けています。(もちろん、器質的な異常がある場合は所見に従った治療が必要なことはいうまでもありません) まずは、腰痛は身体に原因があるという先入観を除いたうえで今回の記事をご覧ください。
腰痛についての知見は、腰痛だけに限りません。頭痛やその他、器質的な異常は見られない慢性的な痛みといったことについても解決の糸口となります。
腰痛とは何か?
・腰痛の定義
実は、腰痛(Low back pain)について確立した定義はありません。
「腰部に存在する疼痛」という症状であるとされます。病名ではなくて症状名です。
・腰痛の区分
発症の期間からの区分として
3カ月以上痛みが続いているものを「慢性腰痛」
3カ月未満のものは「急性腰痛」と呼ばれます。
・多くは自然と治癒していく
腰痛の特徴として多くのものは自然に治癒していきます。
慢性腰痛で悩む方は日本では、およそ2800万人もいると考えられ、まさに国民病という状況です。男性よりも女性に多い症状です。
(参考)「ぎっくり腰」とは何か?
いわゆるぎっくり腰とは、急性腰痛のことを指します。古くは「魔女の一撃」と呼ばれたほど激しい痛みに襲われます。多くは原因が不明で1カ月以内に回復します。近年は、安静にするよりも積極的に動いたほうが早く痛みが治まるとされています。
(参考)「腰」は国や人によって異なる。
実は、「腰」とはどこからどこまでを指すかについて明確な定義はありません。国によっても違います。例えばドイツでは背中全体を指します。イギリスではお尻まで腰とされます。日本人でもどこを腰ととらえるかは体形によって異なります。
腰痛の原因とは何か?~8割以上が原因不明
・解明されていない腰痛の原因
腰痛は、まだまだ解明されていないことが多く原因は不明です。
元日本脊椎脊髄病学会理事長の菊地臣一氏も「腰痛は、研究者にとっても闇に迷い込むようで、いったん迷い込むと、なかなかその闇の中から抜け出せない。腰痛には、いくつもの不思議なことがある。その最大の不思議さは、発生機序や病態が21世紀を迎えた現在でも完全には解明されていないことである」「将来科学的に解明できるかどうか(中略)疑問である」「なぜ、腰痛だけがこれだけ科学が進歩しても股関節やひざ関節の人工関節全置換手術のような良好な成績を得られないのだろうか。」(菊地臣一「腰痛 :第2版」(医学書院))とその謎の深さを赤裸々に記しています。
・原因からの区分
腰痛は、原因が明らかなものを「特異的腰痛」、原因が明らかではないものを「非特異的腰痛」と呼ばれます。
腰痛の85%が原因がわからない「非特異的腰痛」です。原因がわかる腰痛とは、「椎間板ヘルニア」や、「脊柱管狭窄症」、腫瘍や外傷など脊椎に関連する組織の異変や直接脊椎にかかわらない血管、泌尿器系、婦人科系臓器、消化器系の病気によるものです。脊椎に直接関係しなくても痛みの経路となる腰部に痛みを生じさせるのではないかと考えられています。
「非特異的腰痛」については、近年、「生物・心理・社会的疼痛症候群」ととらえなおされていることから、実は心理・社会的要因の影響が強いのではないかとされています。
原因のわかる腰痛でも診断は簡単ではない
原因がわかる腰痛として「椎間板ヘルニア」や、「脊柱管狭窄症」が挙げられますが、実はこれらを腰痛の原因とする診断も簡単ではないことがわかっています。なぜなら、椎間板ヘルニアがあっても必ずしも腰痛になるわけではありません。また、椎間板ヘルニアの通常は9割が自然と回復します。手術が必要というケースは1割程度とされます。脊柱管狭窄症も同様に必ずしも腰痛としてあらわれるわけではないようです。
背骨のゆがみ、変形、ヘルニアというのは誰にでもあるものです。背骨が完全にまっすぐな人などはいません。つまり、画像などで解剖学的にチェックしても、それでも見つけたゆがみが腰痛の原因とは言い切れないようです。これまでは、治療者が推測でそれらのゆがみを腰痛の原因としてきました。
前出の菊地臣一氏も「腰痛は従来X線検査に代表される形態学的検討、あるいは血沈、臨床検査といった客観性重視の診療体制であった。しかし戦後60年以上経過しても、腰痛の治療成績向上は認められていない。しかも、患者の満足度は下がりつつある。」としています(菊地臣一「腰痛 :第2版」(医学書院))。
診断名がついても腰痛の原因が分かったことを意味しない
「腰痛症」「坐骨神経症」「腰椎捻挫」といった診断名が付くことも多いですが、これらは腰痛がある、ということを示しているだけで、腰痛の原因までを示しているわけではありません。また、「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」という診断名がついても、腰痛の原因かどうかはわかりません。
病院に行って、上記のような診断が下っても、原因となる重篤な疾患が見つからなかったり、しびれなどの症状がなければ腰の痛みがあっても自然に回復するため深刻に受け止める必要はありません。
・重篤な疾患を疑うケース
以下のような症状が起きる場合は、重篤な疾患が潜んでいる可能性がありますので、まずは医療機関で診察を受ける必要があります。
・がん、ステロイド治療、HIV感染を過去にしたことがある。
・時間や活動性に関係ない腰痛
・胸部の痛み
・栄養不良
・体重減少・広範囲に及ぶ神経症状
・構築性脊椎変形
・発熱
・発症が20歳未満、55歳以上(日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン2012」(南江堂)より)
・横になってもいたい、らくな姿勢がない。安静にしている時もうずく。
・鎮痛剤を1カ月使用しても、がんこな痛みが改善されない。
・転倒や尻もちをついたあと、痛みが取れない。
・痛みやしびれが、お尻からひざ下まで広がる。
・排尿困難がある
・足の脱力がある。
(NHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」より)
なかなか効果が上がらない既存の治療方法
これまで腰痛の治療方法として知られているものですが、ガイドラインなどでは下記のようになっています。結論から言えば、いわゆる原因不明の腰痛(慢性腰痛)に有効であるとされるものは少ないようです。主要なものをまとめてみました。(出典:日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン2012」(南江堂))
・手術はどうか?
診断と原因との関係が明らかにできないことから、手術などが効果があるかどうかは明確にはわかりません。ガイドラインにおいても、ある種の症状に手術が効果があった、ということはあるようです。
ただ、たとえ重いヘルニアがあったとしても、それが腰痛を引き起こしているのかはわかりません。手術は身体にも重い負担をかけることになりますので、慎重に判断する必要があります。
腰痛診療ガイドラインでも、「腰痛に対する手術的治療は、(中略)体系化された認知行動療法より効果があるとは言えない」としています。本当に手術が必要なケースは、排尿障害やしびれによって足などに運動障害が見られるケースに限られます。
・ブロック療法(注射)はどうか?
硬膜外注射、局所注射については、ガイドラインでは、「一定の結論は得られていない」としています。効果は定かではありません。椎間板間接注射、脊髄神経後枝内側枝ブロック、神経根ブロックなどは痛みの軽減に効果があるとされています。
・コルセットなどはどうか?
気になるコルセットなどについてですが、腰痛診療ガイドラインでも、「慢性腰痛に対する腰椎コルセットは、無治療と比較して疼痛及び機能改善に効果が認められていない」としています。
気休めといった程度のようです。装着が腰痛への恐れを助長するようでしたらむしろしないほうがよいかもしれません。
・温熱療法はどうか?
急性の腰痛には有効であるようですが、慢性腰痛についてガイドラインは「エビデンスは存在しない」としています。
・代替治療(マッサージ、カイロプラクティック、整体、針など)はどうか?
代替治療についてもガイドラインは触れています。代替治療は短期的には効果があるようですが、慢性腰痛などについてはいずれも「効果があるとはいえない」としています。
客観的には効果は実証されないようですが、手技などを通じて心理的な不安感やストレスをのぞいたりといった意味はあるかもしれません。
・薬物治療について
薬物治療については、効果があるというエビデンスが示されています。薬物療法は、外用薬や内服薬が用いられます。痛み、炎症をおさえる、脳内の不安や興奮をおさえるものになります。具体的には、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)、抗てんかん薬、抗うつ剤、抗不安薬などが用いられます。
抗不安薬などは、腰痛を直接取るというよりは、腰痛による気分の落ち込みをおさえるためのものです。
以下の記事で、慢性腰痛の原因を、痛みをおさえる脳機能の失調と紹介していますが、薬物療法は本来は脳で生成する伝達物質を補助する役割があります。
変化する腰痛概念~「脊椎の障害」から「生物・心理・社会的疼痛症候群」へ
かつては、「脊椎の障害(解剖学的損傷)」とされてきましたが、明確な証拠がないことや、安静にではなく運動や心理的なケアによって回復率が向上することから、「生物・心理・社会的疼痛症候群」として捉えられるように変化しています。
・脳内にあるDLPFC(背外前頭前野)の機能低下
NHK特集「腰痛革命」でも紹介されて話題となりましたが、スイスのチューリッヒ大学の研究では、腰痛の3分の2は精神的なストレスによるものとしています(NHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」)。
カナダのマギル大学の2011年の研究では、痛みの原因は、脳内にあるDLPFC(背外前頭前野)と呼ばれる部位の活動の低下によって、痛みをおさえることができなくなり、脳内で幻の痛みが持続してしまうことによるとしています。実際に、日本での研究でも慢性腰痛にある人とない人とで比べると慢性腰痛のある人のほうが痛みに敏感であることがわかっています。(慢性腰痛があると、灰白質の体積が減少したり、痛みを緩和させる機能を持つ側坐核の機能が低下していることも明らかになっています。)
・海外では国家レベルで「心理的な痛み」という啓蒙が進んでいる
オーストラリアでは、国家レベルで医療費削減を目指してTV‐CMによる「腰痛に屈するな」キャンペーンが90年代後半に行われ、大きな成果を上げたとされます。そこでのメッセージも腰痛は脊椎の障害ではなく、心理的な痛みであるために、恐れずに運動をしようと呼びかけるものです。多くのケースではその映像を見ただけで痛みが治まっていったのです。
オーストラリアだけではなく、スコットランド、ノルウェー、カナダにおいても同じようなキャンペーンが行われ同様の成果を上げているとされます。
・以前から研究者により指摘されていた
実は、スイスのチューリッヒ大学の研究は今から20年前、オーストラリア政府のキャンペーンも同様に20年も前のものです。そうした取り組みの以前からニューヨーク大学のジョン・E・サーノ教授などが心理・社会的要因によるものと指摘していました。
ようやくさまざまな研究によって裏付けられ、いわゆる腰痛(明らかに事故や腫瘍などが原因ではない)は「生物・心理・社会的疼痛症候群」とされるようになりました。
※腰痛をストレスなどの社会・心理的な要因も考慮するようにガイドラインなどは求めていますが、これは心理主義のように心理的な要因にすべてを還元するようなことを意味するものではありません。これまではあまりに「生物」的要素のみで腰痛を捉えて十分な成果が上がらないことへの反省として、全体を捉えるようにということを意味します。
痛みの感じ方は社会的、心理的に要素で変わる
・痛みは、脳の錯覚や回避により強まる
痛みというのは実は客観的に存在するものではありません。客観的とはいつでも誰にでも同じ程度で感じられるもの、という意味です。人(の認知)や状況によって感じ方は全く変わります。例えば、痛みを11段階に分けて評価して、1まで下がった人でも、それでよしとする人はそのまま0へと落ち着いていきますが、1の痛みにこだわる人は、その後3,4と痛みは徐々に増していくことがわかっています。
痛みを感じるのは脳です。身体の部位はあくまで末端で痛みを伝えるセンサーの役割をはたしているものです。そのため脳が錯覚したり、コンディションが異なると、痛みの感じ方は全く異なります。
実際に、戦場での痛みの感じ方と日常での痛みの感じ方を比較するとその結果は大きく異なるという実験結果があります。状況によっても大きく左右されることがわかっています。
しかし、身体の問題というは物理的で客観的なものだ、という意識があるため、痛みを感じる状況についてなかなか認知を変えることはできません。そのために痛みを恐れて回避することを繰り返して、痛みに弱い脳のコンディションが作られて慢性腰痛を生み出してしまうと考えられています。
・痛がったり、安静にしたりしてはいけない
「痛み行動」といいますが、「イタタッ」と痛がったり顔をしかめたり、患部をおさえたり、姿勢や歩き方を不自由にしたり、といった行動はむしろ痛みを強くしてしまいます。痛み行動をとると、脳がそれに見合う痛みを受けていると錯覚してしまうためだと考えられています。さらに、痛みを感じていることを周囲が気遣うと、学習効果によって強化・維持されていきます。
「痛み行動」には、通院や服薬も含まれます。慢性腰痛の場合は、病院に漫然と通い続けること自体が痛みを強化しているケースもあるのです。
「痛み行動」の中で最も多いものの一つは安静です。腰痛治療のガイドラインでも、「安静は必ずしも有効な治療法とはいえない。」「急性の痛みがあっても、なるべく普段の活動性を維持することは、より早い痛みの改善につながり、休業期間の短縮とその後の再発減少にも効果的である。」「休業する期間が長ければ長いほど、職場復帰の可能性は低くなる」としています。
海外のガイドラインでも、安静することは有効ではない、とするとされています。つまり、安静にすることで、痛みの回避や恐怖心の増幅につながり、より痛みが慢性化するおそれがあるということです。
急性、慢性ともに腰痛の際は、重篤な疾患やあきらかな外傷がなければ、安静にせず、無理のない範囲で活動を続けることがより早く痛みを鎮めることにつながります。
脳がもたらす幻の痛み(腰痛)を作り出すメカニズム~ドーパミンシステムの機能低下
1.炎症やストレスなど何らかの要因によって腰に痛みが生じます
2.脳に伝わり、神経細胞が興奮する
3.DLPFC(痛みをコントロールする脳の部位)が神経細胞の興奮をしずめる
4.痛みを回避しようとする恐怖心を持ち続ける
5.DLPFCが恐怖心をおさえようとして活動を続けて、次第にDLPFCの機能が衰えはじめる
6.DLPFCが衰えて神経細胞の興奮をおさえられず、脳の神経細胞が興奮をし続けて、幻の痛みが持続する
最初の痛みを実際の炎症と見る考え方もあれば、心身症としてストレスが引き起こしている、とする研究者もいます。
診断名には惑わされない
・根拠なくつけられる診断名も多い
「椎間板ヘルニア」「腰椎すべり症」といった名前を耳にしたことがあるかと思います。
しかし、実はこれらは、医師が現場で便宜的につけたもので、腰痛の診断名としては根拠のないものであることが多いとされます。それどころか、本来外科的な医療の対象ではないものまで医療の対象としてしまっているのでは、という懸念が指摘されています。
腰痛に関する知見をまとめた『菊地臣一「腰痛 :第2版」(医学書院)』の中でも、下記のように記されています。
「腰痛の診断の多くは、病理学的な客観的概念に基づいているものではなく、臨床医の考え方を表しているものが多いというところである」「すなわち、便宜上つけられた診断名が、腰痛を医療の対象にしてしまっている可能性が危惧されている。」「診断名に対する科学的な根拠は不十分と言わざるを得ない。」「米国での腰痛の診療ガイドラインも、椎間関節症、変形性脊椎症、腰椎椎間板症、挫傷、などの疾患名は、症状との関連性については何ら科学的な根拠は提示されていないことを指摘している。」「日常診療上、椎間関節、椎間板に起因する疼痛を臨床的に正確に診断することは不可能である。」「不正確な分類、例えば「損傷」などが腰痛による活動障害を助長している可能性も指摘されている。」「椎間板や脊椎の損傷とか、椎間板の突出といった言葉が、患者に「病的な変化」とか「外傷」とかという印象を与え、無用な不安をかき立てている」「患者はそのような診断名が腰痛の原因であるとそのままうけとめてしまう」
英国の診療ガイドラインでは、
「腰痛患者には前向きな助言を与え、悲観的な説明を避けるように」としています。
つまり、念のために診断を受けることは必要ですが、そこで提示される診断名を真に受けることはできないようです。治療者の考え方によって科学的な根拠のない診断名が付くことがあったり、自らが提供している改善法の前提としての診断名をつけるということもあるようです。
・診断名は適切に受け止める
「腰痛症」「坐骨神経痛」「腰椎捻挫」「腰椎すべり症」というのは腰痛があるということ以外に何も示していませんし、「腰椎すべり症」、「椎間板ヘルニア」や「脊柱管狭窄症」についてもそれが腰痛の原因かどうかはわかりません。ヘルニアの9割は自然に回復するとされます。そうした診断名が下ったとしても、あくまで便宜的なものとして、適切な受け止め方が必要です。
結論から言えば、腫瘍などあきらかに重篤な疾患との関連が明らかにならなければ、検査で示される背骨のゆがみや椎間板の問題は、腰痛の原因ではないということです。非特異的腰痛の場合、別の記事(「慢性腰痛の治し方を公認心理師が解説~脳や心理へのアプローチ」)でまとめるような、心理療法、運動療法、場合によっては薬物療法をまずは第一選択とすることが適切です。
→腰痛の治し方については、下記をご覧ください。
▶「慢性腰痛の治し方を公認心理師が解説~脳や心理へのアプローチ」
※サイト内のコンテンツを転載などでご利用の際はお手数ですが出典元として当サイト名の記載、あるいはリンクをお願い致します。
(参考・出典)
日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン2012」(南江堂)
菊地臣一「腰痛 :第2版」(医学書院)
NHKスペシャル取材班「脳で治す腰痛 DVDブック」
ジョン E.サーノ「心はなぜ腰痛を選ぶのか―サーノ博士の心身症治療プログラム」(春秋社)
長谷川淳史「腰痛ガイドブック -根拠に基づく治療戦略」(春秋社)
長谷川淳史「腰痛は<怒り>である 普及版」(春秋社)
菊地臣一「腰痛 -なぜ治らないあなたの痛み-(別冊NHKきょうの健康)」
菊地臣一「長引く腰痛は“脳の錯覚”だった -名医が教える最新の腰痛改善・克服法」(朝日新聞社)
など