大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説

大人の発達障害、アスペルガー症候群とは何か?公認心理師が本質を解説

発達障害

 近年、急速に知られるようになった発達障害、アスペルガー障害ですが、奥が深く、正しく理解しようとするにはなかなか難しいテーマです。当センターでは、医師の監修のもと公認心理師が発達障害、アスペルガー障害を深く理解できるように解説してまいります。よろしければご覧ください。

 

<作成日2016.2.4/最終更新日2022.6.7>

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この記事の執筆者

三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師

大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了

20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。

プロフィールの詳細はこちら

   

この記事の医療監修

飯島 慶郎 医師(心療内科、など)

心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら

<記事執筆ポリシー>

 ・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。

 ・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。

 ・可能な限り最新の知見の更新に努めています。

 

 

もくじ

大きく変わる?!臨床心理学
あなたの悩みが治りにくいなら~発達特性のせいかも

私たちは皆、発達障害である
天才や才能を生む「発達凸凹」

ステレオタイプで誤解される大人の発達障害
運動音痴、味音痴は発達障害?

異文化としての発達凸凹

”定型発達症候群”
”デュアルモード”としての人間
あらためて発達障害(Developmental disability)とは何か?

発達凸凹は発達する~それぞれのスタイルで成熟していく

 

 →大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴や診断については、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群かどうか診断、判断するポイント

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説

 

専門家(公認心理師)の解説

 トラウマ臨床の観点からは、発達障害とトラウマとはとても良く似ていて親和性があります。実際にトラウマケアを行っても、発達障害の方はとても効果がありますし、問題の根っこは実は共通しているのではないか、と感じます。ただし、接してみると発達障害の方とトラウマを負った方とでは雰囲気が異なり、ある程度肌感覚で区別することができます(グレーゾーンや、ADHDの方などは判断が難しいケースはあります)。

 発達障害があるために問題を起こしやすいといったようなとらえ方がありますが、大きな問題が生じるケースは根底に愛着の問題を抱えているケースです。発達の凸凹がレンズの役割をし愛着不安を増幅させた場合に大きな問題となって現れます。一方、愛着が安定していると、発達の凸凹はその方の資質、特徴となります。例えば、人の気持がわからない、というのも人の気持に左右されないことで人格者のように冷静な判断ができたりというようなことにつながったり、独特な敏感さは仕事における才能として発揮されたりするようになります。

 

 

 

 

大きく変わる?!臨床心理学

 臨床心理学は基本的に、定型発達の方が悩みや疾患に陥る、というモデルで作られているとされます。一般的な悩みを“神経症”、精神疾患として“統合失調症”あるいは“双極性障害”、“うつ病”、それらの間にあるよくわからないややこしい症状は“境界例(パーソナリティ障害)”としてきました。

 

・“発達(障害)”という視点の導入

 しかし、近年、“発達(障害)”という視点を導入することで、これまでは対応が難しいケース、非定型的なケース、境界例、パーソナリティ障害、例えば統合失調症と診断していたものの多くが「実は“発達障害”なのでは」と言われるようになってきました。

 つまり、これまでは定型発達の人を基準に考えていたために、それにあてはまらないものは「境界例」「非定型」、理解できない人たちは「パーソナリティ障害」とされ、本当は発達(障害)による特徴を見逃してきたのではないか、ということです。

 

・見直される”難しい症例”

 パーソナリティ障害だけではありません。
 「いろんな療法を試したけど自分はなぜか良くならない」
 「良くなっては元に戻ってを繰り返す」
 「慢性化して、ずっと悩みを抱えてモヤモヤしている」

 といったさまざまなケースで、“発達”という視点からあらためて悩みを見なおしてみようという取り組みが進んできています。

 実際に、発達という視点を持って取り組むと、それまで動かなかったケースが大きく改善するようになる事が珍しくないのです。

 

 精神科医で川崎医科大学の青木省三教授は「これまでの成人精神医学に大幅な変更を求めるものになるだろう」と述べています(出典:青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院))。

 

 発達障害というのは、決して特殊な人の出来事ではなく、私たち全てに当てはまることです。私たちは皆、発達に特徴があり、人類のすべての人が少なからず発達障害であるといえます。私たちの生きる中で感じる悩み、生きづらさについても、“発達(発達特性)”という視点を踏まえることで理解しやすくなります。

 

 

 

あなたの悩みが治りにくいなら~発達特性のせいかも

 あなたの悩みが治りにくいなら、それは、ひょっとしたらあなたの発達特性に起因するものかもしれません。

 

 例えば
 ・生きづらさをずっと抱えて生きている。
 ・人間関係がうまく行かず、職場を転々としている。
 ・うつ病と診断されたけども、治りにくい。
 ・幻聴が聞こえるのだけれども、統合失調症そのものではないみたい。
 など 

 

 発達という視点を持って治療に取り組んだ途端、良くなるということは珍しくありません。

 ただ、くれぐれも、あなたの悩みが治りにくく、“発達”の視点を持って治ったとしても、たちまちあなたが発達障害、ということではありません。発達という視点を通じて取り組むというのは、あなたの個性や特性を理解するということです。

 

 

 

私たちは皆、発達障害である

 大きく誤解されていることですが、発達障害とは特殊なことや異常ではありません。発達障害の専門家も口をそろえて言いますが、私たち人間は皆、”発達障害”なのです。ただ、その程度や特徴が異なったり、現在の環境でたまたま問題になっていないだけです。

 

・「負けず嫌い」「こだわり」

 例えば、スポーツ選手は「負けず嫌い」な人が多く、勝ちにこだわることが良いとされます。異常なくらい負けず嫌いな人もたくさんいらっしゃいます。しかし、この負けず嫌いは明らかな発達障害の特徴といえるものです。一般の仕事においても、「こだわりを持て」といわれます。この“こだわり”というのは発達障害の代表的な特徴です。  

 

・日常でも感じる傑出した能力や特徴

 過去の会議での発言などをはっきり覚えているような驚異的な記憶力を持つような人がいらっしゃいます。感情に流されず意思決定ができたり、とても論理的に話ができたりする方もいらっしゃいます。ビジネスマンとしては羨ましい能力です。実は、こららも発達障害で見られるとされる特徴です。

 こうしたこと以外にも日常のコミュニケーションで相手とズレを感じたりすることってないでしょうか?常識的だと思っていた人とのやり取りでこちらの“常識”が通用しなくて驚くことはないでしょうか?

 

・ややこしい人たち

 ややこしい上司、面倒くさいお客さん、使いづらい部下、こうした人たちが実は“発達”という問題が背景にあると知ったらいかがでしょうか?そして、私たち自身も違和感を感じていたことが“発達”によるものだとしたらどう思いますか。

 

・誰にでもある「発達凸凹」

 最近では、発達障害という言葉は適切ではないとして、「非定型発達」「発達特性」と呼ばれたり、「発達凸凹」と呼ばれています。いわゆる発達障害ではない人のことを「定型発達」といいます。本記事でも、わかりやすくするために「発達障害」という言葉を用いていますが、基本的には誰にでもある「発達凸凹」という意味になります。発達凸凹は誰にでもあるもので、私たちの生き方の土台となっているものです。

 

 

 

天才や才能を生む「発達凸凹」

・才能の宝庫

 発達凸凹(発達特性)は、才能の宝庫と言えます。歴史上の有名な科学者や芸術家などは、かなりの割合で発達障害の方がいることがわかっています。ビル・ゲイツがアスペルガー障害というのは有名ですが、ニュートン、ヴィトゲンシュタイン、ガウディ、ゴッホ、アインシュタイン、エジソン、リンカーン、ヘミングウェイなどもそうです。トム・クルーズ、スピルバーグは学習障害で知られるなど、発達障害の有名人として、そうそうたるメンバーの名前が挙がります。

 高機能な発達障害であるアスペルガー障害の別名は、「シリコンバレー症候群」とも呼ばれ、IT産業などの社員の何割かが当てはまるのではないか?と言われています。大学の研究者などでも該当する人は、たくさんいらっしゃいます。

 

・支障がなければ”障害”ではない

 有名な人を全て挙げていくと、「もはやそれって、“障害”って呼べるの?単なる特徴じゃないの?」と思えてきます。その通りです。社会生活に支障がなければ、どれだけ発達障害の診断基準に当てはまったとしても「発達障害」ではありません。

 「正常」の定義が正規分布の平均に近い状態であり、「異常」が平均から外れたもの、とするならば、才能のある人は、皆、「異常」とされてしまいます。160キロの球を投げることができる野球の投手は平均を外れた規格外な特徴ですが、それが生かせれば「才能」になり、生きていく妨げとなればそれは「障害」となります。

 

 

 

ステレオタイプで誤解される大人の発達障害

・はん濫するステレオタイプ

 本屋さんには「大人の発達障害」「アスペルガー障害かも?」といったタイトルの本がたくさん並ぶようになりました。要は、「職場で空気が読めない変な人がいると思っていたけど、実はあの人はアスペルガー障害なんだ」ということを面白おかしく書いた本です。

 そうした本の内容は、明らかに間違っているわけではありません。そこで記されている特徴も、DSM(アメリカ精神医学会の診断マニュアル)などで挙げられているものを踏まえています。しかし、例えて言えば、「アメリカ人は皆、ハンバーガーを食べている」「日本人は背が低い」というような表現に似ていて、確かにそうかもしれないけど、そのもの全体を表現しているとはいえません。

 

・発達障害は専門家でも全貌を捉えることが難しい

 発達障害は研究が広範にわたり、その理解も難しいため、第一線の専門家でも全貌をとらえることが難しいとされています。実は医師やカウンセラーでも発達障害について十分に理解できておらず、硬直的な知識、情報をクライアント側に伝えてしまっている場合もあります。

 

・とても多様な発達

 発達というのは、想像以上に多様なものです。特に、日本では昭和40年以降、1歳未満、1歳6カ月、3歳と乳幼児健診が行われています。また、小学校、中学校と義務教育もあります。典型的な発達障害であれば、そこで見つかることが多いです。

 そのため、大人の発達障害とはそもそも明らかな障害ではないもの、軽症であり、環境やコンディションによっては障害とは言えないもの、典型的ではない多様なものなのです。

 

 

 

運動音痴、味音痴は発達障害?

 障害の定義とは、「身体障害、精神薄弱又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。」(障害者基本法)とされています。

 社会生活が問題とされるため、発達障害の定義も、社会適応がクローズアップされています。しかし、実は、発達の凸凹はあらゆるところに及ぶのです。

 

・運動音痴は障害か?

 例えば、バラエティ番組で、芸人が自身の運動神経の悪いことをネタにして笑いを取るものがあります。
「なんでこんな簡単なことができないのか?」と思うような簡単な運動、スポーツもうまくできず失敗してしまいます。

 そもそも芸人の人口は現在、何千、何万人もいるとされ、テレビに出ることができるのは本の一握りの才能の持ち主たちです。テレビに出ることができている時点でとてもすごいことです。

 しかし、運動という領域では全く動けない。発達が凸凹しているのです。もし、スポーツを仕事とする世界に生きていたら間違いなく「発達障害」とされてしまうでしょう。簡単なこともできないことをもって、脳を検査されて「あれがおかしい、これもおかしい」とされてしまうかもしれません。しかし、幸いにも運動・スポーツは日常生活を生きる上でメインの活動ではないために、運動神経の悪い人たちは「発達障害」とは見なされません。

 

 

・味覚音痴も障害なの?

 会社員として活躍している味覚音痴の人が、もし料理人の世界に進んだらどうでしょうか?細かな味がわからない。料理人として当たり前のことが苦手だとします。その人は、“味”という能力の発達に凸凹がある。あるいは発達が遅れている。そのため「社会生活に相当な制限を受け」、彼は活躍できず、「発達障害」とされてしまいます。

 はたまた、方向音痴の人がタクシードライバーに転職したらどうでしょうか。道を間違えて、たちまちその仕事で不適応を起こしてしまうでしょう。

 

 

・完璧な”定型発達”など存在しない

 このように発達というのは皆、凸凹しているものなのです。“定型発達”とはあくまで架空の概念であって、完璧な定型発達というのはこの世には存在しないものです。
(もし存在すれば、それ自体がまれなために“非定型”な存在とされてしまうでしょう。)

 私たちはつい「会社での仕事が社会人の仕事のスタンダード」と思い込んでしまっています。会社の仕事は、世の中の多様な仕事のうちのほんの一握りに過ぎません。事務仕事、計算や段取りを組んだり、交渉したり、接客したり・・・人間ですから、運動や味覚と同じように苦手があって当たり前です。しかし、現代社会では、そうしたことが不得手だと「発達障害」とされてしまいます。

 同じ人がもし、農業や漁業に進んだらそうは見なされなくなるかもしれません。実際に、発達障害の方が、農業、漁業に転職して活躍されるといったことはあります。

 

 こうした例からも、世にあふれる「大人の発達障害」といったテーマの本がいかに全体像を表していないかがわかります。

 

 

(参考)精神障害における「障害」という概念について

・「精神障害」は、身体障害の「障害」とは異なる

 精神障害における「障害」とは、「disorder」という英語の訳で、身体障害における「障害(disability)」とは、異なる概念です。疾患(disease)や病気(illness)までに至らない「変調状態」を指します。そのため、改善できないもの、不可逆のものではなくケアによって変わり得る状態を指しています。日本語訳を「障害」としてことについてはイメージからくる問題も指摘されていますが、定訳のために一般的には「~~障害」という語が使用されています。

 たとえば、「愛着障害」であれば、「愛着変調」あるいは「愛着不全」というようなニュアンスだとお受取りください。

 

 

 

異文化としての発達凸凹

 発達のもう一つの側面は「異文化」である、ということです。発達凸凹は誰にでもあり、実は異文化の者同士が構造化された環境を介してコミュニケーションを取りながら、社会は成り立っています。

 

・日本人同士でも皆、文化は異なる

 環境の構造化が十分ではない組織やコミュニティでは、途端にあつれきや違和感が表面化します。たとえば、仕事をしていても、「なんでこんな簡単なことがわからないの?伝わらないの?理解してもらえないの?」と感じることはないでしょうか? 実は、それは私たちは同じ日本人同士であっても発達に凸凹があり、異文化であるためです。上記でも書きましたが、その凸凹がその時の社会の”基準”とされるものから見て相対的に少ない人たちを「定型発達」と言い、多い人たちを「非定型発達(アスペルガー障害や自閉症など)」と言います。

 

・異文化ではあっても、異常ではない

 異文化理解というのは、よく知られるように、相手を理解するという美談のような良いことばかりではありません。ときに生理的な違和感(怖れ、嫌悪感)を感じながらの関わりでもあります。特に、まさに明らかにアスペルガー障害などになると異文化の度合いは強く、当事者も自らや相手を指して「異星人同士のよう」と言うほどに、考え方、感じ方が異なります。もちろん、究極的に見れば、どちらが異常ということもないのです。

 

 

 

”定型発達症候群”

 研究者の千住淳氏が著書(「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房))の中で書いていることですが、”定型発達症候群”という俗称があります。これは、問題のないとされる定型発達の窮屈な実態を半ば冗談で表現したものです。

 

1.社会的に独立することの困難さ

 他人の気持ちを自分のことのように感じるという幻想。他人との過剰な接触を求める。同じ定型発達の友人を求め、そうではない人とは関係を築くことが困難である。

 

2.コミュニケーションや創造性における困難さ

 コミュニケーションにおいて、あいまいな表現や、冗長な行動、ウソ、表情やしぐさの多用などが見られ、しっかりとした論理を持つことができない。自分の主観や推測を排してロジカルに考えることが苦手。

 

3.幅の狭い興味や活動

 微細な感覚や物事の細部に気がつけない。同じ行動を繰り返す常同行動が理解できない。必要もないブランド品や機能性のないもののこだわり、集団の中での立ち位置を気にしたり、いいところを見せたり、限られた社会的場面にしか興味を持てない。

 このように、あいまいで、特に対人関係に異常にこだわり、自分でコントロールできないくらい気をつかい、それで疲弊することもある私たちの姿は胸を張って「自分たちこそ正常」とは言えません。単に”多数派のモード”であるというだけです。 

 

 

 

”デュアルモード”としての人間

 私たちが、普段使用しているパソコンやスマホ、タブレットなどは、WindowsやAndroid などが搭載されています。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、もともとパソコンは、黒い(青い)画面に、コマンドを打ち込んで操作するものでした。プログラムを組んだりするような作業もそうです。

 

・グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)

 しかし、スティーブ・ジョブズなどがマッキントッシュを販売したり、Windowsが発売されるようになると、私たちも見慣れている「グラフィカルユーザインタフェース(GUI)」、つまり、マウスやタッチパネルで視覚的に、直感的にアナログに操作できるようになりました。おかげで、コンピューターにくわしくない人でも簡単に扱えるようになり、今に至ります。 一方、あまり関係のない、見た目、デザインに意識を取られることがあります。

 

 

 

 グラフィカルユーザインタフェース(GUI)の裏では、昔からあるようなコマンドが実行されるようなモードも用意されています。パソコンが不調になると、黒い(青い)画面のモードが立ち上がり、そこで昔ながらの操作を要求されたりするのを見たことのある方も少なくないかと思います。

 

・テキストユーザインタフェース(TUI)

 「テキストユーザインタフェース(TUI)」といいますが、このインターフェースでは、あいまいな指示や直感的な操作は通用しません。一字一句間違いなく、命令を打ち込まないとコンピューターは理解してくれません。

 

 

 発達障害も、まさにこれと似ています。グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)とは定型発達の人が感じている世界、コマンドを打ち込んで実行していくテキストインターフェース(TUI)は非定型発達の人が感じている世界。

 

・インターフェースが制限されている

 大多数の人間や社会は、直感的なインターフェースを前提として作られていますが、発達障害ではそのモードがありません。あっても、制限されています。そして、実は、最新のスマホやパソコンでも、裏側ではコマンドで実行する黒い(青い)モードも存在しています。

 

・定型発達でも、ストレスにさらされるとモードが変わる

 実際、定型発達の人も、自分に不利な環境や、強い不安、緊張にさいなまれる場面で強いストレス、トラウマを負うと、発達障害様の状態となり、コミュニケーションや認知が制限されるようになります。不調をきたしたパソコンがセーフティーモード、DOSモード(黒い画面)が立ち上がるのととてもよく似ています。

 

・正確でダイレクトでもある

 ただ、テキストインターフェース(TUI)そのものは異常でもなんでもありません。使い方によってはグラフィックに振り回されず正確でとても便利なものです。ビジュアルを介さずにプログラムソースにダイレクトにアクセスすることができたりもします。

 

 このように、定型発達者でもデュアルモード(2重のモード)として非定型発達(発達障害)と同様の世界も持ち合わせていると考えられます。そのため、発達障害とされる特性も人類にとっては必須の性質といえそうです。

 

 

 

 

あらためて発達障害(Developmental disability)とは何か?

・定義とその種類

 ここで、発達障害(Developmental disability)とは何か?を簡単にまとめてみたいと思います。

 発達障害の権威である杉山登志郎教授は、「発達障害とは、子どもの発達途上において、何らかの理由により、発達の特定の領域に、社会的な適応上の問題を引き起こす可能性がある凹凸を生じたもの」と定義し、

 「発達障害=発達凸凹+適応障害(適応反応症)」

 と表現しています。

 適応障害(適応反応症)があることが前提ですから、たとえ検査で明らかに問題があったとしても、本人や周囲が不具合を抱えていなければ「発達障害」とは言えません。

 

 

・種類

 発達障害は代表的なものとして以下の4つのものがあります。上記にも書きましたように、あくまで大くくりな診断名ですから、個々のケースの特徴を理解する必要があります。

 

・自閉症スペクトラム障害(自閉症、アスペルガー障害が含まれます。)

  社会的行動やコミュニケーション、認知に問題がある。

・注意欠陥多動性障害

  不注意や衝動性などに問題がある。

・学習障害(LD)

  読み書き、計算などに問題がある。

・精神発達遅滞

 

 それぞれの障害は、併発することも多く、自閉症スペクトラム障害とADHDを併発したりということも多いとされます。知的障害と併発がある場合もあります。

 

(参考)名称について

 「自閉症」「アスペルガー障害」「高機能自閉症」「広汎性発達障害」「自閉症スペクトラム障害」とさまざまな名称があり、同じようで同じではないなどこれも初学者には混乱の元となっています。なぜ名称がさまざまに存在しているかというと、研究者や機関によって捉え方や概念が異なることが大きな原因です。ですから、ほとんど同じといってよい場合でも完全な互換性がないのです。例えば、「高機能自閉症」と「アスペルガー障害」とはほぼ同じといってよいと考えられますが、その起こりが異なるために、全く同じといえないといったようなことです。

 現時点で、最も用いやすいのは、「自閉症スペクトラム障害」という概念です。その中には、定型発達から非定型発達まで連続体としてとらえられており、非定型発達の一番重いものに自閉症が位置します。

 非定型発達の特徴には次の項目にある三つ組がすべてありますが、その中で明らかな言語障害がないものが「アスペルガー障害」、言語障害が見られるものが「自閉症」という分け方になります。より細かな症状、特徴はケースによってさまざまになります。

 

・原因

 発達障害というのは人類の起こりからあったと考えられますが、明らかにとらえられるようになったのは、ごく最近のことです。自閉症については、レオ・カナーが論文を発表した1943年、アスペルガー症候群に至っては1980年代に入って認知されるようになりました。そのため、まだまだ分からないことが多いです。また研究も広範に及ぶために、研究者でさえ、もはや全体像は捉えることは困難であるといわれています。

 

・かつては母の養育に原因とされた

 発達障害は、かつては「冷蔵庫マザー」というように、母親の養育のせいだと考えられていましたが、今は明確に否定されています。

 

 

・遺伝と環境の相互作用

 ただ、全くの生まれつきかというとそうではありません。「遺伝と環境の相互作用」というように理解されています。また、例えば、発達障害の方を100人集めても、100通りの違いがあると言われています。それほど、発達障害は多様で複合的です。また、遺伝子は環境によってスイッチのオンオフがあることが知られています。環境の負因が重なると特徴が目立ってくる、ということがあります。

 

 そのため、生まれつきでどうしようもなく固定された「障害」とはとらえないほうが良いです。英語では、「ディスオーダー」といい「失調」という日本語のほうが適切です。

 

 

・「障害」ではなく、”発達の遅れ”

 ”発達”障害というように、発達障害とは発達の非定型さともう一つ「発達の遅れ」ということもあります。そのため発達障害の人は普通の人よりも遅れて発達していきます。特に子供の場合、ある年齢を境に急に能力が伸びたり、といったことも報告されています。大人の場合も環境が適していれば晩熟していきますが、自覚がなく不利な環境で過ごすと歳とともに不適応を強め、苦しくなっていきます。

 

 

 

発達凸凹は発達する~それぞれのスタイルで成熟していく

 発達凸凹とは非定型であることもありますが、もう一つの特徴は「発達の時間的な遅れ・多様さ」です。ですから、「発達障害は治らない」というのは間違いで、それぞれのスタイルで遅れて発達してくるものであるという側面もあります。
 
 実際に、幼いころに自閉症、発達障害とされた人でも社会で活躍されている方はたくさんいらっしゃいます。幼いころのまま、症状が固定されているということはありません。

 

 精神科医の神田橋條治氏は「発達障害は発達する」と呼んでいます。年齢とともに発達していき、それぞれに成熟していくのです。

 

 「大器晩成」「晩熟」と呼ばれる人たちも、ある意味で発達が遅れてきている人たちだとも言われています。

 適切な環境を選択し、また成熟して適応できれば、それはもはや「障害」ではないのです。何度も繰り返しますが、発達障害は誰にでもあるものです。

 ただし、ADHDやLD(学習障害)は、歳とともに自然と改善されていくことが多いことに比べて、ASD(自閉症スペクトラム障害)の場合は放っておくと、深刻になっていくことも多いとされます。適切な支援が求められます。

 

 

 

 →大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴や診断については、下記をご覧ください。

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群かどうか診断、判断するポイント

 ▶「大人の発達障害、アスペルガー症候群の症状、特徴~公認心理師が具体的に解説

 

 

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(参考・出典)

 青木省三、村上伸治「大人の発達障害を診るということ」(医学書院)
 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社)
 杉山登志郎「発達障害のいま」(講談社)
 備瀬哲弘「大人の発達障害」(マキノ出版)
 本田秀夫「自閉症スペクトラム障害が分かる本」(講談社)
 平岩幹男「自閉症スペクトラム障害」(岩波書店)
 神田橋條治ほか「発達障害は治りますか?」(花風社)

 神田橋條治「神田橋條治 医学部講義」(創元社)
 杉山登志郎「子ども虐待という第四の発達障害」(学研)
 ドナ・ウィリアムズ「ドナ・ウィリアムズの自閉症の豊かな世界」(明石書店)

 広沢正孝「「こころの構造」からみた精神病理 広汎性発達障害と統合失調症をめぐって」(岩崎学術出版社)

 ローナ・ウィング「自閉症スペクトル」(東京書籍)

 テンプル・グランディン「自閉症の脳を読み解く」(NHK出版)

 田中千穂子ほか「発達障害の心理臨床」(有斐閣)

 杉山登志郎「発達障害の豊かな世界」(日本評論社)

 ニキリンコ「俺ルール!」(花風社)

 ニキリンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社)

 千住淳「自閉症スペクトラムとは何か?」(筑摩書房)

 宮岡等、内山登起夫「大人の発達障害ってそういうことだったのか」(医学書院)

 内海健「自閉症スペクトラムの精神病理」(医学書院)

 高橋和巳「消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ」(筑摩書房)

 黒田洋一郎 木村- 黒田純子「発達障害の原因と発症メカニズム」(河出書房新社)

など