医師の監修のもと公認心理師が、日本人に多いとされる視線恐怖症の治し方についてわかりやすくまとめてみました。
<作成日2024.2.9/最終更新日2024.5.26>
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この記事の執筆者三木 一太朗(みきいちたろう) 公認心理師 大阪大学卒 大阪大学大学院修士課程修了 20年以上にわたり心理臨床に携わる。様々な悩み、生きづらさの原因となるトラウマ、愛着障害が専門。『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』など書籍、テレビ番組への出演、ドラマの制作協力・監修、ウェブメディア、雑誌への掲載、多数。 |
この記事の医療監修飯島 慶郎 医師(心療内科、など) 心療内科のみならず、臨床心理士、漢方医、総合診療医でもあり、各分野に精通。特に不定愁訴、自律神経失調症治療を専門としています。プロフィールの詳細はこちら |
<記事執筆ポリシー>
・公認心理師が長年の臨床経験やクライアントの体験を元に(特に愛着やトラウマ臨床の視点から)記述、解説、ポイント提示を行っています。
・管見の限り専門の書籍や客観的なデータを参考にしています。
・可能な限り最新の知見の更新に努めています。
もくじ
・専門家(公認心理師)の解説
・薬物療法
・心理療法
・その他(有酸素運動)
→視線恐怖症の特徴や原因については、下記をご覧ください。
▶「視線恐怖症(脇見恐怖、正視恐怖)とは何か? 原因と特徴」
ここでは、視線恐怖症の治し方をまとめています。ご覧いただくのに先立ち、治すためのポイントを解説させていただきます。
まず、臨床現場では様々なお悩みに対応していますが、数ある症状の中でも視線恐怖症は手強い症状の1つといえます。症状の印象からは難しくないように見えますが、その印象に比して改善の動きがとても緩慢です。
視線恐怖症の原因として、生まれ持っての気質やホルモンなどの心理、身体的な要因から、環境要因など様々なことが考えられます。その中でも注目されるのが、自我の適応不全(未成熟さ)という問題です。環境の変化で悩んでいる方や、特に若者に多く見られることから、環境への適応の難しさやストレスが視線に代表して現れている(症状化している)ことが考えられます。そのため、改善のためには、心理療法に取り組む際も、単に症状を抑える、考え方を変える、ということだけではなく、「自我の成熟」に焦点を当てることがとても大切です。現在ストレスとなっている環境がどのようなもので、自身としてはどのようにそれをとらえて対応を変えていくのか?ということを吟味することが重要です。
薬物療法は、過度な不安や神経の興奮などを抑える働きがあります。ただ、原則として薬は「浮き輪」のようにその方を支えるものであり、心の悩みの改善には生き方、考え方の転換が必要になります。
視線恐怖症を克服する方法
・薬物療法
・SSRI
抗うつ剤として登場した薬です。神経伝達物質であるセロトニンが減少している場合に効果があります。
・抗不安薬
抗不安薬とは、神経伝達物質であるGABAの働きを強めることで神経の興奮をおさえるものです。SSRIと違い依存性や耐性が生じるため、長期間の服用は避けることが必要とされます。
(参考)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)日経メディカル
ベンゾジアゼピン系抗不安薬 日経メディカル
セロトニン作動性抗不安薬 日経メディカル
薬物療法は症状が強い場合に用いられます。あくまで補助的な手段で、解決するためには精神(心理)療法やライフスタイルのパターンを変えることが大切です。
・心理療法
・認知行動療法
認知、考え方を客観的にとらえて、修正を行うものです。自分や他人の「視線」の持つ意味や解釈を修正することで、視線恐怖を和らげることができます。
例えば、「相手は自分のことを変だと思っている。だから見ている」という考えがあれば、そのことに対してそれが現実的な考えなのか、をカウンセラーとともに吟味して、修正を図っていきます。
・エクスポージャー(暴露)
エクスポージャーとは人間の身体の恒常性維持機能を利用する方法です。
恐怖を回避せずに、直面することで、徐々に恐怖に慣れ、脳のセンサーを適切な状態へと修正していくものです。
・森田療法
対人恐怖症や視線恐怖恐怖症については、日本では森田療法が用いられてきました。
・トラウマケア
背景に、愛着障害やトラウマが疑われることも多く、その場合はトラウマケア(ソマティック・エクスペリエンシング・アプローチ、ハコミセラピー、トラウマ解放エクササイズ、ブレインジム、TFT、フラワーエッセンス、FAP療法、など)が非常に有効です。
→参考となる記事はこちらをご覧ください。
▶「トラウマ(発達性トラウマ)、PTSD/複雑性PTSDとは何か?原因と症状」
認知行動療法や暴露療法は、書籍を参考にセルフケアとして、あるいは医師カウンセラーの指導のもとに行うなど取り組みやすい方法です。解説にも書きましたが、その際は「自我の成熟」が重要なポイントになるケースが多いです。トラウマや愛着障害が疑われるかどうかは、専門のカウンセラーなどに生育歴などを聴取をお願いしてみるとよいでしょう。
・その他
・有酸素運動(運動療法)
運動療法とは、有酸素運動などを行い、脳や身体の機能を改善、回復させるものです。さまざまな精神障害の改善にも高い効果があることがわかっています。
運動の効果として明らかになっているのは、まず脳内のニューロンの新生が活発になり認知機能が改善することです。ラットの実験では、ニューロンの新生は3、4倍になることがわかっています。次にシナプスの可塑性や伝達効率が上がるなど、脳内伝達物質の循環も活性化されます。また、運動を通じて自分の身体感覚が戻り、自律神経系、免疫系、内分泌系といった身体の機能が回復すると考えられています。
(例えば、うつ病の治療でも、統計上あらゆる療法の中で最も効果が高い方法は運動療法です。副作用もなく、再発もわずかとされます。)
有酸素運動といってもハードな運動は必要ありません。週に2、3日30分程度ウォーキングを行うだけで大丈夫です。日中外に出ることが難しい場合は、夜中に歩く、屋内でのヨガ、ピラティスなども効果的です。最近であればYoutubeなどの動画を見ながら簡単に自分でヨガを行うことができます。
有酸素運動は、決して気休めや道徳的な助言ではありません。非常に高い効果が見込めますので、すべての方に必ず取組んでいただきたいセルフケアの方法の1つです。
→視線恐怖症の特徴や原因については、下記をご覧ください。
▶「視線恐怖症(脇見恐怖、正視恐怖)とは何か? 原因と特徴」
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(参考・出典)
笠原敏彦「対人恐怖と社会不安障害」(金剛出版)
貝谷久宣「社会不安障害のすべてがわかる本」(講談社)
水島広子「正しく知る不安障害」(技術評論社)
クレア・ウィークス「不安のメカニズム」(筑摩書房)
クリフトフ・アンドレ、パトリック・レジュロン「他人がこわい」(紀伊國屋書店)
大野裕「不安症を治す」(幻冬舎)
「DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院)
など